Robert Sawatzky
2021年9月28日

巣ごもり消費 日本の家電ブランドに追い風

「日本のトップ100ブランド」はパナソニックが首位を維持。ソニーやシャープ、日立といった国内大手家電メーカーも世界的IT企業を凌いだ。

巣ごもり消費 日本の家電ブランドに追い風

この10余年間というもの、日本の大手家電ブランドに関するニュースは概して暗いものだった。韓国や中国、台湾企業との競争にさらされ、エンターテインメント業界はモバイルアプリにシフト。国内ブランドは一般消費者向けの製品・サービスから、B2Bへの転換を迫られた。その結果、消費財部門のコスト・人員削減、事業撤退といった発表が相次いだ。

以下の図をご覧いただきたい。Campaignの消費者調査によるブランドランキングで、ソニー、シャープ、キヤノン、東芝の順位が過去10余年、どのように推移したかを表す。その衰退振りは一目瞭然だ。


だが今年、多くの大手家電ブランドが再び順位を上昇させた。特に日本市場では、「コロナ禍の巣ごもり消費の増大が大きく影響した」とエッセンス社日本事業統括責任者の村上公太氏はいう。

日本の消費者が選んだ「トップ100ブランド」で首位に立ったのは、去年に続きパナソニック。トップ10内で目立った動きは2ポイント順位を上げたソニー(2位)、+3ポイントのシャープ(4位)、+2ポイントの日立(8位)だった。さらに東芝も+5ポイントで19位に。他のカメラ・複合機メーカーとともにこの数年順位を下げていたキヤノンも18位を維持した。

 

「家庭で長く時間を過ごす人が増え、キッチンその他の家電製品の売上げが大きく伸びた。こうした分野のトップブランドは、間違いなくパナソニックです」。こう話すのは電通のチーフブランディングディレクター、緒方玲子氏。「パナソニックも、消費者に対する自社の強みを再発見したはず」

これら家電ブランドはこれまで絶えずイノベーションを行ってきたが、「消費者は冷蔵庫をアップグレードするべきか、あるいは新たに4Kテレビを購入すべきか、必ずしも真剣に考えなかった」と同氏。「ところが家にいる時間が長くなり、料理や掃除に多くの時間を費やすようになると、電化製品を買い換えようと考え始めた。製品の新機能をつぶさに調べ、じっくり吟味することに喜びを感じるようになったのです」

グレイワールドワイド代表取締役兼CEOの落合由紀子氏も、「パナソニックやシャープ、東芝、日立といった家電メーカーはコロナ禍で消費者のより身近な存在になり、業績を上げた」と話す。これらメーカーは消費者インサイトをつぶさに把握し、「ささやかでも役立つイノベーションの実現を成功の指標にしてきた」。「冷蔵庫や洗濯機といったごく基本的な家電製品にもイノベーションを加えてきた。こうした点が、今持っている製品をアップグレードさせたいという消費者の動機につながったのです」

その好例が、シャープやパナソニックの多くの製品に取り入れられている付着菌やウイルスを抑えるテクノロジーだという。前者は「プラズマクラスター」、後者は「ナノイーX」と呼ばれる。「消費者が今重きを置くのは健康と安全性。そうしたニーズにメーカーが新たなテクノロジーで応えた形です」

緒方氏はまた、シャープが調理器具のイノベーションに取り組んできた点を指摘する。「健康に良い調理法を追求し、蒸し器と圧力鍋を合体させた商品を開発した。今ではシャープは、質の高い調理器具を生み出すことで名を馳せています」

村上氏は、有名無名を問わずあらゆるブランドの情報を集めるオンラインショッパーの「決断疲れ」を指摘する。「選択肢が増えすぎて、結局は長年慣れ親しんだブランドの商品を選んでしまうのではないでしょうか」

パナソニックに関しては、「経営の神様」と言われた創業者の松下幸之助氏の時代から「消費者の信頼を築き上げ、互いに敬意を抱いてきた」とも。そして今も消費者のニーズを深く理解することで、他社との差別化に成功しているという。「2018年に行われた創業100周年イベントで、津賀一宏・前社長は『くらしアップデート業』というコンセプトを披露した。そうした姿勢の証です」

ソニーも消費者の間で高い信頼性を築いた、イノベーションを続けるブランドだ。過去にテレビ事業で苦戦を強いられたが、今では4K高画質技術で市場を牽引する立場となった。

だが最大の成功要因は、家庭に質の高いエンターテインメントを持ち込んだことだろう。映画やゲームを家の外で楽しむ時代が終わり、ソニーは次の時代のリーダーとしての地位を確立した。その象徴であるプレイステーション5は絶妙のタイミングで発売され、家庭内エンターテインメントを求めていた消費者のニーズを見事に捉えた。

このポジショニングに加え、「消費者が容易にアクセスできるよう様々なプラットフォームを使い、エンターテインメントのトレンドを牽引して活用できる能力が強み」と落合氏。代表例は大成功を収めたアニメ「鬼滅の刃」だ。ソニーは多くのチャネルを通じ、映画やゲーム、音楽をヒットさせた。(下はプレイステーションの宣伝動画)

グーグル、アマゾン、ウーバーが上昇

コロナ禍で日常生活がデジタル化にシフトし、日本でも他市場同様、デジタルコミュニケーションやサービス(特にデリバリー)を提供する大手プロバイダーが大きな恩恵を受けた。

グーグルは今年順位を5ポイント上げて9位となり、トップ10内に。アマゾンも+7ポイントで14位となった。他のソーシャルメディアプラットフォームも同様で、ツイッターは+4ポイントで15位、LINEは+4ポイントで21位、ヤフーは+6ポイントで22位だった。

「大手テック企業はこれまで日本市場で異業種企業をはるかに凌ぐ投資を行い、大きな成長を遂げてきた」と村上氏。「だからこそ、すでに先行していたデジタル化をさらに加速させることができた。自社のエコシステムを絶えず進化させ、最新の状態に維持できたのです」

ウーバーは最も順位を上げたブランドの1つで、+11ポイントで16位に。その要因はコロナ禍でダメージを受けたライドシェアではなく、ウーバーイーツにあると専門家たちは述べる。家庭にデリバリーする料理の種類を増やし、多額の宣伝広告費を投じたことが功を奏した。

食品・飲料メーカーは明暗

今年のランキングの3つめの特徴を挙げるなら、日本の食品・飲料(F&B)ブランドの衰退だろう。昨年我々は、これらにレストランを加えた国内ブランドが海外の競合他社に人気を奪われたと記事に書いた。海外ブランドは国内ブランドとは対照的に、マーケティングに積極的な投資を行い、消費者の嗜好の変化に的確に対応した。

今年、日本のF&Bブランドでトップ10にランクインしたのは明治(5位)とサントリー(7位)。それでも共に2ポイント順位を下げた。昨年、F&B分野で3位につけていた森永は−11ポイントで17位に。かつてやや奇抜なテレビCMで知られた同社は、乳酸菌やビフィズス菌といったプロバイオティクスを加えた食品を増やしたが、良い結果は出せなかった。

こうした要因は、家電・デジタルブランドが躍進してF&Bブランドの座を奪ったからとも言える。だが、すべてのF&Bブランドが同じ運命を辿ったわけではない。インスタントヌードルの日清は在宅勤務者の間で人気を上げ、順位を上げて11位となった。

さらに大きく順位を上げたのは、アジアのビール部門でも順位を上げたアサヒだ。日本では+8ポイントで23位になった。

緒方氏によれば、この調査が行われた今年4月、アサヒの新製品「生ジョッキ缶」は人気のピークに達した。これは上面のフタを全開できる缶ビールで、開くときめ細かい泡が発生し、家庭でも飲食店の生ビールの味わいが楽しめるという商品だ。この缶ビールはマスコミが大きく報道し、供給が需要に追いつかず、出荷停止にまでなった。

いずれの分野であれ、イノベーションを実践し、それを家庭で過ごす消費者に届けることに成功したブランドは、このビールの泡のように芳醇な成果を上げ、ブランドエクイティを高めたと言える。

(文:ロバート・サワツキー 翻訳・編集:水野龍哉)

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