Nikita Mishra
2 日前

「日本のユーモアを再び」 カンヌライオンズ・フィ ルム部門総括

今年のカンヌライオンズで注目されたのは、ユーモア だ。だが、欠けていたのは「日本的ユーモア」だという。マッキャンAPAC(アジア太平洋地域)のCCOで、フィルム部門の審査員を務めたヴァレリー・マドン氏が 語る。

「日本のユーモアを再び」 カンヌライオンズ・フィ ルム部門総括

* 自動翻訳した記事に、編集を加えています。

今年のカンヌライオンズのクリエイティビティーは、2つの対照的な要素が特徴だった。パネルディスカッションやブリーフィング、審査会場……あらゆる場面で話題の中心となったのは、AIだ。しかし急速に普及したAIも、今年の受賞作品には反映されなかった。栄冠を勝ち取ったのは、人のコンセプトに深く焦点を当てた作品。感情に訴え、職人技に根差した明快な作品だった。

フィルム部門では特にそうした作品が目立った。今、ブランドがオーディエンスとの結びつきを深めようと重視するのはTikTok(ティックトック)やインスタグラム、YouTubeショートといったショートフォームコンテンツだ。だが今回の受賞作で目立ったのは、ほとんどがロングフォームの作品。たっぷりと時間をかけてオーディエンスとつながり、共鳴を呼ぶナラティブ(物語)だった。それに比べ、ショートフォームの作品は強い印象を残せなかった。

マッキャン・ワールドグループAPACのCCO(チーフクリエイティブオフィサー)でフィルム部門の審査員を務めたヴァレリー・マドン氏は、Campaign Asia-Pacificにこう語る。「ショートフォームの作品で目立ったのはほんの一握り。特に印象深かったのはテルストラ(豪・通信)社の『Better on a Better Network』。30秒フォーマットを非常に効果的に活用した稀有な例です」

30秒はテレビやオンライン広告の標準的長さだが、制作者にとっては厳しいハードルでもある。

「ショートフォームはクリエイティビティーの素晴らしいキャンバス。でも優れた作品を生み出すためには、スキルと技術力、集中力、そして規律が必要になる。ゴールドを受賞したテルストラのキャンペーンは、明快で説得力あるメッセージを的確に伝えていた」とマドン氏。しかし深みとインパクトにやや欠け、最高賞であるグランプリには届かなかった。では、グランプリを獲ったChannel 4の『Considering What?』やロレアルパリの17分間に及ぶドキュメンタリー『The Final Copy of Ilon Specht』とはどう違ったのか。

「これら2つの作品は、心底から感情を揺さぶるものでした」と語るのは、サーチ・アンド・サーチのグローバルCCOで、フィルム部門の審査委員長を務めたケイト・スタナーズ氏だ。映像作品で重要なのは、「オーディエンスとあらゆるレベルでつながる力」。「映像はオーディエンスに語りかけます。優れた作品はオーディエンスの思考能力を働かせ、感性に訴え、予想しえなかった行動を起こさせるもの」

Campaignのニキータ・ミシュラ(右)とヴァレリー・マドン氏。カンヌにて

フィルム部門のエントリー数は1,636で、最終候補作品には115が残った。カンヌライオンズでは最も歴史あるカテゴリーで、最大規模でもある。しかし今回、ショートフォームコンテンツはアピールの機会を逃した。「今のフィードにはショートフォームコンテンツがあふれていますが、今年のライオンズでは決して多くはなかった。単に短いだけでは、十分にアピールできません」とマドン氏。「フォーマットを生かし、大胆で感情的なストーリーを伝えねばならない。今欠けているのはそうした部分です」

スタナーズ氏も同意見で、映像作品には「繊細なバランスが必要」と指摘。「映像は技術とアイデアの結晶。オーディエンスの感情を呼び起こし、動かすものでなければならない。見た後も長く心に残るものを作ることが大切」

優れたユーモアの条件

今年のカンヌライオンズでユーモアが復活したのは明らかだ。今後主催者はエントリー作品を分析し、インサイトやトレンドを総括すべきだろう。昨年11月、「ユーモアの活用」をサブカテゴリーに導入すると発表した際、エントリー数は急増した。「このカテゴリーは、エンターテインメント性がなければ勝てない。それがエントリー条件。エンターテインメント性がなければ、エントリーは意味がありません。フィルム部門の受賞作品の約8割は、何らかのユーモアの要素を含んでいた」とマドン氏。

例えば、KFCタイの『Let There Be Cake』は自国文化に精通したアプローチと奇抜さでゴールドを受賞した。また、ロレアル・パリの作品では著名な女性コピーライター、イロン・シュペヒト氏がインタビューアーを睨みつけ、「F*** you」と吐き捨てるシーンがある。インタビューアーが「Why f*** me?」と尋ねると、 彼女は「あなたが男だから」と返す。「これは重層的で意図的な、とても鋭いユーモア。ユーモアは過去のドタバタ調のものから大きく進化しました」

こうした傾向は、長年ユーモアを軽視し、真面目さを重視してきた業界にとって新風だ。カンター社の調査でも過去20年間、広告主がユーモアを忘れていたことがわかる。同社のデータによると、ユーモアのある広告を「表現力が高い」と評価する声が27%、「よりオーディエンスを惹きつける」という声が14%、「独自性が高い」とする声が11%上昇した。

カンヌライオンズがユーモアを導入したことで、業界はジョークの力を再認識した。では、カンヌがこの変化を生み出したのか、それとも社会の変化を反映したのか。

マドン氏は「両方の要素が少しずつある」という。そしてタイやフィリピン、日本、インドなどを例に挙げ、「ユーモアはAPACの広告にいつも根付いていた」と話す。「ユーモアが人々の記憶に残り、共感を呼び、商品の購入につながることをこれらの国々は長年理解していました」。おそらくカンヌの決定は、クリエイターが常に理解していたことをブランドに再提起したのだろう。ユーモアは複雑なメッセージを簡潔に伝える、最も鋭いツールの1つであるということを。

「業界はユーモアを単なるエンターテイメントとしてではなく、クリエイティブ戦略として活用している」というマドン氏は、ジョシアン・パリが制作したアソシエーション・ヴァランティン・アユイ(Association Valentin Haüy)のキャンペーン『The Last Birthday』を好例に挙げる。この作品は、暗い心理サスペンス調のユーモアを取り入れて受賞。「とても不気味だけれど、実に巧妙。ユーモアは必ずしも愉快である必要はなく、シャープで、不安を煽るようなものでも機能する。異なるナラティブを使うことで、大きな効果を出せるのです」

しかし全ての作品が成功したわけではない。マドン氏はフィルム部門の最終候補に「日本的なユーモアが欠けていた」と嘆く。これまで日本はしばしば、シュールで独特の笑いを世界に紹介してきた。「日本のユーモアをまた復活させてほしい。世界が待っています、と私は心から日本の皆さんに伝えたいです」

スケーラビリティーとパーパス

今年、APACはカンヌで大きな成果を上げた。受賞数は118で、前年比27%増。だがその内容を見ると、課題が浮かび上がる。APACのクリエイティブ作品は地域内で個性を放っても、他の市場では苦戦する傾向がみられる。「アジアの多くのキャンペーンは自国市場で際立っても、スケーラビリティー(拡張性)が低い」とマドン氏。「ここで言うスケーラビリティーとは、そのまま世界で通用するという意味ではなく、地域のインサイトをいかに世界に浸透させるか、ということです」

オグルヴィ・シンガポールの『Vaseline Verify』はその模範例だ。特定のターゲットを対象にしたものだが、ヘルス&ウェルネス部門のグランプリを皮切りに複数のカテゴリーを受賞。ブランドのストーリーに忠実でありながら、消費者との普遍的な関係性を捉えた。

しかし、APAC全体の実績をブラジルのそれと比較してみると、大きく見劣りする。ブラジルは単独で99の賞を獲得した。国別獲得数でトップ10に入ったAPACの国は、インド(32)と豪州(27)だけだった。

チタニウム部門の審査委員長を務めたエデルマンのグローバルCCO(チーフコミュニケーションオフィサー)、ジュディー・ジョン氏は先頃のインタビューで、「プレゼンテーションとCMOの勇気も重要な要素」と指摘。「米国のような国は、ケーススタディーに多額の資金を使う。それゆえ、作品の完成度は極めて高い。APACは素晴らしいアイデアを持っていますが、作品の質に必ずしも追いついていません。加えてAPACのCMOは、リスクを冒して独自性を主張する傾向が欧米に比べて弱い。だから彼らには、もっと大胆な決定をしてほしい。APACは確実に、クリエイティビティーと人材に恵まれているのですから」

ジョン氏の指摘通り、クリエイティビティーの中核を成すのは文化であり、APACも同様だ。シンガポールは知る人ぞ知る、APACのクリエイティブの中心地だが、弁護士や銀行家、プログラマーといった「左脳型」の職業の人々に支えられている。この国では往々にしてクリエイティビティーは「結果論」であり、必須ではなく「贅沢なもの」として捉えられている。「詩は、私たちには手の届かないない贅沢品だ」−− 建国の父であるリー・クアンユーはこのような言葉を残したが、こうした現実主義はいまだにシンガポール人の考え方に影を落としている。

もう1つの世界的なトレンドは、パーパス(社会的存在意義)の進化だ。今年のグランプリ作品34本のうち、22本がパーパスに結び付くテーマだった。これらは決して「地球を救おう」「緑を増やそう」といったあからさまな受賞狙いの作品でも、直接的な感動を誘う作品でもなかった。その代わり、パーパスとビジネス、そして社会的影響を絶妙に調和させていた。

「今年の作品のパーパスは、これまでと異なる印象だった」とマドン氏。「ブランドが掲げる理念ではなく、毎日人々がどのように行動すべきかを訴えていた。そして、それがビジネスと結び付いていた。事業成長を実現できなければそのキャンペーンは失敗だし、受賞もできません」

「モノが売れなければ、クリエイティブではない」 −− オグルヴィの創業者、デイヴィッド・オグルヴィ氏の有名な言葉に、ヴァンゴッホはひまわりを投げつけるかもしれない。だが広告業界では、オグルヴィが勝つ −− マドン氏が伝えたい信条に違いない。

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