David Blecken
2016年6月24日

日産が挑む「リバランス」

日産は今、ブランドとしてより統一されたイメージを打ち出すことに注力している。日本を代表する企業の新たなチャレンジは、あらゆる分野のマーケターにとって貴重な教訓となり得るだろう。

ルードゥ・ブリース氏
ルードゥ・ブリース氏

日本でも有数の先進的なマーケティングを実行する日産。だがその日産であっても、より刺激的なブランドづくりとなるといくつかの課題に直面する。

「今までなかったワクワクを」というキャッチコピーを数年前に打ち出し、常に革新的な製品を提供するブランド・イメージを強化しつつある同社。グローバルマーケティング、ブランド戦略担当常務執行役員であるルードゥ・ブリース氏は、「グローバル化とローカル化の両立を図れるバランスを見出すことが、その取り組みの中核」と言う。

すなわち、「各地域のマーケットの自主性を生かすのが多国籍企業の強み。それを保ちつつ、『中央』からのコントロールをより強めることです」。2009年の世界金融危機や2011年の東日本大震災が及ぼした悪影響から立ち直れたのも、「各マーケットへの権限委譲を実現したから」とか。しかしその一方で、ブランドとしての一貫性が維持しにくくなる、という負の側面も生じた。

「『リバランス』をしなければならない箇所がたくさん生じ、今まさにそれに取り組んでいるところです。このプロセスが極めて重要なのは、製品に対する解釈がバラバラでは、明確に的を絞った集中した商品開発ができないから。我々は5年先を見据えた商品開発をしています。短期的でも各マーケットが独自の路線を歩んでしまえば、長い目で見て製品のコンセプトと合致しなくなる公算が大きくなってしまう」

マーケターは孤立するべからず

バランスの見直しはまず、「消費者の目に映るブランドとしての特徴は何か」を認識することから始めた。そして、5~7年後の市場への投入を念頭に現在開発している製品や技術の方向性を、それらと一致させていく。

「ブランド表現に関しては、各マーケットでかなり異なっていました」。一貫性のないロゴのサイズやデザイン、色使いといったヴィジュアル面にとどまらず、メッセージも「面白さ」と「真面目さ」の間を行き来し、「まともに考えれば、決して正しい方向性とは言えなかった」

だが問題点を見つけるのは簡単でも、解決するのはずっと難しい。製品やデザインにふさわしいコミュニケーションをどのように図るのか、新製品を発売するときのメッセージは各マーケットでどのように決めるのか、スポンサー活動はどこまで現地の責任者が決定し、どこまで本社が決定するのか……。こうした事案を解決するために、マーケティング部門はあらゆる部署と効果的なコミュニケーションをとり、相互理解を図る必要があった。

「権限委譲の推進は非常に重要でした。我々(本社)が関与する部分とそうでない部分を、細かいところまではっきりさせる必要があった。変更管理、つまり継続的な議論を重ねて望ましい状態へと変えていく長期のプロセスが、未来のマーケティングのあるべき姿と考えています。組織の中では、他の部署から孤立してしまってはやっていけませんから」

ブランドの展開は基本的にすべてのマーケットで統一されるべきだが、「本社からの指示への解釈には一定の幅があってよい」と同氏は考える。例えば、米国市場向けの広告が日本市場向けの広告と同じことはあり得ないが、同じブランドであることは明確に伝わらなければならない、といったように。

「ですから、(各地の日産は)地元の広告代理店と密に仕事をしますが、ブランドの本質に関するブリーフは必ず本社から代理店に直接行う。明確なブランドが中心に据えられ、それに一貫性のあるマーケットごとの解釈が加えられる。この実現に、今かなり近づいているところです。コマーシャルでも、冒頭の2~3秒で日産だとわからせることが肝心。そうでなければ、残りの映像には意味がありません」

消費者を飛び越すな

またブリース氏は、日産が日本のブランドであることをもっと強調するべきだとも考えている。それはコミュニケーションの面だけではなく、プロダクトデザインにおいても然り。「日本には二種類のデザインが存在します。一方は比較的保守的で、もう一方はモダンかつ極めてアバンギャルド。是非、後者のテイストを取り込みたい」

「この要素が国際的影響力と結合すると、『GT-R』のような独特の製品が生まれる。ブランド・マネージメントとマーケティングの目的は、一つにはこのような可能性を見出し、拡大・発展させていくことにあります」

ブランドを進化させていく上で起こりがちな最大の過ちは、急ぐあまり消費者を「飛び越してしまうこと」だと言う。
「消費者を置き去りにするのは最悪のマーケティングです。我々もこれを経験した時期があった。『こうではなく、ああなりたい』などと発信すれば、間違いなく失敗します。それが『本物』でないことを、消費者はすぐに見透かしますから」

「インフィニティ」を日本の高級車として位置付けた(いまだに日本では珍しいことだが)のは、「ドイツのブランドを真似ようとするよりはるかに理に適ったことです」。言い換えれば、ブランドにとって大切なのは差別化要因を見出し、それを堅持していくことにある。「そうすればその企業の『型』が定まる。そこからブランド構築を始めるのです」

同様に、「日産はテスラのようにはなれないし、なろうとするべきでもない」と同氏。だが「リーフ」のような製品は、単なる環境対応車としてだけではなく、限られた人々に向けたメッセージを加えることでより「ワクワクできる」。「GT-Rのチームが『リーフ』をつくれば、消費者に受け入れてもらえるのではないでしょうか」

ブランディングをビジネスの言語に

これらをすべて実現するには、「経営陣からの絶大な支持が必要で、ブランディングに取り組む強い熱意が欠かせない」と語るブリース氏。しかし、経営陣の支持をいかに取り付けるか、ブランディングではまだ多くの企業が苦労しているのが現状だ。

「ブランディングをビジネスの『言語』として組み込むことが大切なのです。その会社ならではの『言葉遣い』を編み出し、それを用いてマーケティングとブランディングを議題に載せていく。日産では、『ポジショニング』のようなインパクトの弱いマーケティング用語はプレゼンテーションでは使えません。価格決定力、購買ファネル、ブランドの立て直しによる利益チャンス……こうした言葉を使って説明することで、マーケティングやブランディングで全面的な支持を得られるのです」

「間違っても、時代の先端を行くようなクリエイターを一人で経営会議に送りこんではいけません。必ず潰されてしまいますから。クリエイターたちと仕事をし、彼らの言葉を会社の中で理解されるビジネス言語に翻訳することが、私のようなポジションにいる者の務めなのです」

(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳:鎌田文子 編集:水野龍哉)

提供:
Campaign Japan

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