David Blecken
2016年12月13日

社長謝罪会見後も続くDeNAの苦悩

キュレーションサイトの不祥事拡大騒動の渦中にあるDeNA。危機的な状況に陥る前に、問題発生時点で迅速な対応を取ることの重要性を浮き彫りにした。

謝罪メッセージが掲載されている、現在のWELQのページ
謝罪メッセージが掲載されている、現在のWELQのページ

コンテンツを他サイトから不正に流用したとして、医療情報サイト「WELQ (ウェルク)」を含む複数のサイトへの非難が拡大中のディー・エヌ・エー(DeNA)。12月7日の記者会見 で守安功社長は「多大な迷惑をおかけした」と謝罪した。

WELQは不正確な記事を掲載し、他サイトからの不適切な引用や転載を奨励していたとされる。BuzzFeed Japan によれば、WELQは既存の記事のリライト方法を記したマニュアルを、外部ライターに配布していた。
WELQの利用者の多くは、健康上の問題を抱え、治療方法を検索する人々だ。ニールセンが実施したスマートフォン視聴率調査 によれば、WELQの月間利用者数はピーク時には600万人強に達していた。

DeNAはWELQを停止すると共に、同様のプロセスで運営を行なっていた他9媒体も無期限休止した。休止したのはMery、iemo、Find Travel、UpIn、cuta、CAFY、GOIN、JOOY、PUULで、これらサイトのコンテンツはファッションや旅行など多岐にわたる。1999年創立のDeNAは、モバイルゲームプラットフォーム「モバゲー」や、横浜DeNAベイスターズで知名度を上げた。

DeNAは、同社のキュレーションプラットフォームサービスに対して、第三者委員会による調査を行うことを発表した。また、記者会見での謝罪に先立ち発信されたプレスリリース では、今回の件を受けて守安社長の月額報酬の30%を6カ月間減額することを表明。同リリースの中で守安社長は「メディア運営のあり方を抜本的に見直し、自分自身として心の底から自信の持てるプロセスを構築していくこと」を約束している。

ホフマンジャパンの代表取締役である野村真吾氏は、今回の不祥事の発覚は企業倫理とコーポレートガバナンスの欠如を示唆する「重大な問題」と、企業のレピュテーションの観点から指摘する。
「今回の事件は、プロ野球チームなど複数の事業を運営するDeNAの、他のステークホルダーにまで影響を及ぼす可能性がある」と野村氏。「問題の経緯を調査し、早急に結果を公表する必要があります」

今回の騒動では、ネット上で1カ月以上前から批判の声が上がっていたため、「もっと迅速にきちんと対応すべきだった」と野村氏は言う。守安社長も、前述のプレスリリースの中で「今回の事象に対して、 速やかに対応できず、非常に大きな混乱を招いてしまったのは、私自身の判断の甘さによるもの」としている。

今回の事件の余波は、「短期的にキュレーションサイト全体にも影響を与えるでしょう」と野村氏は話す。既存のサイトは、「信頼に足るという証明」のために何らかの手だてを打つ必要に迫られるだろう。一方で野村氏は、コンテンツのキュレーションは行いつつも元ソースの記事を表示する「スマートニュース」や「NewsPicks」のようなプラットフォームには、こうした指摘は当てはまらないと語った。

また、この類の問題はネットメディアに限らないことを指摘するのは、元マイクロソフト代表取締役社長の成毛眞氏だ。成毛氏は自身のフェイスブック上で「大手の週刊誌などでも、某医師が語ったとして『医師からもらった薬は飲むな』的なトンデモ医療が紹介されていたりするわけで、このケジメはどうつけるんでしょう」とコメント。ライターに低価格で記事を書かせていたWELQとは異なり、医師免許を持った者に語らせることで「ある種の合法性を担保し」ながら「扇情的な記事に仕立てて部数を稼ぐ」出版社の手法を問題視している。

(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳:高野みどり 編集:田崎亮子)

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