David Blecken
2018年10月03日

「素人」なインフルエンサーに、もっとルールの周知徹底を

偽フォロワーの問題が、日本でも大きな問題となる前に阻止したい――。サイバー・バズの高村彰典CEOは、このように語る。

高村彰典氏
高村彰典氏

ソーシャルインフルエンサー事業を展開するサイバー・バズ(本社:渋谷区)は9月上旬、偽フォロワー問題に立ち向かい、「プロフェッショナルな」インフルエンサーを育成するなど、インフルエンサーマーケティングの健全化に向けた取り組みを強化すると発表した。

この取り組みには、フォロワー数の増減などのチェックシステム、エンゲージメントレベルの検証、インフルエンサーとの面談や勉強会などが含まれる。世界と比較すると遅い動きに見えるかもしれない。だが日本のマーケターは、インフルエンサーの不正への関心が比較的低いのだ。

日本でもインフルエンサーの不正問題は増えてきていると、同社の代表取締役社長である高村彰典氏は考えている。一方で、フォロワー数の多さではなく、少ないフォロワーに対して絶大な影響力を持つ「マイクロインフルエンサー」へと注目が集まっていくとも予想している。

どのように「インフルエンサー」を定義するのでしょうか。

インスタグラムであれば、1万人以上のフォロワーがいる人をインフルエンサーと定義しています。当社では3つの会員サービスを展開しています。まず、特に影響力が高いインフルエンサーを1000人ほど集めた「NINARY」。次に、ブログやツイッター、インスタグラムなどのソーシャルメディアを運営するインフルエンサー約13,000人からなる「Ripre」。そして約60万人のソーシャルメディアユーザーによる「ポチカム」がありますが、この会員は我々が審査しているわけではないので、厳密にはインフルエンサーとは呼べません。

多くの企業が求めるのは、10,000人以上のフォロワーがいるインフルエンサー。でも将来的には、フォロワー数はそこまで多くなくても、フォロワーと密接な関係を構築できている「マイクロインフルエンサー」への要望が高まってくると期待しています。

インフルエンサーの不正は、日本ではどれくらい問題になっているのですか?

我々はこれまで、偽フォロワー問題が何か、そしてこの問題がマーケターにどのような影響を及ぼすのかを、多くの場で話してきました。世界と比較して、日本では今のところはそれほど切実ではないものの、今後は深刻化していくと考えています。それに先手を打とうというのが、今回発表したプログラムです。

クライアントの皆さんの関心は?

関心はそれほど高くないですね。フォロワー数のみを重視されがちです。日本では、アドフラウド(広告詐欺)や、不適当な場所に広告が掲載されてしまうことへの懸念の方が強いといえます。ただ、消費者が情報を探す際に、インフルエンサーは主要なチャネルの一つとなっているため、今後はもっと関心が高まっていくと思います。

なぜ、この問題が今後大きくなっていくと考えるのですか?

現時点では、インフルエンサーの多くはプロのタレントであるため、インフルエンサーとしての義務や、実施にあたってのルールを理解しています。でも、ソーシャルメディアの恩恵を受けてインフルエンサーになった若い世代は、プロフェッショナルではない人が多い。そのため、例えば著作権の問題や、プロモートすべき商品の競合商品を使うことの是非について、知識がなかったり無関心だったりするのです。インフルエンサーとしての姿勢が大切であり、よりプロフェッショナルなインフルエンサーとなれるよう我々が育成するべきだと考えています。

日本のインフルエンサーマーケティングの透明性は、いかがですか? 違反すると罰則があるのでしょうか?

日本広告業協会がガイドラインを発表しています。しかし、そこまでの透明性を求めていないクライアントもいるようです。法的な罰則はありませんが、不正が明るみになれば企業評価はリスクにさらされます。我々は会員の投稿をすべてチェックし、透明性が担保できない人はブラックリストに載せます。

インフルエンサーを「プロフェッショナル」に育てるとは?

勉強会を通じてガイドラインを説明しています。マーケティングについての知識や、画像の掲載方法、キャッチフレーズの書き方などもアドバイスしています。

本当の素人であることも多いので、育成は容易ではありません。でも、彼らとのより良いコミュニケーションのためには、勉強会という形式が適しているようです。インフルエンサー市場は、これからの世代でますます拡大していくでしょうから、このような活動を継続していくことが大切だと考えています。

彼らが投稿内容をもっとクリエイティブにする術を学ぶことが最も重要だと、私は考えています。今はまだ、商品を正面から撮って載せるだけといった投稿が多く見受けられます。消費者に届くメッセージやトーンは何か、どうすればより伝わるのかと考えることが、より重要になってくるでしょう。

インフルエンサーは通常、どれくらい稼ぐのでしょうか?

ブランドは個々のフォロワーに応じてコストを計算するため、フォロワー数によって金額が変わります。でもマイクロインフルエンサーやエンゲージメントに基づいて計算する方式へと移行しつつあります。マイクロインフルエンサーにとって好都合な変化ですね。

マイクロインフルエンサーの価値はどのように計算するのでしょうか?

難しいですね。性別や年齢などをもとに、クライアントのニーズに合わせて我々がインフルエンサーを選んでいます。でも人数はそれほど多くありません。もし例えば自動車業界のクライアントの案件に携わるとすれば、既存のマイクロインフルエンサーを総動員しなくてはならないかもしれません。

インフルエンサーによって実際の購買行動につながったのか、チェックすることは可能なのですか?

多くの企業がインフルエンサーマーケティングに期待するのは、実際の購買行動にどのような影響を与えたかよりも、ブランディングとしての側面です。とはいえ、インフルエンサー施策を売上向上につなげていくことは、我々が今後目指していく目標の一つです。

たばこ会社が若いインフルエンサーを起用していることを明らかにした報告書がありましたが、倫理的だと思いますか?

私はあまり賛成しません。たばこ会社は新製品を訴求する必要があるでしょうが、日本の消費者はこのような動きを否定的に捉えるのではと思います。従来のたばこよりも害の少ない商品に切り替えるよう訴求する上で、インフルエンサーマーケティングを活用する方法はあるかもしれません。でも、たばこを売りたいと考えているインフルエンサーは、ほとんどいないのではないでしょうか。

(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳・編集:田崎亮子)

提供:
Campaign Japan

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