Yasuharu Sasaki
2023年12月14日

電通グループ、佐々木康晴氏が語る:AI時代の人間性と創造性の役割

AIは、私たちを感動させると同時に警戒感も抱かせる。では、人間の力を拡張するテクノロジーの役割とは何だろうか?電通グループのグローバル・チーフ・クリエーティブ・オフィサーである佐々木康晴氏が、どうすればテクノロジーが想像力を解き放ち、現実世界と仮想世界をつなぐ新しい体験を生み出せるのか考察する。

佐々木康晴氏、グローバル・チーフ・クリエーティブ・オフィサー
佐々木康晴氏、グローバル・チーフ・クリエーティブ・オフィサー

1994年11月、ローリング・ストーンズは、インターネット上でコンサートをライブ中継した初の大物アーティストになりました。当時コンピュータサイエンスの学生だった私は、その魅力の虜になりました。そして、ミック・ジャガーがコンピュータ画面の上で踊るシーンを見て、デジタル技術が世界を永遠に変えるだろうと気づいたのです。

翌年、私は東京の電通にコピーライターとして入社しました。理学系の学位を持つ私にとって、広告業界のキャリアは自明の選択肢ではありませんでしたが、私はメディアプラットフォームとしてのインターネットの、広大なポテンシャルを探求できる仕事がしたかったのです。当時、ワールド・ワイド・ウェブ(WWW)は、まだ初期の段階にあり、デスクトップコンピュータで、ダイヤルアップで接続をする時代でした。オンライン広告もまだ限られたものだけでした。しかし、私たちはチャンスと挑戦に満ちた新しい時代の幕開けに立ち会っていたのです。

30年近く経った今、私たちはもうひとつの革命の始まりにいます。人工知能は私たちの知っている世界を変え、働き方や買い物の仕方、コミュニケーションの方法、そして、ブランドや企業、お互いの関わり方を再構築しています。素晴らしい成長機会ではありますが、それと同時に脅威でもあります。政治家やビジネスリーダーたちは、AIの進歩が人類の未来に役立つよう、AIをどのように形作っていくべきかという難題に直面しています。

この絶えず変革する時代にあって、私は自分がキャリアを始めた頃のことを思い出します。私のコンピュータサイエンスのバックグラウンドは、従来の広告の枠を超えてエクスペリエンスデザインなどの分野にアイデアを押し広げる原動力となりましたが、同時にコピーライターとして学んだスキルが、テクノロジーに依存した複雑なアイデアの前提を単純化し、背後にあるストーリーを鮮明にしてくれました。私は、テクノロジーの重要なパートナーとしての、人間の創造性の価値を学んだのです。

この信念は、この30年間変わることなく、以来、常に重要であり続けています。2007年のiPhoneの発売のことは鮮明に覚えています(私は電通で最初のiPhone所有者であったことを誇りに思っています!)。そして、私たちの業界がこの常時接続の新時代に、消費者とブランドを結びつけるという使命に取り組んでいたことも鮮明に思い出します。クリエイティビティや人間行動への理解、絶え間のないイノベーションのおかげで、ブランドがスマートフォン時代における存在意義やポジションを見つけるのを支援することができました。

今、私たちは同じレベルの直感力と理解を、人工知能にも適用していかなければなりません。AIは単なる技術以上のものであり、人間や人間の本質の研究そのものです。クリエイターは、人間の言葉や感情のスペシャリストですので、AIの未来を築く上で主導的な役割を果たすのは当然でしょう。

多くのエージェンシーと同様、この時期に、電通クリエイティブも2024年のトレンドレポートを発表しました。今年は業界に対し、この瞬間を捉えて、私たちが見たい未来をデザインし、革新し、努力するよう促す必要があると感じています。どうすればAIを使って人間の力を拡張できるだろうか?AIは、どうすれば想像力を解き放ち、現実世界と仮想世界をつなぐ新しい体験を生み出せるだろうか?人工知能の急速な進歩にもかかわらず、触感(タッチ)や触覚(ハプティクス)、音声、ジェスチャーなどを通して人間と技術を結びつける体験には、時代を超えた力があります。

これを念頭に置いて、2014年に最初の研究開発ラボ(Dentsu Lab Tokyo)を設立しました。クライアントが最新技術とそれが社会に与える潜在的影響を精査するための、時間やスペース、リソースを確保できるようにするためのものです。最近の取り組みとしては「オール・プレイヤー・ウェルカム(All Players Welcome)」プロジェクトがあります。これは、ALS(筋萎縮性側索硬化症)患者のアーティストとDJが、視線の動きや筋電図信号などの情報を使って、音楽と動きを同期させ、ライブでパフォーマンスを行えるようにするものでした。このように最新技術を使用して社会課題に対処し、顧客に真の価値を提供できれば、ブランドはテクノロジーが、単なるテクノロジーで終わることを避けられるでしょう。

実際、テクノロジーに対する長年の情熱にもかかわらず、私を本当にインスパイアしているのは現実世界です。大自然、カヤック、紙とペン…、私はまだコンピュータサイエンティストのように考えることができますが、それをコピーライターやクリエイターの視点で行うようにしています。2024年を迎え、人間同士のつながりはこれまでになく重要になっています。私たちが協力し合えば、人間の力を拡張するためのテクノロジーの役割も形づくることができるはずです。

 

提供:
Campaign; 翻訳・編集:

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