Luna Aw
2022年8月04日

「韓流」、その大いなる経済効果

韓国のソフトパワーの勢いが止まらない。その効果は様々な国内産プロダクトにも波及。韓国政府が描いた戦略と、その軌跡を辿る。

Kポップを世界に知らしめたサイ
Kポップを世界に知らしめたサイ

もしあなたがインターネットのヘビーユーザーならば、Kポップや「韓流」のことはすでによくご存知だろう。

韓国文化の躍進は今年も勢いが衰えず、この先数年はまだ続くと言われる。他の「アジアの虎」(香港、シンガポール、台湾に韓国を加えた4カ国・地域)が経済的苦境に喘ぐのとは対照的だ。

では、実際にどのようなプロセスを経て今の隆盛を迎えたのだろうか。

未来に蒔いた「種」

「アジアの虎」は1960年代前半から90年代にかけて急速な工業化が進み、年間7%以上という高い経済成長率を記録した。

韓国は1948年に北朝鮮と分離、国家として成立。その後、政府が立てた大きな指針は以下の3つにまとめられる。

  • 明確な国家目標を掲げ、強い経済力と繁栄を実現する
  • 現存する北朝鮮の脅威に対抗
  • 米国との同盟関係を維持

90年代に掲げた文化政策は、最初の「経済力と繁栄」に則ったものだ。

97年に起きたアジア通貨危機で、韓国経済は大きな打撃を受けた。国家のイメージは低下し、多くの海外投資家が撤退。再興には長い時間がかかるだろうと世界が予測するなか、政府はその挽回策として「メディア文化の育成・輸出」を掲げた。

2000年には当時の金大中大統領が日本文化の輸入規制を緩和。日本に統治された過去の苦い経験から、韓国では日本文化の輸入は半世紀にわたって禁止されていた。その後、同大統領は自ら制定した文化産業振興基本法に1億4850万ドルを投じた。

ボーイズバンド・ブーム

90年代にNSYNCやウエストライフといったボーイズバンドが世界で人気を博すと、韓国でも同様のバンドが出現。その代表格が92年にデビューしたソテジワアイドゥル(Seo Taiji and Boys)だ。メンバーだったヤン・ヒョンソクは後にKポップの金字塔となる芸能プロダクション「YGエンターテインメント」を発足させる。

彼らの登場で韓国の音楽業界は大きく変化、SESやジェクスキス(Sech Kies)、H.O.T、ピンクル(Fin.K.L.)といったグループや芸能プロダクションが次々と誕生する。それに比例して彼らを支える「ファン文化」が興り、その隆盛は間もなく頂点に達した。

ソテジワアイドゥル


これら4つのグループは90年代にKポップブームのきっかけをつくった「第1世代」として、今もファンから尊崇される。音楽業界の主流はこの頃、バラードからポップスにシフトした。

2000年代後半から2010年代前半にかけては、ビッグバン(Bigbang)や少女時代( Girl’s Generation)、シャイニー(SHINee)、2NE1といった「第2世代」グループが海外に進出。日本をはじめとするアジア諸国でKポップの存在感を高めた。

音楽に歩調を合わせ、映画やテレビドラマもそれに続く。東南アジアへ輸出された韓国ドラマはテレビのプライムタイムで放映され、『冬のソナタ』や『秋の童話』といったメロドラマは日本のオーディエンスを魅了。出演俳優たちはカルト的人気を集めた。

2012年にはラッパーのサイ(Psy)がリリースした『江南(カンナム)スタイル』が、北米をはじめとする世界市場でヒット。その後のKポップの躍進は誰もが知る通りだ。BTSが人気を博する以前、初めて世界で脚光を浴びた韓国のアーティストがサイだった。

さらなる飛躍

2016年にはBTSがリリースしたシングル曲『ファイヤー』がユーチューブ上で一気に拡散。この年、BTSは『ファイヤー』や同じく世界的ヒットとなった『血、汗、涙(Blood,Sweat & Tears 』をフィーチュアした2枚目のアルバム『ウイングス』を発表する。このアルバムは韓国をはじめ世界各国で音楽賞を獲得、BTSにとって記念すべきアルバムとなった。

BTSの活躍でKポップのアーティストはグラミー賞にノミネートされるようになり、米国の人気テレビ番組にも出演。世界のオーディエンスにアピールしたことで韓国の芸能プロダクションは大きな収益を得、海外ビジネスを成功させる価値を学んだ。

SMエンターテインメントが生んだ23人のメンバーからなるグループ、NCTもその一例だ。日本や米国、中国といった異なる市場のオーディエンスにアピールするため、グループは様々な国籍のメンバーによって編成されているのが特徴。

さらにそこから分かれ、韓国を主な拠点とするNCT127、中国をターゲットとする威神V(WayV)など、各人が異なるグループに所属する。メンバー構成は流動的で、ターゲット市場によってメンバーがいろいろ変化する画期的スタイルをつくった。

梨花女子大学教授のキム・セーワン氏によれば、Kポップは公式推計で毎年100億ドルを韓国にもたらすという。さらに韓流エンターテインメントのコンテンツでは、キムチやバナナ牛乳といった韓国製プロダクトがフィーチュアされ、さらなる副次効果を生んだ。


例えばサプリメントブランド「テンテン」(写真・上)。エンハイプン(ENHYPEN)のメンバーがV-LIVE(ファンが交流する人気の高いライブストリーミングアプリ)で紹介すると、ティックトック上で一気に拡散。ショッピーやラザダといったECプラットフォームを通じ、東南アジア各国での売上げが急増した。

これはソフトパワーがもたらした効果のほんの一例に過ぎない。

ソフトパワーの重要性

天然資源の産出力に比べれば、ソフトパワーのもたらす影響力はそれほど重視されないのかもしれない。それでもソフトパワーは、経済的機会と他国への影響力を生み出す重要なファクターだ。

中国の急速な経済成長にもかかわらず、米国が世界のスーパーパワーの地位を維持しているのは、米国文化が世界の人々の暮らしに深く浸透しているからにほかならない。ジーンズもディズニーもハリウッドも、その一翼を担う。

それらはすでに我々の日常に欠かせないものであり、当たり前のように存在し、米国から来た文化なのかどうかももはや判然としない。こうした浸透力が、米国文化の成功の証だ。

そして同様の現象が、Kポップによって今世界中で起きつつある。焼肉レストランや韓国製コスメが、消費者にとって「日常」になりつつあるのだ。

さらに韓国の認知度の上昇は、旅行業界も活気づける。ソウル市はBTSを起用した海外客向けキャンペーンをスタート。韓国コスメのショッピングツアーなど、様々なツアーを売り出した。

このキャンペーン『ソウル・ゴーズ・オン(Seoul Goes On, As It Always has)』はBTSのヒット曲『ライフ・ゴーズ・オン』をもじったもの。合わせて公開された動画『オギヨンチャ(EoGiYeongCha)』では、「パンデミックに負けないで」とBTSが連帯感を訴えかける。この動画は現時点で8300万回の再生回数を記録している。

Kポップのコンサートがもたらす効果もソフトパワーの1つ。ファンはツアーを組み、飛行機で遠方はるばる会場を訪れる。BTSがソウルのオリンピック競技場で開いたコンサートでは、3公演で何と9229億ウォン(約930億円)の経済効果をもたらしたとされる。

こうした例は氷山の一角に過ぎない。韓国の生み出すトレンドは今後も世界に様々な影響を及ぼすだろう。そしてより多くの人々に認知され、トレンドを超え、定着していくだろう。韓国はその恩恵を受け、長期的な経済成長を続けていくに違いない。

(文:ルナ・オー 翻訳・編集:水野龍哉)


ルナ・オー氏はクオンタム社のアソシエイト職を務める。

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