Omar Oakes
2020年12月04日

エージェンシーとブランドの関係性、5種類を定義 英IPA

広告界の主流は「巨人モデル」と「エンジニアモデル」。だが、エージェンシーとクライアントの最適な関係性について、意見は分かれている。

ブランドのマーケティング施策を一手に請け負う、外部エージェンシーの「巨人」(画像:Pixabay)
ブランドのマーケティング施策を一手に請け負う、外部エージェンシーの「巨人」(画像:Pixabay)

IPA(英国の広告業者団体)は先日発表したレポート「ブランドとエージェンシーの関係性の未来(The Future of Brand and Agency Relationships)」で、今後10年間の広告会社とブランドの連携の仕方として5種類のモデルを定義した。ただし、最適なアプローチに対する業界内の見解は分かれる。

これらのモデルを採択するエージェンシーの分布はゆるやかではなく、二極化している。特に、エージェンシーとブランドの権限や機能について、意見が分かれている。

以下が、5種類のモデルである。

  • 巨人モデル:戦略開発から実際の広告運用まで全てのマーケティングサービスを請け負う単一の外部機関を、ブランドが選ぶ。(このモデルの成長可能性は中程度だとレポートは予測)
  • エンジニアモデル:包括的なマーケティング戦略の開発を単一の外部機関が担い、その運用は多数のエージェンシーによって行われる。(このモデルの成長可能性は非常に高いと予測)
  • 連合モデル:包括的なマーケティング戦略や運用を、複数のエージェンシーからなる連合が開発し、展開する。(成長可能性は低いとみられる)
  • ハイブリッドモデル:インハウス(ブランドによる自社内製化)と外部エージェンシーが、マーケティング戦略の開発や運用に携わる。(成長可能性は非常に高いと予測)
  • インハウスモデル:マーケティング活動のほとんどがブランド内で内製化され、運用もブランド自身が行う。(成長可能性は中程度と予測)

これらのモデル(以下の図)は、マーケティング戦略とその運用を行うのが外部機関なのか、それとも社内のインハウスチームなのかによって、軸上のどこに配置されるかが決まる。

巨人モデルとエンジニアモデルは、ブランドとエージェンシーの関係性が長期的なものになる傾向にあり、KPI(重要業績評価指標)もジョイントビジネスの成長指数のように定量化できるものが多くなる。一方、図の右側にあるインハウスモデルとハイブリッドモデルでは、出稿量や短期キャンペーンのエンゲージメントといった従来の測定数値のように、定量化しにくいKPIとなることが多い。

コロナウイルスのパンデミックによって、これらのモデルの二極化が増幅される可能性が高いと、報告書には記されている。

「左側のモデルを採用し、販売実績がマーケティング努力に大きく依存しているブランドが、経済の先行きが不透明なこのタイミングでインハウス寄りのアプローチへと舵を切ると、不必要な混乱の原因とみなされる可能性があります。インハウスモデルを採用しているブランドが、COVID-19による予算の圧迫に対応するために大幅なコスト削減を行うのも逆効果です」

このような変化に対処するエージェンシーの役割も、その捉え方が二極化していると同レポートは明らかにしている。特に見方が分かれるのが、外部エージェンシーがブランドのあらゆる課題に対応する権限と能力を備えているべきなのか、あるいは特定のマーケティング機能に焦点を絞って専門性の高いサービスを提供するべきなのか、という点だ。

ナイジェル・バズ氏(IPA代表兼ピュブリシス・サピエンスCEO)は、このように語る。「エージェンシーとクライアントにとって分水嶺といえる時期に発表されたこのレポートは、検討のきっかけを与えるものとなるでしょう。エージェンシーにとっては、どのビジネスモデルが自分たちに最も合っているか見極め、クライアントに価値を認めてもらうのに役立つ機会となるはずです。クライアントにとっては、どのエージェンシーパートナーがいつどのように役立つかを見極める指針として機能するでしょう」

このレポートは「多くの人々が本質的に理解している」結論で締めくくられている、とバズ氏。「ディスラプティブな変化の最中にもかかわらず、あるいはそのような変化の最中だからこそ、エージェンシーがクライアントの長期的かつ不可欠なビジネスパートナーとなり、業績を伸ばし持続可能な成長を果たす上で重要な存在となる大きなチャンスがあります」

クライアントとの関係性を維持するため、広告業界は自分たちを見つめ直して再定義する必要があると、バズ氏は考えている。同氏は昨年IPAの代表就任時に、エージェンシーの役割、収益、責任を3本柱とする行動計画「Reimagine」を発表した。

レポートのモデル構築においては、7~9月に「ブランドとエージェンシーの専門家」18名にインタビューを実施した。

(文:オマール・オークス、翻訳・編集:田崎亮子)

提供:
Campaign UK

関連する記事

併せて読みたい

1 日前

世界マーケティング短信:Cookie廃止の延期、テスラの人員削減

今週も世界のマーケティング界から、注目のニュースをお届けする。

2 日前

大阪・関西万博 日本との関係拡大・強化の好機に

大阪・関西万博の開幕まで1年弱。日本国内では依然、開催の是非について賛否両論が喧しい。それでも「参加は国や企業にとって大きな好機」 −− エデルマン・ジャパン社長がその理由を綴る。

3 日前

エージェンシー・レポートカード2023:カラ

改善の兆しはみられたものの、親会社の組織再編の影響によって、2023年は難しい舵取りを迫られたカラ(Carat)。不安定な状況に直面しつつも、成長を維持した。

3 日前

私たちは皆、持続可能性を前進させる責任を負っている

持続可能性における広告の重要性について記した書籍の共著者マット・ボーン氏とセバスチャン・マンデン氏は2024年のアースデイに先立ち、立ち止まっている場合ではないと警告する。