Clay Schouest
2017年8月29日

ブロックチェーンがもたらす広告界の未来

ブロックチェーンの登場で、広告会社への対価やインセンティブは、今後どのように軌道修正されていくのだろうか。メディア・コミュニケーション・エージェンシー「カラ」のアジア担当チーフ・ストラテジー・オフィサーが語る。

ブロックチェーンがもたらす広告界の未来

デジタルマーケティングにおける透明性については、これまで相当な時間と労力が費やされ、数々の議論がなされてきた。これは至極当然なことであって、透明性の確保は急務だ。

しかし、透明性に関するこれまでの記事やパネルディスカッションのほとんどが、残念ながらポイントがずれていると言わざるを得ない。私たちは、ユーザーの画面に実際に広告が表示され、ユーザーの目に留まり、クリックされたのかを正確に把握する、新しい効果測定の方法を探してきた。もちろん、これらは実際の消費者との関係構築に資するものとして、また、広告会社が対価を受け取る前提として、もっとも分かりやすい指標であるから、そこに目が行くのも無理はない。

私が理想主義者で、考えが甘く、課題の全容を理解できていないだけかもしれないが、もっと課題解決への直接的なアプローチがあるように思う。しかも、アドテクノロジーの効果を測定するツールを新たに導入するといったややこしい方向に向かうことなく。より良い効果測定の方法探しに注力する代わりに、サプライチェーンの出発点に視点を変えてみてはどうだろうか?

そこで提案したいのが、「ブロックチェーン」の導入だ。ブロックチェーンはさまざまな業界で透明性の向上に活用されており、広告のサプライチェーンの変革に使うこともできるのではないかと思えてならない。ブロックチェーンを導入すれば、あらゆる広告モデルの入口から出口までを全てオープンにして、透明性の確保が実現する可能性がある。

ブロックチェーンになじみのない読者のために解説すると、ブロックチェーンとは、ノード(システムに接続した端末)に分散された取引履歴データベースのようなものだ。あらゆる取引の履歴がブロックチェーン全体として残され、いわば元帳としての役割を果たす。ブロックチェーンの情報があれば、いつ、どのアドレスにどれほどの価値があったのかを把握することができる。完全な透明性を備え、かつ、チェーンが壊れることもない。

ブロックチェーンを広告界に導入することで、広告インベントリがもれなく同一のプラットフォーム上にあり、あらゆる時点の広告費が記録され、それをフルに開示してくれるシステムを使うことができる――。そんな世界を想像してみてほしい。

そうしたシステムの導入は、決して膨大な費用がかかるものではない。既に存在しているテクノロジーであり、一大スキャンダルが表沙汰となった大規模な銀行業界でも、変革に活用されている。

広告界でブロックチェーンの導入を阻む要因を挙げるとしたら、インセンティブだろう。マーケティングや広告の世界では、売買手数料、アービトラージ(裁定取引)、コミッションが典型的な収益源であることを忘れてはならない。サプライヤー、広告会社、そしてもちろん広告主も、広告のサプライチェーン全体が従来からの取引モデルに加担しているのだ。広告主に至っては、透明性確保の取り組みに形ばかりの敬意は表しつつも、格段に複雑化した市場で広告を運用してくれる広告会社に対し、事業を継続していける最低限の対価を払うことを渋っている。

新しいモデルの導入によって失うものが少ない、大手コンサルティング会社のような新規参入者は、ブロックチェーン導入への動きを加速し、既存のモデルを一新させる絶好のポジションにいるように思う。

ブロックチェーンによる完全な透明性を備えたモデルが実現すると、従来型の広告会社は終焉を迎えてしまうのだろうか? その可能性もあるが、私はむしろ、広告会社にとって新しく、より良いモデルが登場するのだと思いたい。

新しいモデルは広告会社を追い詰めるのではなく、これまでの間違ったインセンティブや対価支払の慣習に終止符を打ち、広告会社に繁栄をもたらす可能性がある。広告主の立場が強まり、かつ、多くの広告主が広告効果の向上よりも費用削減に注力していることから、従来型のモデルは広告会社の収益性を圧迫してきた。何度も何度も提案を重ね、それでもなお、メディア費用の削減を求められる。そんなことに意味があるのだろうか?

費用が完全なる透明性を持ち、追跡可能で、さらには広く開示されるような取引モデルを想像してみてほしい。広告会社が優れた戦略的な仕事に専念できる取引モデルを想像してみてほしい。広告主が広告会社の頭脳に対価を払い、予算との兼ね合いではなく、成果の質が提案採用の決め手となる取引モデルを想像してみてほしい。

透明性の精神の下で、私が従来型のモデルと新しいモデルのどちらを選ぶかは、お分かりだろう。

(文:クレイ・シャウエスト 翻訳:鎌田文子 編集:田崎亮子)

クレイ・シャウエストは、電通イージス・ネットワーク傘下のカラ・アジアパシフィックの、チーフ・ストラテジー・オフィサー。

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