高級靴ブランドのジミー・チュウは、90年代を代表する漫画「美少女戦士セーラームーン」とコラボし、「ムーン(月)」の名の下に、特別なバッグと靴のコレクションを発表した。
このコラボレーションは、社会現象ともなった武内直子の原作漫画の30周年を記念したものだ。漫画のストーリーは、普通の中学生から美少女戦士セーラームーンに変身した月野うさぎと不思議な黒猫ルナの冒険物語だ。コレクションは、きらびやかな靴とバッグ、アクセサリーから成り、パリス・ヒルトン、ビリー・アイリッシュ、ミーガン・フォックスをはじめとするセーラームーンの熱狂的なファンが、コスプレのレベルを引き上げられるアイテムがそろっている。
ジミー・チュウのデザイナーであるサンドラ・チョイ氏は、セーラーマーズ、セーラーマーキュリー、セーラージュピター、セーラーヴィーナス、そして、セーラームーンが愛用する靴をモチーフに、このコレクションを構成した。
ナイキ x ティファニーのようにしてはいけない-Just (don't) do it
1月に発表されたナイキとティファニーのコラボレーションは、大きな話題にはなったが、実際には、何の変哲もないブラックスエードのナイキ エア フォース1にティファニー ブルーのスウッシュをあしらっただけで、控えめに言っても、評判の良いものではなかった。対照的に、ジミー・チュウとセーラームーンのコラボレーションは、双方の顧客層とブランド専門家のスイートスポットを捉えたようだ。
ブランドストラテジスト兼トランスフォーメーションリーダーのマーティン・ロール氏はCampaignの取材に対し、ナイキ x ティファニーは期待外れだったが、ジミー・チュウとセーラームーンのコラボレーションは秀逸だと評価した。コラボレーション側とエンドユーザー側の、双方の感情移入の度合いにバランスがとれているためだ。
「ブランドコラボレーションやコブランディングは、いつも正解が難しいです。そのため、リーダーにとっては、デューデリジェンス(適性評価)やブランド評価がとても重要な判断基準になります。すべての関係者が対等な立場にあり、どちらのブランドにも与えるものと得るものがあり、それぞれのブランドが自分たちの価値を守れているということが重要です。ブランドは、魅力を毀損するようなコラボレーションは避けたいはずです」とロール氏は断じた。
では、ジミー・チュウとセーラームーンはどのようにこれを実現したのだろうか?
「セーラームーンのファンとジミー・チュウの顧客の、双方が納得する靴をつくることで実現されています。一方はハイファッションを代表するブランドで、もう一方はアニメ文化の頂点に立つブランドですが、今回のコラボレーションでは、双方のオーディエンスから共感を得ることができています」とロール氏は続ける。
出来上がった作品は、トレンディーで、明るく、センチメンタルで、機能的でもあり、ジミー・チュウとセーラームーンそれぞれのブランドのアイデンティティーがとても尊重されている。
このコラボレーションはすでに、ソーシャルメディアでも大きな話題を呼んでいる。メディア分析、インテリジェンスエージェンシーのカーマ(Carma)によれば、このコレクションはTwitterで3万6000回以上メンションされており、インターネットユーザーの多く(22.7%)がこれを肯定的に受け止めている。ごく少数の否定的な意見(2.2%)も、主に価格設定が高額すぎることに対するもので、その他には、靴がすぐ完売したにもかかわらずブランドが宣伝を続けていることへの不満があった程度だ。
カーマは次のように解説している。「興味深いことに、否定的な意見であっても、コレクションに大きな問題があったと指摘しているわけではなく、むしろ全体的には、手に入れられなかったことへの失望というトーンが色濃く表れています」
「ジミー・チュウブランドに対する投稿を分析した結果、今回のコラボレーションによってコレクションの話題がピークに達した後も、ジミー・チュウブランド自体はオンラインで高水準のメンションを維持し続けていることが分かっています」(カーマ)
チョイ氏はデザインの美しさに加えて、2つのブランドがコラボレートすることの文化的な意義についてもコメントしている。「美少女戦士セーラームーンは世界的な社会現象を巻き起こし、その漫画とアニメは文化や言語の壁を越え、幅広い世代に語りかけ、私たち全員を一つにしました。だからこそ私はこのプロジェクトに惹かれたのです。このコラボレーションには、女性のエンパワーメントだけでなく、その個性や自信を通して、包摂性や人格も高めうるファッションの力という共通の価値観が反映されています」
セーラームーンの原作者である竹内氏は、このコレクションの芸術的な価値に満足しているようだ。「私の小さな脳内で生まれた個人的なキャラクターやストーリーが世界中に広がり、様々な人達に愛してもらえて最高に幸せです。私が最も大切にしているのは、少女達の若くてみずみずしい感性とパワー。それがブランド、ジミー チュウにはあると確信しました。私の大好きなクールなブランドです」
タイムレス(永遠の、不朽の)ではないとしても、タイムリーであり、ブランド間の合意に最高クラスがあるとすれば、まさにこれこそがそうなのだろう。