David Blecken
2019年1月10日

2019年を展望する:パート2

広告・マーケティング界で活躍する5人のキーパーソンが、今年の動向を占う。

(写真:Shutterstock)
(写真:Shutterstock)

2019年が幕を開けた今、広告・マーケティング界にはどのようなムードが漂っているのか。Campaignは5つの異なる領域 −− 広告、広告効果検証、ディレクション・制作、テクノロジー及びスタートアップ −− の精鋭たちに今年の予測、そして期待を語ってもらった。

答えてくれたのは、電通執行役員コーポレート・ブランディング・オフィサーの大内智重子氏、インテグラル・アド・サイエンス日本オフィスのマネージングディレクターである藤中太郎氏、グーグル・ブランドスタジオでAPAC担当ヘッドを務めるクラウディア・クリストヴァオ氏、制作会社ミスター・ポジティブ(Mr + Positive)の創設者ピーター・グラス氏、ADKマーケティング・ソリューションズで「SCHEMA(スキーマ、広告とテクノロジーを結ぶ新規事業開発プロジェクト)」を率いる寺西藍子氏の5名だ。

2019年のマーケティング界に最も期待することは何ですか?

大内氏:
「業界」という枠組みが消滅し、創造力を発揮するフィールドが飛躍的に広がること。クリエイティビティーとチャレンジ意欲に溢れた人材が一層集まり、お互いへのリスペクトとコラボレーションにより多くのイノベーションが実現されることを期待します。

大内智重子氏

藤中氏:
2019年のマーケティング界では、来たる東京五輪・パラリンピック大会が主要なテーマとなります。日本のブランドにとっては前例のない年であり、多くは漠然としたオリンピックのイメージの具体化に着手する。その差別化の鍵となるのは、イノベーションとクリエイティビティーです。日本の旅行・観光業界ブランドは消費者の注意をひくため、主要国内クライアントとともにあらゆる手段を講じるでしょう。国内ブランドにとっては実に刺激的な1年になる。多くのブランドがこのチャンスをものにし、「歴史」をつくることを期待します。

クリストヴァオ氏:
ブランドはもっとユーザーに敬意を払うようになるでしょう。正直さだけではなく、その長所を前面に押し出し、明るさと積極性を持って。

グラス氏:
“モノリス(映画「2001年宇宙の旅」に登場する謎の石柱状の物体)”の時代と言えるでしょう! 人類はグローバルカルチャーの「変革の夜明け」を目の当たりにしています。新たな時代は先進的な視覚的言語が生み出され、それによって牽引される。日本、つまり我々はプロデューサーとしてこの変革を最前線で引っ張っていくのです。では、なぜそうなるのか。ポストモダニズムを生きる我々は、言語を文明の基本的な「ブロック」とみなしています。ミレニアル世代にとっては、コミュニケーション手段である言語はますます視覚化されている。絵文字からインスタグラムまで、言葉よりもイメージを消費しています。もしイメージが千の言葉に匹敵するとしたら、社会的変革は既に急激に加速化したことになる。ですから、ここが面白いところですが、我々には文化を根底から刺激し得るチャンスがあるのです。我々が創造するメディアは、大衆を認識する新たなツール。それが真実であるなら、偉大な作品を生み出す責任がある。ウィトゲンシュタイン(オーストリアの哲学者、1889〜1951年)が的確に表現したように、「商業的コンテンツを生み出すことは、想像力の鍵盤を叩くようなもの」。我々の未来はまさにそれにかかっていると言えるでしょう!

寺西氏:
最も期待するのは、ブランディングとテクノロジーの融合のより一層の進化です。マーケティング的見地からテクノロジーというと、ビッグデータを見据えたアドテクノロジーを連想しがち。しかしブランディング的見地からすれば、もっと多くの意味があります。ブランディングは「どのようにブランドを見せるか」から「ブランドの意義は何か」に変わってきており、今後も変わっていく。PR的思考が主流になっていくように。こうした文脈からすると、我々マーケターは部署間に壁を設けるべきではなく、企業のさまざまな側面を活性化するため、テクノロジーを自在に使いこなせるようにならねばなりません。各企業が成長のために新たなテクノロジーをどのように使いこなすのか、非常に興味深いところです。

寺西藍子氏

逆に、心配な点は何でしょう?

大内氏:
経済の冷え込みへの懸念が人々のマインドに影響し、自らの世界を拡げていこうというバイタリティが低下することです。 

藤中氏:
広告詐欺やブランドセーフティ、ビューアビリティといった問題への認知が高まったことで、広告主が現在のKPI(重要業績評価指標)の欠点を強く意識し始めたことです。彼らはCPC(クリック単価)やCPA(顧客獲得単価)ですら、詐欺師に操作されていると考えつつある。詐欺師は、耐え難いほど膨大な無駄を生む要因ですから。広告主がこうした問題は解決できないとあきらめてしまい、旧態依然としたメディアバイイングに固執し、「パフォーマンスが悪い」とデジタル予算を減らすのは極めて残念なこと。消費者は既に従来型のメディアよりオンラインに多くの時間を費やしており、後戻りすることはほぼあり得ないのですから。

クリストヴァオ氏:
いろいろな懸念も、絶え間のない「ノイズ」に飲み込まれていくでしょう。

グラス氏:
我々の業界はさまざまな可能性を秘めているにもかかわらず、取るに足らぬものをたくさん生み出しています。そして、新しい方法論を否定している。お互いを助け合うのではなく、状況が厳しくなれば簡単に同僚でも裏切ってしまいかねないような空気もあります。しかしメディアの創出は賢明な試みで、今は肯定的な考え方が勢いを増している。実際、今の世界において楽観主義は最も破壊的な考え方であり、日本は世界をリードできるのです。経験豊かな映像作家たちは、繊細な文化を生み出すことに大きな情熱を持っている。我々は、縮小する予算と瑣末なアイデアから確実に「金」を精錬する錬金術師です。現在あるチャンスは、過去と未来の全ての可能性の結果なのですから。

ピーター・グラス氏

寺西氏:
日本ではデジタル広告がグローバルスタンダードに達していません。我々は「グローバリゼーション」という言葉をよく使いますが、もう既にグローバルの域にあり、世界レベルで仕事や行動をし、情報を吸収していることを理解しなければなりません。日本人は効率性よりも完璧さを重視します。グローバルスタンダードに照らし合わせた場合、それは正しいことでしょうか。また、GDPに貢献することでしょうか。こうしたことを自問自答していくべきでしょう。

今年1年に関する予言を1つお願いします。

大内氏:
人間が生み出すアイデアやパッションと最先端テクノロジーの融合が、新たな感動や欲望を生み出すでしょう。そして「広告業界」という呼び方自体が消滅、またはアップデートしてゆくと思います。

藤中氏:
2019年には、偽りのないインプレッション数や閲覧時間がもっと公になるでしょう。マーケターはより大きな業績を上げるため、メディアバイイングの手法を変えることになる。真のROI(投資利益率)を導き出すための検証に力を入れようという動きは、日本市場で長年の懸案だったパラダイムシフトの象徴となります。

クリストヴァオ氏:
「プレミアムな凡才」は魅力を失うと思います。より注目が集まるのは、世のための善行。それらはまだ数少なく、ユーザーは待ち望んでいます。

クラウディア・クリストヴァオ氏

グラス氏:
小麦ともみ殻は分けなければなりません。2カ国語を操るだけではもはや不十分です。「ノー」という言葉をよく聞きますが、それは意欲のない人々が発する言葉。肯定的な考え方こそが厳しい道を踏破し、優れた結果を生む可能性を広げます。その結果生まれる自信は、PPM(プリ・プロダクション・ミーティング)の書類から我々を解放してくれる。既にそれらは存在意義を失いつつありますが……。リスクには必ず見返りがある。未来は明るいのです!

寺西氏:
エアービーアンドビーやウーバー、リフト(Lyft)、スラック(Slack)といった企業は今年の新規株式公開が期待されていますが、経済に対する影響は計り知れないでしょう。5Gが優勢になれば、より多くのスタートアップが人間の行動基準や良識を根底から覆す。マーケティング的見地からすれば、今日のライバルは明日のライバルとは言えないのです。我々は予期せぬ出来事に備え、細心の注意が必要です。

藤中太郎氏

(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳・編集:水野龍哉)

提供:
Campaign Japan

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