Gemma Charles
2020年12月16日

2020年回顧:BLMの力

長年、広告業界は人種差別問題に対して「語る」のみで、具体的解決策を講じてこなかった。だが、ブラック・ライブズ・マター(BLM)運動は真の変革の原動力になりつつある。

抗議活動は世界各地に飛び火した。ロンドンでのデモの模様(写真:Getty Images)
抗議活動は世界各地に飛び火した。ロンドンでのデモの模様(写真:Getty Images)

今は抗議デモ用のプラカードは埃をかぶり、熱い議論も収束しつつあるかもしれない。だが、今年起きた人種問題への世界的な関心の高まりは、これからも失せることはないだろう。

事の発端は、5月25日に起きたミネアポリスの事件だった。これまで幾度となく繰り返されてきた、警察による黒人への残虐行為。今回の犠牲者はジョージ・フロイド氏だった。だが、この事件はいつもとは何かが違った。母親に助けを求める同氏を捉えた動画は、事件直後に一気に拡散。その悲痛な姿が、これまでの数え切れない暴行死事件とは異なる衝撃を人々に与えたのか。それとも、パンデミックで機能停止に陥った世界で、人々の抑圧された感情に火を付けたのか。

理由はどうあれ、人種差別に対する抗議活動は世界を席巻した。公私の枠を超えて「ブラック・ライブズ・マター(黒人の命も大切)」が叫ばれ、組織も個人も意識改革の必要性を強く認識したのだ。

英エージェンシー「クワイエットストーム(Quiet Storm)」の設立者でエグゼクティブクリエイティブディレクターのトレバー・ロビンソン氏(アフリカ系英国人)は、BLM運動が盛んになった今夏以降、人種問題の論議の在り方に変化が起きたと感じた。「満員の地下鉄車内にたとえてみましょう。普通なら、乗客たちは互いに目を合わせようとはしない。ところが、運動が起きてからは皆が真っ直ぐに互いを見つめ、活発に意見を述べ合うようになったのです」。

同氏はこれまで、街中で手を上げてもタクシーが止まらなかったり、電車やバスの中で通勤客に遠ざけられたりした経験を語った。子どもの頃には、人種差別主義者から唾を吐きかけられた。もし通った学校の就職担当教諭の意見を素直に聞いていたら、クリエイティブの才を犠牲にして、今頃は鉄道会社で働いていたことだろう。

「(運動がきっかけで)こうした様々な過去の出来事を思い出しました。そして今年になって初めて、周囲の人々が私の過去の経験を尋ねてくるようになった。これまで、そういう話は誰もしたがらないと思っていました。今では皆が共感を抱いてくれます」。

当初はフロイド事件に怒りを覚えた同氏だったが、そのエネルギーを何かポジティブなものに変えられないかと模索。そして、2007年に自身が立ち上げた取り組みを再び始めようと思い立った。労働者階級に属する有色人種の若者を広告業界に導くプログラム「Create not Hate(憎まず、創造しよう)」だ。

これは、業界を代表するクリエイターたちのもとに若者を送り込み、クリエイティブプロセスを学ばせようという試み。時には、実際のブリーフにも参加させる。

この7月から9月にかけて、14歳から25歳までの若者150人がこのプログラムに参加した。ある少年は当初、「広告業界なんかで働くつもりは全くない」と声高に話していた。だが最後には「このプログラムをやめたくない」と言うまでに。「まさしく、やり甲斐を感じた瞬間でした」とロビンソン氏。また、様々なエージェンシーが関わることで業界全体が一つになる効果もあるという。では、コロナ禍は同氏の将来に対する見方をどう変えたのだろう。「周囲の人々の変化に期待するのではなく、私自身がどう変化すべきかを考えています」。

BLM運動には、ベン&ジェリーズやナイキなどのブランド、「56ブラックメン」などのキャンペーン、そして広告業界などが呼応し、様々な公約を掲げた。たとえば、英国の非営利団体「クリエイティブイコールス(Creative Equals)」は人種差別と不平等の撤廃を業界に呼びかける文書を公表。こうした行動への評価が盛んに議論され、BLMを支持しながらも役員会を白人だけで占めているブランドは偽善性を非難された。黒人にとって、役員の人種構成に誰も異議を唱えないことは理解し難い。また、人種間の賃金格差の公表も課題にあがった。さらには、人材募集から人員配置に至る現行制度の見直しや、企業文化に関する従業員からの意見の聞き取りなどが日常的な課題となった。

アシュリー・アレイン氏が「ラップ(RAPP、オムニコムグループ)」の「多様性ストラテジスト」に任命されたのも、こうした動きを直接的に反映したものだ。社内で人種融合促進委員会を立ち上げた同氏は、現在その仕事の半分近くを、クライアントがいかに多様なオーディエンスにリーチできるかという課題に費やす。ロビンソン氏同様、「BLM運動が私自身を変え、私のキャリアも変えた」。

「職場、特にエージェンシー内での人種差別や不平等にまつわる常套句には辟易していました。ですから、私がこの地位に就いてから幅広い支援を得られたことにはとても勇気づけられた。具体的な取り組みや、行動に踏み出そうとする人々がみるみるうちに増えたのです」

「ア・バイブ・コールド・テック(Vibe Called Tech)」の設立者チャーリーン・プレンぺ氏も同様の意見だ。当初の同社の設立目的は、テクノロジーの発展が黒人社会にどのように寄与しているかを調べることだった。今年初めに方向性を転換、黒人のクリエイティビティーとブランドのコラボレーションの機会創出を目指した。最初のクライアントになったのはグッチだった。

「対話を通じて、多くのブランドが純粋にアプローチを変えたいと考えていることがよく理解できた」と同氏。自社にクリエイティブエージェンシーの機能を加えたのはBLM運動が起きる前だったが、その後の環境の変化が自身のプランを後押ししてくれたという。

同氏も他の人々同様、BLM運動の影響力は今後長く続くとみている。そして、黒人が複数の主要エージェンシーを経営する時代を思い描く。「多くの人々が、この流れを終わらせてはいけないと考えている。BLM運動の勢いはずっと続いていくことでしょう」。

(文:ジェマ・チャールズ 翻訳・編集:水野龍哉)

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