Junichiro Kurokawa
2021年1月22日

2021年は、顧客の体験を軸にビジネス全体を再構築する「BX元年」

局所的な改善だけで大きな成果を得ることが難しくなった今、企業に必要なのは顧客体験を基軸とした企業活動全般の設計だと、アクセンチュアの黒川順一郎氏は語る。

2021年は、顧客の体験を軸にビジネス全体を再構築する「BX元年」

2020年は新型コロナウイルス感染症のパンデミックを受け、私たちの購買行動や働き方、さらにはコミュニケーションのあり方などが劇的に変化した一年だった。その結果、従来のマーケティング手法が通用しなくなった企業は今、消費者に対してどのように向き合うべきか、根本的な戦略の練り直しを余儀なくされている。例えば、ECサイトの改築といった局所的な顧客接点の改善ではなく、2021年はCX(顧客体験)の一歩先を見据え、全社レベルでビジネスを変革していく企業とそうでない企業の優勝劣敗が、鮮明になっていくだろう。

このような状況において、日本企業が再びグローバルの舞台でスポットライトを浴びるためには何が必要なのか。「BX(ビジネス・オブ・エクスペリエンス)」をキーワードに、調査結果も交えて紐解いてみたい。

消費者と企業を取り巻く3つのトレンド

近年、多くの企業が新たなマーケティング施策としてCXの向上に注力してきたが、ECサイトの構築やスマートフォンアプリの提供は当たり前になり、局所的な顧客接点に着目した改善では、もはや差別化要因にはなり得ない。

加えて、昨今の消費者と企業を取り巻く状況として、1)優れたサービスに対する期待の高まり、2)似通ったCXの飽和(CXの同一性)、3) パーパス(企業が存在する意義)指向への飛躍、という3つの観点でトレンドが大きく変化していることも無視できなくなっている。

この3点について、それぞれ説明していこう。まず、デジタル技術の進展に後押しされ、企業サービスに対する消費者の期待値は上がり続けている。読者の中には、オンラインで購入した商品が翌日に手元に届いたことがある方も多いだろう。そのような体験をすると、異なる業界、サービスであっても、同じような迅速さを求めてしまうことはないだろうか。消費者は企業が提供する顧客体験を、業界を問わず同じ土俵に乗せ、横並びで比較するようになっている。このため、優れた体験を提供する一部の企業のみが評価され、その他の企業やブランドは消費者の信頼を勝ち取ることが難しいという「勝者総取り」の世界が到来したのだ。

次に、多くの企業がシンプルかつ直感的なUI(ユーザーインターフェース)の導入を進めた結果、CXの基本となる優れたUI設計は今や多くのサービスで実装され、当たり前のものになった。つまり、CXの改善だけで売上の増加や顧客ロイヤルティの向上などの素晴らしい成果を得ることは、かつてよりもはるかに難しくなっている。これがCXの飽和という課題である。

3つ目として、企業のパーパスに対し、消費者が一段と敏感になる流れがコロナ禍で加速したことが挙げられる。当社がグローバルで実施した最新調査によると、消費者の約8割が「企業のパーパスはCXと同じくらい重要だ」と回答しており、社会課題の解決や快適な生活の実現に貢献するビジョンやパーパスを掲げる企業がより信頼される傾向が強まっている。

企業が取り組むべきは「BX

では、こうした変化に対して企業はどのように対応していくべきだろうか。消費者は、オンラインでストレスなく発注した商品がスピーディーに手元に届き、手軽にアフターサービスを受けられるといった、首尾一貫した快適な体験を期待している。これを実現するためには、UI設計に留まらず、商品の開発、製造、在庫管理、配送、顧客サポートなど、企業活動を全般的に見直す必要がある。つまり、総合的に優れた顧客体験を提供するだけでなく、持続的に優れた顧客体験を創出する企業への変革が迫られているのだ。

顧客体験を基軸に企業活動全般を設計することを、当社では「BX(ビジネス・オブ・エクスペリエンス)」と呼ぶ。CXはこれまで主に最高マーケティング責任者(CMO)の担当領域だったのに対し、BXは組織全体で注力することが重要なため、CEOをはじめとした経営幹部が一体となり、部門の枠を超えて取り組むべき優先課題だ。実際、先述した調査でも、BX企業は同業他社と比べて長期的な収益力が6倍以上高いことが分かっており(以下の図)、企業の成長や存続に直結するテーマだといえる。

出典:アクセンチュア インタラクティブ 『エクスペリエンスは成長の原点:カスタマーエクスペリエンスを超えて、エクスペリエンス起点のビジネス変革へ』

ここまで、BXが求められる背景や、BXが経営へ与えるインパクトについて紹介した。では、BXを実現するために企業は何から着手したらよいのだろうか。次に挙げる4つのポイントが重要になる。

1.顧客データを部門横断で民主化・活用してニーズを特定し、アクションへつなげる

今後も変化し続ける顧客ニーズに応えていくためには、まず企業のパーパスをしっかりと定義し、どのような「価値」を消費者へ提供したいのか見極めることが必要だ。その上で、顧客が何を求めているかを正確に理解するために、マーケティングの枠を超え、全社レベルで顧客データを深く掘り下げてニーズを特定し、迅速にアクションに落とし込む仕組みを作ることが重要だ。

同調査では、成功している企業の半数以上が「顧客データに基づき迅速に行動する能力を備えている」と回答している。なお、日本企業の割合は22%と出遅れており、顧客データを効果的に活用する体制の整備が期待される。

2.イノベーションを一過性のものとせず、日常的な取り組みにする

企業活動を「機能」、「サービス」、「ビジネス」という3層に分け、絶えず革新を興す仕組みづくりに注力したい。アプリの更新など既存の顧客接点における機能面を継続的に改善しながら、これまでにないサービスを創り出し、やがて簡単に真似できないビジネスモデルの構築に昇華させる――このサイクルを定着させることで、企業の持続的成長も図ることができる。これには、社内でのプロジェクトの組成の仕方、プロセス・組織・アサインする人材を見直す必要がある。なお同調査で、「事業モデルを変革する敏捷性を有し、全社規模でイノベーションを興す体制が整っている」と答えた日本企業は26%で、グローバルの先進企業(50%)の約半分という結果だった。

3.部門の枠を超えて顧客体験を追求する

企業がBXを実現するためには、組織のサイロ化を排除することが欠かせない。つまり、フロントオフィス(営業、マーケティング、サービス、製品開発など)の各機能を融合し、バックオフィス(人事部門、サプライチェーンなど)と柔軟に連携することが大切だ。これにより、顧客体験の改善を絶えず意識しながら、全社一丸となって業務変革を進める組織づくりが可能となる。

4.テクノロジー、データ、人材を「ひと」の問題解決に結びつける

CEOや最高財務責任者(CFO)がテクノロジー、データ、人材への投資配分を最適化する際、クラウドやAIを活用したシステムの構築など、将来の成長と収益性向上につながる投資を優先し、顧客体験の改善を確実なものにすべきだ。実際、グローバルのリーダー企業の61%が「競争力を維持するためにどの技術基盤を使うべきか理解している」と回答しており、ここでも日本企業(28%)を大きく上回っている。

上記4つのポイントは、一朝一夕に完遂できるものではないかもしれない。しかし、経済の先行き不透明感がくすぶる今だからこそ、特に日本企業には大胆な変革への決断と実行が求められているのではないだろうか。自社が社会においてどのような「価値」を届けるのか、そのパーパスを示す証としてどのような顧客体験を提供するのか、そしてそれをいかに持続的に発展・運用させるのか、今こそ経営陣の強力な舵取りが期待される。


黒川順一郎氏は、アクセンチュアの執行役員 インタラクティブ本部 統括本部長。

(文:黒川順一郎、編集:田崎亮子)

提供:
Campaign Japan

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