David Blecken
2018年5月24日

Campaignが見た「アドバタイジングウィーク・アジア2018」(パート4)

「アドバタイジングウィーク・アジア2018」は5月14日から4日間に渡って、東京ミッドタウン(六本木)で開催された。そのセッションの中から、ローカライゼーションの利点、クリエイティブがいかに日本市場で優れたアイデアを生み出すのか、そして統一された「日本ブランド」作戦がなぜ頓挫する可能性があるのかについて紹介する。

カリル・ヨウンス氏
カリル・ヨウンス氏

コカ・コーラのグローバル・ローカルミックス戦略

グローバルブランドとブランドの目的を議題にしたセッションで、マッキャン・ワールドグループのジェシカ・デイビーCMOは「これまでは、マーケティングの究極の目的は効率の良さ(efficiency)でした。だが、もはやそれだけではなくなりました」と語った。「代わりに、効果(effectiveness)について考える必要があります。マーケットの中で機能するだけでは不十分で、マーケットに寄与することが必要。ブランドが果たす有意義な役割を認識せねばなりません。とは言っても、世界平和への貢献などといった大仰なものではなく、優れた機能を果たす優れた商品を創出するというシンプルなことです。ブランドの役割を特定できたら、次はそれを各市場にどのように展開するかを考えます」

このアプローチを試みる企業の一つが、コカ・コーラだ。別のセッションで、日本コカ・コーラのマーケティング担当EVPであるカリル・ヨウンス氏は、同社の日本での好業績はローカルとグローバルの特徴をうまく組み合わせた結果だと説明。同社が世界で最も利益を上げているのは日本市場であることは、あまり知られていないかもしれない。日本市場で61年の歴史を持ち、今では50のブランドと800を超える商品ラインナップが存在するが、社名の由来にもなった商品「コカ・コーラ」の売り上げは、全体の2割に満たないのだ。

あらゆる市場において土台となるのはメディア、とヨウンス氏は言う。これには広告費を払って掲載してもらう「ペイドメディア」、自社で運営する「オウンドメディア」、SNS上で共有される「シェアドメディア」、そして「アーンドメディア」(一般の人たちが勝手に商品を宣伝してくれる)が含まれる。「顧客とのコミュニケーションは、この4つに収束します」とヨウンス氏。

「いずれにもコンテンツがあります。できれば前向きなコンテンツが望ましいですね。そしてブランド体験があり、さらには人がブランドと関わるブランドカンバセーションがあります。これが3本の柱です」

その後の展開は柔軟だ。例えば、3月に発売開始した「紅茶花伝クラフティー」は、発売に当たってデジタルが主導的な役割を果たし、交通広告、屋外広告、大がかりな店頭でのデモンストレーション、サンプリング、プロモーション、「そして最後にテレビ広告」を展開したという。なぜこの広告に豪州人シェフ、カーティス・ストーン氏を起用したかについても、ヨウンス氏は説明している。

「日本では緑茶は日本のもの、烏龍茶は中国、そして紅茶は西洋のものという認識があります。クラフティーは日本国内向けの商品ですが、紅茶を使っており、西洋に関連していると考えたため、グローバルな有名人を起用したのです」。そして、ストーン氏がクラフティーを作る様子を描いたCMを作成したのだ。(Campaignでは以前、この作品をあまり評価していない旨を書いた。しかし、商品は国内でかなり受け入れられているようだ)

一方で、世界的な主要商品のプロモーションにはローカルの有名人を使うことが重要だと、同社では考えている。コカ・コーラについては、昨年10社の広告に登場した綾瀬はるかを起用。「彼女は日本人の典型と認識されており、コカ・コーラをもっとローカルな商品にしてくれる有名人。グローバルブランドにその国の有名人を起用し、ローカルブランドに世界的な有名人を使う。反直観的な考え方です」

ヨウンス氏は最後に、同社は「素晴らしい成果を、共に挙げたい」と考える者とは、誰とでも協業する用意はあると語った。「私たちはアイデアを求めています。胸を躍らせるようなアイデアを持っている人は、いつでも歓迎です」

データがクリエイティビティーをいかに支えるか。なぜクリエイターは媚びてはならないのか

どうすれば日本がもっと競争力を持つことができるかという広範なセッションで、メディアアーティストの落合陽一氏は、技術の応用と、「わびさび」のような伝統的な本質の再発見が必要だと論じた。さらに、日本は西洋の技術革新を追い求め過ぎたため、本来あったはずの優れた特性を見失ってしまったと指摘する。

落合氏によると、テクノロジーは文化資産の保全の一助となり得るとのこと。そしてAI(人工知能)が日本の美学と融合することで、例えば山本耀司氏のようなデザイナーの作品を末永く維持することが可能になると考えている。山本氏のキャリアを通じて蓄積された豊富なデータをもとに、AIのプログラムは山本氏のデザイナー精神を引き継いだ作品を生み出し続けるのではないかというのだ。

別のセッションでも、データのクリエイティブへの応用について議論されたが、こちらはクリエイティブディレクターによる対談だ。「クリエイターにとって最も重要なのは、過去のアーカイブを自分の中に持つこと」と電通の澤本嘉光氏。「良いと言われるCMを、とにかくたくさん見ることです。映画を作るのであれば、過去の良い作品を全部観る。ピカソのような偉大なクリエイターであっても、何もないところから作品を生み出すことはできません」

さらに澤本氏は、クリエイターは企画を好きか嫌いかという明確な見解を持つべきだという。さもないと、安全だが平凡な作品を披露することとなり、クライアントに媚びる結果となるという。

「自分が本当に好きな企画を提案することは重要」と賛同するのは、最近独立した篠原誠氏。「これではクライアントの承認を得られないと営業担当者が言うなら、私は彼らにその理由を尋ねます。納得できれば、その企画は提案しませんが、社内事情などが理由であれば完全に無視しますね」

最も重要なのは、対話することだ。「クライアントが怒るだろうからという理由で、コピーの変更を要求されたことがあります。それでも私はプレゼンに臨み、顧客は大変気に入ってくれたのです」と澤本氏は振り返る。「もし気に入ってもらえないのであれば、対話すればいいのです。私はこの対話の過程が好きです。そうすることで、私が本当に好きなアイデアを、自信を持って発表できるのです」

世界の中の日本は「パーティー会場で退屈そうにしている人たち」

イベントの終盤、国際社会における日本ブランドに関するパネルが3つ続いた。(Campaignの見るところ、日本人以外のパネリストが少なかったために、この試みは挫折したようだ。かくしてパネリストたちは、日本がどう見られているかの推測に、多くの時間を費やすこととなった。それでも、示唆に富むコメントもいくつかあった)

セッションのモデレーターを務めたブルーカレント・ジャパンの本田哲也氏によると、日本人は自分たちへの他からの認識を変える努力が欠如しており、世界からどう認識してもらいたいか、ほとんど考えていないという。

「日本人は認識をそのまま受け入れてしまい、変えようという努力はしません。西洋の人々は自分たちをどう認識してほしいのか、考えをしっかり持ち、そうなるようプランを立てています。ここは日本人の弱いところですが、チャンスはまだ残されています」

若い起業家、椎木里佳氏は日本政府が提唱する「クールジャパン」は、完全な失敗だったと指摘。自分たち自身を「クール」と謳うのはクールではないこと、アニメなど分かりやすい日本固有の特性を無視していることが理由だ。「私はそのことを東京都に訴えかけていますが、聞き入れてもらえません」

しかし、若い世代の発言が増えれば日本はもっとブランディングをしやすくなるだろうと椎木氏。インスタグラムが浸透するにつれ、「私たちは、人からどのように認識されているかに注意深くなります。自身の価値を傷つけるような情報を掲げることはありませんから」

最後のセッションでは、シンプルショージャパンの近衞忠大氏が、日本の文化予算は海外コンテンツに過大に費やされていると指摘。これを変えることで、日本人が自分たちのクリエイティビティーをより認識し、誇りを持てるようになると主張した。「海外と比較すると文化予算がもともと低い上、その7割は海外の映画や演劇に費やされています。この比率を逆転させることが必要です」

タグボートの岡康道氏は、日本の方向性には改善の余地があると言う。そして、「日本ブランド」の概念について考え過ぎることは時間の無駄だと指摘。日本はありのままの姿にもっと自信を持つべきであると同時に、もっとアプローチしやすい存在にならねばならないと訴える。岡氏によれば、世界における日本の現状は、パーティー会場の片隅で退屈そうにしている人たちに見えるとのことだ。

「近付いてみれば彼らは決してクールでないことはなく、興味深い存在なのですが、人はあまり近付こうとはしません。それが今の日本の姿です。でもパーティーはまだあちこちで行われるので、焦る必要はないことを日本人には理解してほしいと思います。人々の中に混じり合い、その結果として誰かがアプローチしてくるのであれば、それは素晴らしいことです」

(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳:岡田藤郎 編集:田崎亮子)

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