Jessica Goodfellow
2021年1月04日

Cookieの終焉に向けて、今、何をすべきか

プライバシーに関する統一された規制がなく、デジタルにおいてまだまだ成熟の余地のあるAPAC(アジア太平洋地域)は、プライバシー関連でこれから起きるであろう変化への準備が他の地域より遅れているかもしれない。12月8日に開催されたライブストリーミングイベント「Campaign Connect」では、コカ・コーラ、グーグル、マターカインド(Matterkind)、ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)の4社が、Cookieのない世界に向けたソリューションについて議論した。

Cookieの終焉に向けて、今、何をすべきか

グーグルは2020年1月、自社のウェブブラウザ「Chrome」でサードパーティcookieを2年かけて段階的に廃止する方針を明らかにした。その期限まで残り約1年となった今月、グーグルでAPACのプライバシー責任者を務めるジェシカ・マーティン(Jessica Martin)氏は、この地域におけるCookie廃止後のエコシステムへの準備状況を、「APACの多様性と同じくらい様々だ」と評した。

マーティン氏はその理由を、APACではデジタル成熟度とデータ規制の水準がまちまちで、プライバシーについてユーザーが期待する内容にも違いがあることだと考えている。欧州では、ユーザーからの同意の取得を義務付けるGDPR(EU一般データ保護規則)が2018年に施行され、その後米国でもCCPA(カリフォルニア州消費者プライバシー法)が施行された。その結果、これらの地域ではプライバシー保護に対する消費者の期待が高まっている。しかしAPACでは、同様のデータ規制の枠組みの導入状況が市場によって大きく異なっているのが現状だ。

「APACにおけるプライバシーという言葉の指す意味は、ユーザーがそれに期待する内容だけでなく、私たちが目にする規制の面でも異なっている可能性がある。個人情報を共有デバイス上で秘密にしておくことがプライバシー保護だという市場もあれば、別の市場では十代の若者のインターネット利用において、プライバシーは完全にコントロールするものということを意味するかもしれない」とマーティン氏は指摘した。

その結果、APACの一部の市場では、アップルやグーグルなどの大手テクノロジー企業による今後の変更が広告主やパブリッシャーにどのような影響をもたらすのかについての認識や理解がまだ不足している状況にある。

「私がパブリッシャー、広告主、アドテク企業、エージェンシーと意見交換したところによると、APACにおける課題は啓発ということになる。つまり、マーケターやメディアエージェンシーは、APACには今後の状況や将来の見通しについてだけでなく、今何を準備すべきかについても十分な情報がないとみているのだろう」とマーティン氏は推測した。


マーティン氏は12月8日、WSJの後援による「Campaign Connect」のパネルディスカッションに参加し、APACの広告主とパブリッシャーが、プライバシー優先のCookieのない世界に向けて、どのように準備を進めているかについて語った。「Chrome」のサードパーティcookie廃止に向けた動きは、先行するアップルの「Safari」やMozillaの「Firefox」と同じく、インターネットユーザーが自分のデータをより細かくコントロールできるようにすることが目的で、大手テクノロジー企業が進めている大規模な取り組みの一環だ。アップルは、Cookieを廃止するだけでなく、ユーザーから同意を得るための厳格な仕組みをアプリパブリッシャーに受け入れさせようとしており、開発者はデータ収集に関する透明性をあらかじめ高めておく必要に迫られるだろう。しかし、ユーザーから同意を得るのは難しい場合がある──したがって、サードパーティcookieの差し迫った終焉と相まって、ターゲティング、測定、アトリビューションのアプローチは劇的な変化を迫られるだろう。

グーグルのChromeは、こうした状況に正面から対応すべく、「プライバシーサンドボックス」を立ち上げた。これは、業界がプライバシー優先の新たなウェブ標準策定に向けて協力するためのフォーラムとして提出されたものだ。マーティン氏はAPACにおける業界の取り組みについて、「良好だが、私たちはもっとできるだろう」と述べた。例えばヤフージャパンは、FLoC(Federated Learning of Cohorts:コホートの連合学習)と呼ばれる手法の評価を行っている。FLoCは、各ユーザーのブラウジング行動を追跡するのではなく、同じような関心を持つ人々の集団(フロック)に対して広告を配信することを目指した仕組みだ。マーティン氏は、こうした「包括的な」ソリューション開発のる取り組みに、より多くの業界のプレイヤーが参加することを望んでいると語った。

一方、コカ・コーラのAPACマーケティングテクノロジーディレクターを務めるヴィディヤト・スリヴァトサン(Vidyarth Srivatsan)氏は、業界はウォールドガーデンの外で協力すべきだと考えている。FLoCのようなプライバシーサンドボックス内での取り組みはコンテキストに基づくソリューションを重視したものだが、共通IDを利用したソリューションなら「測定やアトリビューションの点で状況を大きく改善できる詳細なデータ」を提供できると同氏は話す。

スリヴァトサン氏は共通IDを強く支持しており、2019年6月に行われた「ATS Singapore」カンファレンスでも業界の協力を呼びかけていた。それから1年半が過ぎた今、インタラクティブ広告協議会(IAB)の研究開発コンソーシアムであるIAB Tech Labが提唱した「デジトラスト(DigiTrust)」のような、中立的なサードパーティとの協力によるいくつかの試みは「失敗に終わった」と、同氏はCampaign Connectで指摘した。その一方で、ザ・トレード・デスク(The Trade Desk)の「Unified ID 2.0」を「私が見た中で最も成功している取り組み」だと評価し、その理由は「すぐに使えて、牽引する力がある」からだとした。

「共通IDは多くの企業から受け入れ可能なソリューションとして位置づけられている。大規模でオープンなインターネットを維持するには共通IDを成功させなければならない」とスリヴァトサン氏は語った。特に懸念しているのは、グーグルなどの企業がCookieからプライバシー優先の手法に移行することで、ウォールドガーデンの持つ力が強化されることだという。

「私たちが期待すべきなのは、プライバシーに関する取り組みの結果として、グーグルやフェイスブックなどが築いている数多くのウォールドガーデン間で競争が起こることだ。だが私の予想では、この分野にはるかに大きな影響がもたらされるだろう」とスリヴァトサン氏は懸念する。そうした状況では、小規模なパブリッシャーや広告主が、デジタル事業のROI(投資利益率)の減少に見舞われるリスクがあるというのだ。

「膨大なデータを持つブランドや大企業は大きな恩恵を得られるが、ファーストパーティデータが乏しい企業は、即座に最悪の状況に陥ってしまうだろう」とスリヴァトサン氏は指摘した。

スリヴァトサン氏は、グーグルが共通IDソリューションのようなオープンインターネットの取り組みに参加していないことを非難した上で、「問題は、(グーグルが)エコシステムの繁栄を目指しているのなら、なぜオープンなインターネットイニシアチブに参加しないのか、なぜそのメリットを独り占めするのでなく、業界全体で分けあおうとしないのかということだ」と指摘した。

それに対し、グーグルのマーティン氏は「業界や広告主、それにマーケターがさまざまなIDソリューションを開発しようとしている理由は理解できる。消費者のプライバシーを尊重し、選択、同意、およびコントロールできる力を消費者に与えるものである限り、そのような取り組みは好ましいものであり、私たちもその話し合いに関わっていくことを望んでいる」と応じた。

ブランドとパブリッシャーはどのように取り組みを始めるべきか?

アップルやグーグルといった企業によるプライバシー優先の取り組みの影響で、小規模なブランドやパブリッシャーが悪影響を受けるリスクがあるとしたら、彼らは自社を守るために何をすべきだろうか?

コカ・コーラのスリヴァトサン氏は、そうしたブランドに対し、ファーストパーティデータ戦略の構築に注力すべきだと提案した。「私たちを取り巻く状況がどうなろうとも、これは誰もがやらなければならない最も重要な取り組みだ」

そのための方法はいくつかある。例えばコカ・コーラは、自動販売機と情報をやり取りするアプリからモバイルIDを収集するという方法でファーストパーティデータを増やしている。小規模なブランドであれば、グーグルなどのテクノロジー企業やWSJなどのパブリッシャーが保有するウォールドガーデンのデータで構築された「クリーンルーム」のデータと自社データのマッチングを検討してもいいだろう。

さらにグーグルのマーティン氏は、ファーストパーティデータ戦略を構築するリソースや手段を持たない企業に対し、他社との提携を検討することを提案した。「APACでは、日産自動車がマイティハイブ(MightyHive)と提携して、強固なデータ収集、データの分析、プラットフォームの統合で支援を受けるなど、いくつかの優れた事例が見られる」と同氏は指摘した。

WSJバロンズ・グループのAPACのメディアセールスおよび「ザ・トラスト(The Trust)」部門を率いるジュリア・クライン(Julia Clyne)氏は、ブランドとパブリッシャーに対し、データインフラを構築するようアドバイスした。同社は数年前から、すべての顧客データを整理して一元化されたデータレイクに統合し、広告主向けプロダクトの開発に利用できるようにしている。クライン氏は、そのデータを整理してタグを付け、分類するのに2年を要したと言い、パブリッシャーにとっては「長期にわたる複雑な」作業だが、投資する価値は十分にあるとした。

「データ変換作業への投資は、顧客に関する知識を構築するための投資に他ならない。顧客に関する知識が増えるほど、顧客との関係が強化され、より顧客のためになるプロダクトを開発できるようになる」とクライン氏は語る。「とりわけ、2020年のようにコストが厳しく精査される年には、顧客についてより多くのことを学ぶことで、ビジネスの回復力と強みを増し、長期的な成功に向けた態勢を整えられる」

中国では、Cookieは一般的に使われる広告ツールではない。だが、この国特有のインターネットエコシステムでは、BAT(バイドゥ、アリババ、テンセントの3社)のウォールドガーデンに力が集中しているため、ブランドがデバイスIDなどのファーストパーティデータを収集したり、プラットフォーム間でデータを相互に比較したりすることは困難だと、広告代理店のマターカインドで中国支社のCEOを務めるジョナサン・ベイ(Jonathan Beh)氏は指摘する。同社が力を注いでいるのは、広告主による共通ID(ベイ氏はこれを「ワンメンバーシップ(one membership)」と呼んだ)の開発を支援する取り組みだ。その狙いは、中国の細分化したエコシステムの中でブランドが顧客データを保持できるようにすることにある。

「欧米におけるグーグルと同じく、BATによって、私たちが特定のデバイスIDを収集する能力は制限されている。収集したデータはフォーマットが統一されておらず、部門ごとに分断されていることが通例だ。そこで私たちはデータアーキテクチャの設定を強化し、クライアントの負担を軽減できるようにしている」とベイ氏は語った。

マターカインドの目的は、顧客とのさまざまなタッチポイントがすべて関連付けられた「ワンメンバーシップ」を生成することにある。その上でCDP(カスタマーデータプラットフォーム)の機能を利用すれば、セカンドパーティデータをファーストパーティデータと関連付けられるようになる。ただし、このようなマーテックシステムを自社で構築するリソースを持たない小規模なクライアントに向けては、ベイ氏も中国のパブリッシャーのデータクリーンルームを利用することを提案した。

提供:
Campaign; 翻訳・編集:

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