Rahul Sachitanand
2021年7月07日

カンヌライオンズ2021:APAC勢は苦戦

今年のカンヌライオンズで、APAC(アジア太平洋地域)勢は3部門のグランプリを獲得した。だがエントリー数は減り、審査員の数も不十分なまま。苦しい闘いを余儀なくされた。

カンヌライオンズ2021:APAC勢は苦戦

3つのグランプリという結果は、前回2019年大会(昨年は新型コロナウイルスによる影響で中止)をわずかに上回る。栄冠に輝いたのはオグルヴィ・パキスタン(通信大手テレノールのキャンペーン)と、電通マクギャリーボウエン台湾(不動産大手シンイ・リアルティのショートフィルム、下)。一方で、ゴールドとシルバー、ブロンズを合わせた賞の獲得総数はやや減少した。パンデミックの影響でエントリー数が減り、大会の課題である審査員の多様化も大きく改善せず、APACにとっては苦戦の年となった。

好結果を出せなかった理由は様々ある、と広告界のエグゼクティブたちはいう。ラジオ&オーディオ部門で審査委員長を務めた電通マクギャリーボウエンのグローバルプレジデント、マーリー・ハイミー氏は、「はっきりとした理由はわからない」と話す。「大会期間中、私は他の多くの審査員室でも仕事をせざるを得なかった。たくさんの作品と向き合うと、判断の基準がぶれてしまいがちになります。だからこそ、審査員の多様性が重要になる。様々な視点から捉えた公平な審査ができますから」。

賞の獲得には苦戦したが、注目すべき作品がいくつかあったと語る人もいる。「個人的には、賞の獲得数は問題ではない」というのはBBDOインドの会長兼チーフクリエイティブオフィサー(CCO)、ジョシー・ポール氏。「各国の相違点と地域が抱える様々な課題に光を当て、深みのある多様な視点を提起することこそが重要。それが、世界中から選ばれた審査員の意識を変える力にもなります」。

APACは今年、9つのゴールドを獲得(前回は8つ)した。だが、シルバーとゴールドの数は減少。チタニウム部門では受賞できず、非営利団体などに贈られるグランプリ・フォー・グッドも獲得できなかった。受賞総数は113。国別で最も多く受賞したのはオーストラリアで29。次いでインドが22、日本が14。これら3カ国が他のAPAC諸国を大きく上回った。因みに前回のAPACの受賞総数は120。国別の上位3カ国は変わらず、豪州36、インド18、日本16だった。

昨年の中止によって、今年は2019年3月から2021年4月の間に発表された作品が審査対象となったが、APACのエントリー数は減少。特に目立ったのは中国とインドで、中国は前回の941から660に、インドは1050から669と大幅減。タイも427から271となり、豪州と日本も同様だった。

その大きな要因がパンデミックと徹底したコスト削減策であることは明白だが、欧米主要国のエントリー数は前回と同レベルか、むしろ若干増加した。例えば、米国は前回の8138から9124に。同じくフランスとドイツ、カナダも増加。一方、英国は2268から2192とやや減少した。

賞の獲得数とエントリー数に加え、今大会を物語るもう1つの要素がある。それは、APACから選ばれた審査委員や審査委員長の数が相対的に少なかったことだ。これは当然ながら、APACにとって不利な結果をもたらす。APACから選ばれた委員長は前出のハイミー氏に加え、ディレクト部門のリード・コリンズ氏(オグルヴィ)、デザイン部門のキンバリー・バートコウスキー氏(IBM APAC)、モバイル部門のシーマス・ヒギンス氏(RGA)、エンターテインメント・ミュージック部門の藤見田門氏(マッシブミュージック)、イノベーション部門のクラウディア・クリストヴァオ氏の6人。他の委員長は、依然として欧米諸国が占めた。

だがBBDOのポール氏は、受賞数に反して作品の質は向上したと評価する。「全体的に、受賞作は過酷な現実を描写した真摯なものが多かった。APACの作品も同様です。パキスタンと台湾に初のグランプリをもたらした2作品は、まさにそうした特徴を有していた」。

社会に資する特筆すべき作品もあった。FCBインターフェイス・インドによる「The Punishing Signal for Mumbai Police」と、サーチ・アンド・サーチ・メルボルンによる王立オーストラリア造幣局の「Donation Dollar」(共に上)だ。「今年の大きな特徴は、社会にとってより有意義な作品を審査員が重視したこと。現実を反映し、持続可能性が高く、社会に継続的変化を強く促すような作品が評価されました」(ポール氏)。

(文:ラウル・サチタナンド 翻訳・編集:水野龍哉)

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