Louise George Kittaka
2018年12月12日

キャリアを成功させる「パーソナルブランド」

ソーシャルメディア上では時に、あらゆる人々が自分の売り込みに躍起になっているかのように見える。「過剰な売り込み」のイメージを与えず、パーソナルブランドを確立するにはどうしたらいいのか。そして、そこから得られる見返りとは。

キャリアを成功させる「パーソナルブランド」

広告やマーケティングのプロたちは日々、他社のブランディングに精を出す。だが今、業界ではセルフブランディングに対する注目が集まっている。

セルフブランディングという考え方が生まれたのは今から20年以上前のことだ。考案したのはビジネスデベロップメントに関する米国の大御所、トム・ピータース氏。同氏は1997年、ファーストカンパニー(Fast Company)誌にこのようなコメントを寄せた。「我々は皆、『ミー・インコーポレイテッド(Me Inc.=“私”株式会社)』という自分自身の会社のCEOだ。今日のビジネスで最も大切なのは、『自分』というブランドの一番のマーケターになること」。

リクルーターにとっては通常のスカウト業務だけでなく、社内で名の通った人間を知ることが優秀な人材の発掘に役立つようだ。米ジョブバイト(Jobvite)社が最近行ったリクルーターへの調査によると、回答者の95%は「雇用市場では競争力あるパーソナルブランドが不可欠」と答えた。ではどうしたらそのパーソナルブランドを確立できるのだろうか。

「ソーシャルメディア版」エレベーターピッチ

アジア太平洋地域で代理店事業に携わってきたマイク・フォースター氏(現在はWWP傘下のインターナショナル・アクティベーション・エージェンシー「ジオメトリー・グローバル」の韓国担当CEO)はこのように語る。「アジアでは文化的に、個人よりも会社としてのブランドが重視されてきました。だがその流れは明らかに変わりつつある。スタートアップの台頭や他国への移動の機会、オンライン主導によるビジネスモデルの増加などで、個人が目立つことの必要性と欲求がこの地域でも増しているのです」。

「パーソナルブランドは個人のスキルや個性、価値観を表現するために用いられる。エレベーターピッチのソーシャルメディア版に例えられます」と同氏。「まず大切なのは、ビジネスにおけるコンテクストでなぜあなたが重要か、そしてクライアントの要求にどう応えられるかを明確にすること」。ただし、パーソナルブランドの確立には時間がかかるともいう。「パーソナルブランドは即座に生み出せるものではないし、成功への近道でもありません」。

広告業界では、短期的プロジェクトのためにフリーランスのクリエイターが一時的に集まることがよくある。こうした環境ではパーソナルブランディングは有効に機能するだろう。日本とロサンゼルスでブランデッドエンターテインメントや映画・テレビ番組の制作を行うクリエイティブブティック「ストーリーズ(Stories、博報堂グループ傘下)」の創設者でCEOでもある鈴木智也氏は、「優れたプロジェクトは優れたチーム作りが土台。プロジェクトのためにベストのチームを作るには、会社や個人の業績が極めて重要です」と話す。

「クリエイター側も、誰の何のプロジェクトに時間を費やすのかという点を重視する。自分たちの時間やリソースを投じる価値がある、意義深いプロジェクトに関わっているという実感を得たいのです。そのためにも、彼らにとってブランディングが重要となる」

「あなた自身」であれ

競争力あるパーソナルブランドを確立するためには、ソーシャルメディアの活用に精通していることが明らかに必須条件だ。「セリング・メイド・ソーシャル(Selling Made Social)」社の創設者でヘッドコーチでもあるタイロン・ジュリアーニ氏(フォーブス・コーチ・カウンシルのメンバー)はこのように語る。「我々はあまり気づいていませんが、誰もが既にパーソナルブランドを持っているのです。誰もが市場で、プロとしての評価を受けている。要は、その評価を高める意思が自分にあるかどうか。パーソナルブランドを確立してその評価を常に誰かとシェアし、それを市場ではなく自分自身でコントロールするのです」。

また独立して仕事をするつもりならば、「先方に信頼できる人物と思わせることが大切。ソーシャルメディアこそがそれを可能にしてくれる」とも。「影響力を持つインフルエンサーは、よく練られた提言や意見をソーシャルメディアに投稿します。自分のブランドを確立する上でこれらはヒントになるでしょう」。

更に、自分のオーディエンスをつくることも肝要だ。そのためにソーシャルメディアは大いに役立つ。ジュリアーニ氏は、「全ての人々を喜ばせようと考える必要はまったくない」という。「誰ものニーズを満たすのは不可能です。大切なのは、あなた自身でいること。そうすればその姿勢に共鳴するオーディエンスが必ず現れる。自分に正直なパーソナルブランドを作ることで、あなたに親近感を覚え、ブランドに魅力を感じてくれる。つまり、本当のあなたが必要な人から仕事を依頼されたり、アプローチされたりするのです」。

マーケティングとリクルーティングの専門家、エマ・オズボーン氏も同様の考え方だ。シンガポールの「アスパイヤ・アジア(Aspire Asia)」社でマネージングディレクターを務めたオズボーン氏は、最近になって自身のコンサルティング会社「エバーエマグリーン(EverEmmaGreen)」を設立した。「他人と似たようなことをするのではなく、本当のあなたらしさが重要です。目的がビジネスだろうがパーソナルだろうが、あらゆるソーシャルメディア上で発信するメッセージやテーマ、パーソナリティーが一貫していなければならない」。

従来型の対面でのやり取りも軽視してはならない。「もしあなたがフリーランスで自分のウェブサイトやブランド、ロゴマーク、マーケティング素材を持っているのならば、面接の際に自分のクリエイティブや戦略の方向性を相手に納得してもらえるよう準備しておくべき」と同氏。「業界のイベントや雑誌、ポッドキャストに出る機会も逃すべきではない。それによって特定分野やテーマのプロとしての地位を確立でき、他人よりも有利な立場に立てるからです」。

パーソナルブランディングへのロイヤリティー

あなたがインスピレーションを求めているのなら、アイソバー・グループと電通イージス・ネットワークの傘下にあるモバイル・リテール・コマースエージェンシー「ベリースター(VeryStar、本社:上海)」の創設者兼CEOミラン・ジアン氏の成功例がうってつけだろう。「モバイルコマースの女王」と言われるジアン氏には微博(Weibo)上に10万人以上のフォロワーがいる。

「ソーシャルネットワークが高度に発達した今の時代、結局大切なのは個人のパーソナリティーとストーリーです。まずはじめに、自分の位置付けやキャラクターを明確にすることが重要。例えば私は、自分に関して3つのキーワードをタグ付けしました。モバイルとマーケティング、そしてテクノロジーです」。

セルフブランディングで極めて大切な要素は「一貫性」という同氏。「毎朝早く起きて新聞を読み、インスピレーションを受けた記事があれば自分のコメントをつけて微信(WeChat)のグループやモーメント(Moments、フェイスブックの写真共有アプリ)に投稿します。微信には通常、食べ物や遊びに関するものは載せません。モーメントへの投稿の9割以上は、自分の仕事に関する内容や情報です。その理由の1つは役立つインサイトをシェアしたいから。もう1つは、プロとしての意識を維持したいからです」

それでも時には、「人間味が感じられるもの」を投稿するという。「温かみとカリスマ性が感じられるパーソナルブランドは、より多くの人々を惹きつけますから」。

両刃の剣なのか

が、誰もがソーシャルメディア上でのブランディングに賛意を示すわけではない。ゼニスメディア(Zenith Media)のイノベーション責任者であるトム・グッドウィン氏は、いくつかの落とし穴を指摘する。「今年はブランドが人間のように行動し、人間がブランドのよう行動したいと考えるようになった年です。こうした戦略や最適化、そして偏執的な考え方はやめ、人間は人間としてありのままでいるべきです。我々はヒトであり、興味を持ち、人格や個性がある。なぜそれを戦略化する必要があり、ありのままの姿でいられないのか理解できません」。

「私は業界で若干名前が知られているので、ビジネス上の利益をたまに受けることがあります。でも、後悔することも多々ある。注目を受ける代償として他人から中傷を浴びたり、馴れ馴れしい言葉を投げかけられたり、時には馬鹿扱いされたり……。彼らは私がどんな人間か分かっているといわんばかりなのです」

エージェンシーがクリエイティブな人材を雇用する際には、卓越したパーソナルブランドは「両刃の剣になる可能性がある」とも。「特定の人材を探していないのなら、『ブランド化した人』を雇うのはお薦めできません。あくまでも人間性に優れ、明確な思考を持ち、思慮深い人を雇うべきでしょう。そうした人材こそが後に『ブランド』になってくれる」。

「ブランドと称する人たちには欠点が見受けられます。彼らは自分たちがエージェンシーより優れていて、自分のやり方で物事を進めたり、自分の要求を通したりできると考えがち。これは明らかに厄介なことです。その一方で、評判の高い個人は重要なクライアントとのより良いコミュニケーションにつながり、ミーティングで役立ったりします。そうすればほかのスタッフも臆せず自分の役割を演じられるようになる。こうした面は非常に有意義でしょう」

このようなパーソナルブランディングの概念にピンとこなくても、すぐに心配することはない。特に日本のような企業主導の労働市場では、従来型の手法できちんとしたキャリアを築くことはもちろん今でも可能だ。

「プロダクションとポストプロダクション、クリエイティブマネジメントのハイブリッド・ラボ」というコネクション(本社・東京)のプロデューサー兼CEOのティモ大槻氏は、「クリエイティブ界ではフリーランスの存在が大きくなっているものの、いまだに売り手市場」と話す。「故に、残念ながらパーソナルブランディングに興味を持つ人は少ない。雇用市場で職を得る方が容易だからです。しかしパーソナルブランディングは広がりつつあり、必要がないと考えるのは危険なことでしょう」。

(文:ルイス・ジョージ・キタカ 翻訳・編集:水野龍哉)

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