David Blecken
2016年10月12日

「コカ・コーラパーク」は、なぜ終わるのか

清涼飲料の巨大企業コカ・コーラは、デジタル戦略の中心をスマートフォンアプリに移行する改革に取り組む。

自販機などのサービスと消費者をつなぐアプリ、コークオン。(c.cocacola.co.jpより)
自販機などのサービスと消費者をつなぐアプリ、コークオン。(c.cocacola.co.jpより)

日本コカ・コーラは、10年近く運営してきたオンラインのメディアプラットフォーム「コカ・コーラパーク」を12月に終了する。消費者行動の変化に対応する動きと見られる。

コカ・コーラパークはブランドが保有するメディアとしては日本最大級で、会員数は1,300万人以上。各種ソーシャルプラットフォームを管理し、コンテンツマーケティングサイト「コカ・コーラジャーニー」にトラフィックを誘導するため2007年に立ち上げられたポータルサイトだ。日本コカ・コーラの 企業サイトでは、「コカ・コーラパークからコカ・コーラジャーニーへの月間訪問者数を100万人以上に」という目標を掲げている。

コカ・コーラ アジアパシフィックグループのパブリック・アフェアーズ及び広報担当バイス・プレジデントであるパブロ・ラルガチャ氏は、「消費者のニーズにより即した取り組むに移行するため、コカ・コーラパークを終えることになった」と語る。

同氏は、コカ・コーラパークのポイントプログラムや手軽に楽しめるゲームは消費者に「一定のアピールができた」とする一方、「ここ数年で、デジタルスペースにおける消費者行動やニーズが大幅に変化しました。コカ・コーラパークが消費者、特に若年層を取り込む上で最適のプラットフォームではなくなったという判断です」と述べる。

これに代わるロイヤリティープログラム(顧客の忠誠度を挙げるプログラム)がスマートフォンアプリの「コークオン」。「我が社の自販機やブランドサイト、企業サイトのコカ・コーラジャーニーなどから様々な特典が受けられるようになります」とラルガチャ氏。究極的には消費者とのコミュニケーションを進化させ、「より良い消費者体験を提供する手助けになるでしょう」。すでにコークオンは、コカ・コーラウエストの全国売上高を3%以上伸ばす効果を発揮しているとも言う。

ジェイ・ウォルター・トンプソン・ジャパンでデジタル・ストラテジー・ディレクターを務めるマルコ・クーダー氏は、日本コカ・コーラはデジタル上で豊富な取り組みを展開してきたものの、戦術的なものに偏りがちで、「整理統合が必要な状況だった」と分析する。

では、コカ・コーラは日本のソーシャルメディア上でどれほどの存在力を発揮しているのか。フェイスブックのファン登録は約100万、ツイッターのフォロワーは56万人だ。まとまった規模ではあるが、コカ・コーラパークの登録者数よりは少ない。さらに、それら登録者が実際に同サイトを利用しているかどうかという疑問も残る。因みに、日本ではアプリの約80%が実際に使われていない「ゾンビ・アプリ」なのだ。

BBDOジャパンのプランニング・ヘッドである谷津かおり氏は、コカ・コーラの戦略にはゾンビ・アプリから抜け出せるかどうかという課題はあるものの、「大胆かつ踏み込んだ決断」と評価する。「企業のデジタル戦略が、次の段階に移りつつあることが分かります」。

クーダー氏も、デジタルを分けて戦略を立てる時代はすでに終わっており、「賢い選択です」と前向きに捉える。「コークオンでオンラインとオフラインのつながりが大幅に改良され、実際の購入とリピート購入につながっています。KPI(重要目標達成指標)やROI(投資収益率)に重点を置いたアプローチも可能になるでしょう。今後の革新的な事業戦略につながるはずです」。

例えばドイツでは、スマートフォンやタブレット向けアプリの「ゲット・ハッピー」がコカ・コーラと小規模レストランとをつなぎ、新たなビジネスチャンスを生んでいる。日本で同社は、飲食と直接関係のないキャンペーンの展開でも知らている。その一例が、最近発表したストリートファッションブランド「SOPH」とのフットボールラインでのコラボだ。

コカ・コーラは日本の清涼飲料のトップで、市場シェアで約25%を占める。最大の競合相手は、サントリーとアサヒの2社。

(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳:鎌田文子 編集:水野龍哉)

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Campaign Japan

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