Visha Naul
2020年5月28日

「ジェンダー平等」に沈黙する男性たち

広告業界は男女の協働があってこそ成り立つ。だがジェンダー平等の実現に取り組むのは、往々にして女性だけだ。

ヴィシャ・ナウル氏
ヴィシャ・ナウル氏

優れたキャンペーンやプロジェクト、そして組織などに共通する要素とは何だろう。秀でたリーダーシップや人材、あるいは経験に基づく斬新な発想 −− これらはどれも重要だが、何より欠かせないのがチームワークと協働だ。今回の新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)への対応で、それは十分に証明された。

成功とは往々にして、才能豊かな個人の集まりが共通の目標に向かって協働することで生まれる。スタンフォード大学の研究によると、協働は人間社会を特徴づける一面であり、時に「仕事」を「遊び」に変えてしまう(少なくともそういう気にさせる)ほどのモチベーションを個人に与えるという。

広告・テクノロジー業界では、これまで女性たちが目覚ましいアクションを起こしてきた。女性同士で助け合い、協働し、地位を守るための組織を立ち上げた。私が所属する「ザ・フューチュアズ・ネットワーク(The Futures Network、英国)」もそうした組織の一つだ。

2014年に設立されたフューチュアズが注力するのは、目標を掲げて社会を変えようとする女性たちの支援と啓発だ。「WACL(Women in Advertising & Communications London)」「クリエイティブ・イコールズ(Creative Equals)」「ブルーム(Bloom)」など、こうした組織は企業内も含め数多くあり、それぞれが独自の目標を持つ。これらが積極的な提言やイニシアチブで社会を前進させ、次世代に指針を示してきたことは嬉しく思う。

とは言え、IPA(Institute of Practitioner in Advertising、英国の広告代理店協会)の「エージェンシー・センサス(調査)2020」によると、ジェンダー平等の歩みは依然として遅い。企業の経営幹部の40%を女性にするという目標もいまだに達成されていない。ささやかな進歩は、中間管理職の女性が3.8%増加したことだ。では、どうしたらこれらの数字をもっと上げられるのか。障壁となっているのは何なのか。私には二つのことが思い当たる。

⒈     男性たちの「不在」

広告業界は男女の協働なしでは成り立たない。それがあってこそ公正な尺度が確立される。だが、ジェンダー平等の課題に取り組むのはたいてい女性だけだ。

前述したネットワークや組織のほとんどは女性によって設立され、機能している。運営を担う委員会も女性によって構成され、女性同士が意見交換を行う。Campaignの記事でマシュー・キーガン氏は、「ジェンダー平等は男性にとってキャリアアップにつながらない。それゆえこの問題に及び腰で、結果的に女性だけが関わることになってしまう」と指摘する。企業に新しく加わった男性社員が「社内のダイバーシティとインクルージョン(包摂性)を改善するために何かできますか?」と言うのを、あなたは聞いたことがあるだろうか。

私がここで強調したいのは男性批判ではなく、ジェンダー平等の達成には男性の力が必要ということだ。

そのための障壁があることは承知している。同僚の男性社員たちが私にこう話したことがある。「自分たちに有利だったシステムを変えようと声を上げても説得力がないし、その資格もないように思える」と。だから私はこう答えるのだ。「私たちの運動に参加して。私たちを支えてくれれば、私たちもあなたたちを支えます。一緒にこの問題に取り組めば、より迅速に多くのことが達成できる。上からの命令だけでは実現できないのです」。事実、現場で意識が共有され、共通の目標を持つことで初めて問題解決は可能になるのだ。

2.ダイバーシティを語らぬ男性

企業の役職にある人たちが、非公式の場でこう話したことがある。「ダイバーシティに関してもっと意見を述べたいのだが、どうすればいいのだろう。私は白人男性なので、偽善的に映る懸念がある」。では男性は、ジェンダー平等に関する意見をこれまで散々述べてきたと考えているのだろうか。改めて私は訴える。「すべての人々のために、公の場で率直な意見を述べてください。あなた方の意見こそ求められているのです」と。

業界の成長と繁栄のために、インクルージョンは欠かせない。どのようなバックグラウンドを持ち、どのような道のりを歩んできたかにかかわりなく、我々全員がこの問題に積極的に関わり、意見を表明すべきなのだ。

包摂的で公正な環境づくりという共通目標の下で男女が協働すれば、そこから生まれる可能性は広告業界のみならず、社会全体の利益となる。だから私は広告業界の男性に、ダイバーシティを声高に語り、同僚の女性社員が催すイベントに出席し、彼女たちが書くコラムを読み、女性の地位向上を掲げる組織の委員会に加わるよう促すのだ。もちろん、「私に何かお手伝いができますか?」と尋ねることを忘れずに。

(文:ヴィシャ・ナウル 翻訳・編集:水野龍哉)

ヴィシャ・ナウル氏は「ザ・フューチュアズ・ネットワーク」の共同設立者。

提供:
Campaign UK

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