Rory Sutherland
2018年7月30日

ターゲティングは、広告というパズルの1ピースにすぎない

テクノロジー企業は広告主に対して、メッセージの配信こそがその究極の目的であるかのごとく思い込ませているようです。しかし、クリエイティビティーとヒューマンインタラクションの存在を忘れてはいけません。

ローリー・サザランド氏
ローリー・サザランド氏

フェイスブックは最近、アナログな既存メディアに広告を出し始めました。アマゾンは、実店舗の買い取りと開店に注力しています。広告業界にとっても、これまでの進化に対する揺り戻しの時期なのかもしれません。

先日開催されたUnbound London(イノベーションに関する欧州最大のフェスティバル)の基調演説で、私はこのような話題を投げかけました。私は53歳の太った保守党支持者で、少し議論を呼ぶような話をすることが好きです。なぜならば、公正さを徹底する動きがある昨今、講演することはまるで洞窟内の潜水や崖からパラシュートで飛び降りるエクストリームスポーツのように、血沸き肉躍るものになったからです。ピンマイクを装着した瞬間から別人になったようなスリルを、自分の経歴を棒に振ることなく体験できるのです。

さらに、私はテクノロジー業界を困らせることも好きです。それは彼らに敵意を持っているからではなく、彼らが長きにわたってあらゆるものにひどい対応をしてきたと考えられるからです。ですから、あらゆる問題に対してテクノロジーが解決できることには限界があり、その先は人間の心理が必要な領域であるということを、彼らに知らしめることはとても愉快なのです。

基調演説の中で私は、「Valley Vice(シリコンバレーの悪習)」と名付けた習性について言及しました。中でも最悪なのは、シリコンバレーの人たちは最もオートメーション化しやすい部分をオートメーション化し、その他全体を無視したがるというもの。この方法は、パーツごとに最適化すれば全体最適化が可能だという、誤った推測に立脚しています。

一例として、ある技術者がホテルのドアマンを見てその役割を「ドアを開けること」と定義し、ドアマンの代わりに赤外線で反応する自動ドアを取り付けることで効率を大幅に向上させた、と誇らしげに語ったとしましょう。ここで問題なのは、ホテルのドアマンはドアを開けること以外にも、多くの仕事をこなしているということです。荷物を運び、タクシーを呼び、客を認識し、ホテルの格式と安全を保っているのです。自動ドアにはこのような機能は全くありません。

半年も経てば、自動ドアの導入によって節約したコストをはるかに上回る何かを、ホテルは失うことになるでしょう。酔っ払いが入口で眠っていて、ホテルの評判は急速に降下し、顧客からは見放されるかもしれません。

繰り返しになりますが、複雑な仕組みの一部分を取り出して、その機能を極端に狭く定義してオートメーション化し、それを全体のシステムの中に組み込み直せば全体の改良につながる、と信じ込むことは誤りなのです。そんなに単純な話ではないのです。

でも、テクノロジー企業はまさにこの手法で――あえて付け加えるならば、メディアエージェンシーの黙認もあって――広告業界をうまく牽引してきたのです。

データとアルゴリズムを広範に活用することで、広告全体を「ターゲットを絞った効率的かつ安価なメッセージ配信」に集約できると、人々に思い込ませることができました。その結果、2社が数十億ドルを売り上げるという複占状態になっているのです。

フェイスブックやグーグルがクリエイティブアイデアを独占することは、現実的に不可能です。そこで彼らは、自分たちが独占的利益を得ているビジネスの分野がいかに重要かを大袈裟に強調するという、とんでもない手段に出るのです。クライアントは、改良の進捗を定量化して明示したいため、この作り話に同調します。メディアエージェンシーも当然のことながら、自分たちのステータスを高め、仕事がいかに複雑かを示したいため、このごまかしには目をつぶり、利害相反するメディアオーナーと手を組むのです。

皆さんがオンラインで見る広告の制作に、クリエイティブエージェンシーが関わっていると思いますか? いいえ。メディアエージェンシーが思い付いたものを、彼ら自身で作っているのです。

このターゲティングに取りつかれた科学万能主義だけが、問題の全てではありません。ターゲティングがマーケティングコミュニケーションの多くの場でとても重要であることを、私はここでは否定しません。しかし「科学的管理法のデジタル版」のような考え方で広告を論じ、その結果、メッセージを伝えたりブランドへの信用を築くための幅広いコンテクスト(文脈)を無視するのは、ばかげたことです。ホテルのドアマンと同様に、広告はさまざまな役割を果たしており、オートメーション化できるのはその一部に過ぎないのです。

マーケティングの問題の多くは、私が「数独」問題と名付けたものと同じです。3×3のマスの中で重複しないよう数字を埋めていくゲーム「数独」を解くには、全体を見なければいけません。数独を九つの部分に分けてそれぞれの答えを求めても、全体の答えを得ることはできません。

同様に、一つのことだけに集中して他のことは排除し、改良するよう個々の部門の人たちに促したところで、事業全体の長期的利益を最大化することは望めないのです。ゆえに、メディアプランニングとクリエイティブがなぜ分かれているのか、私には理解できないのです。クライアントに対して「数独の解き方が分かりました」と言うべきところを、「左上段の角の数字は3かもしれません」と言っているようなものです。

データやメディア効率をとことん掘り下げるのは、いわばジグソーパズルのほんの一部分しか見えていないようなもので、枝葉末節にこだわっているにすぎません。マーケティングサービスの業界が作り出した価値の大部分が、ターゲティング単体によるものでないことは、広告についてのあらゆる調査が示唆しています。確固たるブランドが、際立ったクリエイティブアイデアによって表現され、それがしばしば高額とされるメディアで広く拡散してこそ、なのです。

私たちは、自分たちのクリエイティブの技術を誇りに思うべきです。恥ずかしげに、データサイエンス業界の一員のような振りをするべきではないのです。コンサルティング企業が我々を買収したがっていることには、ぞっとします。我々はそんなに面白くない存在になってしまったのでしょうか。

(文:ローリー・サザランド 翻訳:岡田藤郎 編集:田崎亮子)

ローリー・サザランド氏は、オグルヴィの副会長。

提供:
Campaign UK

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