Staff Reporters
2023年6月29日

ツイッターは、広告主にとって「吉」か「凶」か

今月、ツイッターの新たなCEOにリンダ・ヤッカリーノ氏が就任した。これを機に、ツイッターは再び有力な広告プラットフォームとなるのか。APAC(アジア太平洋地域)の専門家に聞いた。

写真:Getty Images
写真:Getty Images

デジタルプラットフォームが主軸になりつつあるメディア界では、ツイッターがしばしば大きな話題を呼ぶ。オンライン上で数多の議論が展開される時など、なおさらだ。が、近年では人々の視線がより厳しいものになっている。理由の1つが、イーロン・マスクという奇抜な起業家がオーナーになったことであり、もう1つが、人々を煽動するような政治的意見、偽情報の温床になっていることだ。加えて、業界では同社の広告に関する指針への批判も根強い。ユーザーエクスペリエンスや安全性、透明性、倫理性……様々な面で問題点を指摘され、熱い議論が起きている。

批評家たちは、広告エコシステムの情報開示が不十分だと主張する。槍玉に挙がっているのはアルゴリズムとターゲティングの仕組みだ。ユーザーや専門家は、プレースメントのからくりが不透明で、個々のユーザーを操作・悪用しているのではないかと指摘する。こうした偏向 −− 政治広告を含む −− に対する批判に応え、同社は透明性と検証プロセスの強化を打ち出し、ブランド価値の維持に乗り出した。

米メディア大手NBCユニバーサル(NBCU)の広告担当責任者だったリンダ・ヤッカリーノ氏を新たにCEOに起用したのも、その施策の1つだ。同氏はNBCUで12年間勤務し、従来型メディアの大規模デジタル化と業績向上を主導。「ツイッターのスーパーウーマン」になることを期待されている。

業界ではツイッターへの広告出稿は大きなリスクをはらむという意見が大勢を占めてきたが、同社にとって最大の広告バイヤーであるグループエムは「じきにリスクはなくなる」と明言。果たしてそれは本当なのか。ヤッカリーノ氏の就任は、ツイッターにとって転機となるのだろうか。APACの専門家たちに尋ねた。
 

ケリン・コーツィー
米マーケティングサービス「リプライズ・デジタル」
メディア・アナリティクス部門国内責任者


ツイッターは「リスクが高い」と言っていたグループエムが、「慎重ながらも楽観視している」と見方を変えました。これは我々の長年の評価と合致します。ツイッターのリスクはブランドの安全性にあるのではなく、主にブランドスータビリティー(適合性)と関わりがある。ブランドはメディアバイイングを続ける限り、プレースメントや安全性を心がけます。であれば、ツイッターは安全な広告プラットフォームになり得るのです。

ツイッターは従業員をほぼ5分の1に削減し、今年4−6月期には久々の黒字化を達成すると見られている。そんな中、ヤッカリーノ氏の任命は意外なタイミングでした。彼女は卓越したリーダーで、女性の地位向上を積極的に唱え、フォーチュン500社の約10%を占める女性CEOの1人にもなった。デジタルにも明るく、NBCU時代にはユーチューブやスナップ、アップルといった企業と「非従来型」のパートナーシップを牽引しました。

ツイッターに関しては、コンテンツの中立化やアルゴリズム偏向の解消、ブランドとの協働による安全性・広告環境の向上をすでに言明しました。彼女は異質なものを1つにまとめ上げる才にも長けている。X社の下、ツイッターが決済や配送などを含むワンストップサービス企業を目指すのなら、大いに力量を発揮するでしょう。

チャドウィック・キンリー
広告詐欺防止ツール「トラフィックガード」
チーフマーケティングオフィサー

 

 ヤッカリーノ氏のCEO就任は、マーケティング業界にポジティブな変化を生むでしょう。だがマーケターは気を緩めることなく、増加するツイッター上の広告詐欺に対処していかねばなりません。

詐欺師たちは、今ではサブスクリプションサービスの「ツイッターブルー」を悪用し、より多くのデータセットにいちはやくアクセスできるようになった。より大規模な活動が可能になったわけです。キャンペーンに多大な時間と資金を充て、消費者との関係性確立を図るマーケティングチームにとっては大きな脅威で、無数のボット(不正プログラム)の前に無力感すら覚えるかもしれません。ボットや詐欺、競合他社によるクリックなど無効なデータを的確にブロックするには、エンゲージメント検証と予算管理を徹底したキャンペーンを展開することです。

透明性も極めて重要な要素です。マーケターは広告予算がどう配分され、詐欺のリスクが効果的に軽減されているかどうかリアルタイムで正確に把握しなければならない。こうした手法を戦略的に取り入れ、適切なテクノロジーに支出することで、マーケターもエージェンシーもツイッター上のキャンペーンや予算、ブランドレピュテーション(評価)を守ることができるのです。

ジェイミー・テイラー
ハバスメディア・オーストラリア
デジタル統合責任者

クライアントからはツイッターに対する様々な意見やアプローチが聞かれます。主に業種によって異なるようです。現在我々がツイッター上で手掛けているキャンペーンはレギュラーが数本で、多いのはテスト・アンド・ラーン(実験と学習を繰り返し、サービスを練り上げていく手法)です。

デジタルやソーシャルのメディアバイイングではサードパーティー(第三者)による検証が欠かせません。ですからブランドは可能な限り、あらゆる状況での検証を実行すべきです。

ヤッカリーノ氏はメディア企業で働いていたので、広告主にとっての優先課題をよく理解できるはず。広告環境の質を上げ、ひいてはユーザーエクスペリエンスの向上に貢献することでしょう。

アッシュ・ダーラン
米マーケティングエージェンシー「NPデジタル」
パフォーマンス部門シニアディレクター

ツイッターは広告管理のレベルと透明度を著しく進歩させました。同時に、事業の大規模な点検も行った。今はブランドはネガティブなキーワードリストを活用でき、自社の広告が微妙な内容のコンテンツと並列されないよう管理できます。インフィード広告におけるブランドセーフティーを確立したことで、マスク氏の買収後に離れていった広告主の信頼を再び取り戻すことができるでしょう。

ブランドやエージェンシーは、ツイッターの広告ビジネスの寿命や持続可能性に懸念を抱いてきました。サブスクライバー向けに広告を排したサービスを提供するという発表にも危惧を持った。ヤッカリーノ氏の指名は、こうした不信感を払拭するポジティブなメッセージです。ツイッターは広告媒体としてすでに広く普及している。インフィード広告でオーディエンスのエンゲージメントを高めたいと考えるブランドにとって、これからも重要な媒体であり続けるでしょう。

マーク・ウェセリング
クリエイティブエージェンシー「ウルトラスーパーニュー」(日本)
共同創業者、CEO

ツイッター上で安全性と利益を最大化するために、ブランドが取れる選択肢はたくさんあります。私ならば精緻なモニタリングと音声ツールに予算を使い、ブランドに関連するトレンドやユーザーの会話を完璧に理解しようと努めるでしょう。そうすれば必要な時に迅速にアクションを起こせ、リスクを軽減できる。こうした要素は極めて重要です。それと、特定のオーディエンスに向けたコンテンツ作りも強化する。ユーザー間の会話を盛り上げ、話題のトレンドに積極的に関わることでブランド認知が高まるからです。

ヤッカリーノ氏に課せられた使命は、オーディエンスと広告主からの信頼を取り戻すことでしょう。ツイッターが抱える課題は多い。広告プラットフォームとしての安定性や透明性の向上、ターゲティングと効果測定の強化、コンテンツの中立化と報道の多角化、ブランドセーフティーの確保……彼女のリーダーシップの下、今後はこうした問題解決に注力していくはずです。

(文:Campaign Asia-Pacific編集部 翻訳・編集:水野龍哉)

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