Gabey Goh
2016年8月01日

ブランドは「ポケモンGO」ブームに乗るべきか

ブランドとして今後対策を取るのかどうか。取るならばどのような対策がよいのか。参考にしていただきたい。

ポケモンの人気は、必ずしもブランドを手助けするものではない(写真:高田義一)
ポケモンの人気は、必ずしもブランドを手助けするものではない(写真:高田義一)

アジア太平洋地域 - アジアではまず日本と香港で「ポケモンGO」の配信がスタートした。他のアジアの市場へと広がっていくのも、今や時間の問題だ。

拡張現実(AR)を用いたこのモバイルゲームの日本デビューは、ブランドによる初のスポンサーシップも注目を集めた。デビューに先立ちポケモンのハッピーセットを提供していた日本マクドナルドは、さらに約3,000店舗を、プレーヤー同士が対戦できる「ジム」やゲームに必要な道具を入手できる「ポケストップ」とするパートナーシップを締結した。

ポケモンGOの人気は予想をはるかに上回っていた。米国では配信開始後わずか2週間でダウンロード数3,000万、収益3,500万米ドルを突破。アクティブユーザー数でツイッターを、エンゲージメント率でフェイスブックを追い抜いたという報道もある。この過熱ぶりの中、ブランドの立ち位置はどこにあるのか。

アジアのゲームへの親和性を考えれば、チャンスがあることは明らかだ。アジア太平洋地域は中国、日本、韓国、そして市場が拡大中の東南アジアの熱狂的なファンに支えられており、2016年の収益は466億米ドルと予測され、世界のゲーム市場の約半分を占める。

ゲーム開発会社ナイアンティックによると、実際の客足を呼び込む仮想世界の拠点「スポンサード・ロケーション」となるため企業がスポンサー料を支払う仕組みが、今後導入されるようだ。ただし、世界中でどれくらいのスピードでブランドとの公式パートナーシップが進むのかは、今のところ不明だ。

多くの実店舗型事業は、「ルアーモジュール」と呼ばれる課金アイテムで集客力を上げている。ルアーモジュールは、ポケストップの周辺で30分間ポケモンの出現率を高めるアイテム。ちなみにポケストップとは、タマゴやモンスターボールといったポケモン捕獲のためのアイテムを、入手できる場所のことだ。

Isobar社のモバイル&イノベーション・ディレクター、エリック・ハランダー氏は、ナイアンティックおよび任天堂が、ゲームの収益化や影響力の範囲をブランドにどの程度認めるのか、検討がつかないという。「ジムやポケモンストップへのスポンサーシップどまりではないか、という印象を持っている」と話す。
「しかし今後、ポケモンストップやアバター、ジムのカスタマイズができるようになるかもしれない」

Host Singapore社のクリエイティブテクノロジスト、ディラ・ザクバー氏によると、このブームに乗る方法はオフィシャルパートナーになることだけではないという。独自のコンテンツを制作するなど、予算に余裕がなくてもソーシャルメディアで話題を集める方法はあると指摘する。
「ゲームの中で存在感を示せないのなら、その周辺に切り込むべき。例えば、ある公共の場にポケストップがあると分かったら、自分のビジネスを活性化する案を検討するとよいだろう」

さらにザクバー氏は、充電のためプレーヤーに店内を開放したオーストラリアのモバイル通信事業者、バージン・モバイル・オーストラリア社の対応を例に挙げた。
「ご存じの通り、ポケモンGOはバッテリー電力の消耗が激しいアプリで、多くのユーザーはいくつものモバイルバッテリーを持ち歩いている」と話す。「プレーヤーをそれなりの時間、店内に留めておくことができれば、自社の製品やサービスを上手に紹介する方法があるはずだ」

日本でマクドナルドがナイアンティックと公式パートナーシップを締結したことで、グローバルブランドばかりが有利に見えるかもしれないが、小規模なブランドにもチャンスは残されている。モバイル・マーケティング・アソシエーション(MMA)のアジア太平洋地域のマネージングディレクター、ロヒット・ダドワル氏は「モバイル広告において成功するのは、多額の予算や派手な広告によるものだけではない。提供するサービスの柔軟性こそ、モバイルマーケティングの最大の利点だ」と話す。
「ポケストップやルアーモジュールなどの位置情報機能を活用するだけでも、小規模なブランドにとっては有意義。実際のサービス目当てではなく、ゲームを目的に集まるポケモンGOプレーヤーの行動を理解することは、今後のマーケティングの足掛かりになるだろう」

また小規模なブランドは、より長く留まりたくなる、あるいは後で戻ってきたくなるような魅力的なサービスで、プレーヤーを受け入れる戦略を考え出す必要があるとダドワル氏は話す。
「例えば、ポケモンを捕まえたらポイントカードがもらえたり、充電器を無料で使えたりと、店内でARの可能性を生かす方法はいくつもある」と付け加えた。「ゲームを現実の取引に活用しないのは、機会の損失だ」

ブランドが注意するべきこと

しかしブランドは、単に流行しているからといってブームに便乗すべきではない。
「数多くある雑音の一つと捉えられてしまうリスクがある」とザクバー氏。「実在の価値への変換や、交流が生まれるよう注力するのが望ましい」

スポンサード・ロケーションは、今最も関心を集めているマーケティング機会であるが、マーケターは投資に先立ち、このプラットフォームで実際にターゲット層へのリーチが可能か確認する必要がある。

またザクバー氏は、ポケモンにはビジネスには不適切な響きを持つ風変わりな名前のキャラクターが多く、文化的なタブーに触れる危険性についても注意を促している。
「例えば、マンムーは英語でMamoswine(マンモス豚)なので、ハラル認証を受けた飲食店での出現は望ましくないだろう」とザクバー氏は話す。「さらに、モンスターを奴隷のように捕獲してトレードし、戦わせるという行為を、すべての人が肯定していると思い込むのは配慮が足りない」

ゲームをするためプレーヤーが提供する膨大なデータも、考慮すべきポイントだ。
「ポケモンGOの開発チームには、多くの情報や知見が蓄積している。まずは事業に生かせるデータや分析などの情報の共有が可能かどうか、確認するべきだ」

今回のブームでは、ARとモバイル技術がブランドのマーケティングプランに果たす役割に注目が集まった。それでは、ブランドにとって得策なのは、既存のプラットフォームをこのまま使うことなのか、それとも一歩踏み込んで独自のARアプリを開発すべきなのか。
「ブームに便乗したマネタイズの試みが増え、今後多くの類似品が出てくることは必至」とハランダー氏。しかし、同様の効果を期待するブランドは、現実的に考えるべきだと言う。つまり、今回のブームの火付け役はポケモンであり、ゲームのスタイルではないからだ。

より身近な存在に

今回のポケモンGOブームの最大の功績とは、小規模な小売店や事業にとって、モバイルマーケティングをより身近なものにした点にあるのかもしれない。
「位置情報技術が話題になっても、こうした技術を活用したアプリには莫大な投資が必要であり、最大級のブランドしか手が届かない高嶺の花と多くの人は決めつけていた」とダドワル氏。「しかし、ゲームをしながら食べる物や飲み物を購入するために多くのプレーヤーが地元のピザ屋を訪れているという事実が物語るように、適切なターゲットオーディエンスに対して効果的なモバイルマーケティングを展開すれば、すべてのブランドがその力を享受できるという認識が、米国で広がっている」

技術革新によって、わずかな投資で飛躍的に大きなリターンの獲得を得ることが、あらゆる種類のビジネスにおいて可能になったというのが、ダドワル氏の見解だ。事実、今回のブームが始まる以前から『MITテクノロジー・レビュー』では、グーグルのARプラットフォーム「Tango」に対応するアプリを、小売店で活用する方法について詳細な記事を載せていた。

ARプラットフォームでの広告活動によるメリットは結局のところ、業界によってばらつきが出るだろう。小売りや消費材、娯楽産業に関するブランドは、通信や金融サービスといったブランドと比べて、より高い恩恵を享受すると見込まれる。
アプリ開発の鉄則は、皆がやっているからという理由だけで始めないことだ。アプリの開発には、目的があってこそ意味がある。
「ARアプリを開発するならば基本的に、ユーザーがすぐに満足感を得られ、アプリを使い続けたいと思えるよう、特定の課題を解決策するアプリを開発すべきだ」とダドワル氏は結論付けた。

(文:ガビー・ゴー 翻訳:高野みどり 編集:田崎亮子)

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