David Blecken
2018年11月07日

「プレッシャーを楽しむ」 ピュブリシス・ワン・ジャパン新CSO

コカ・コーラでキャリアを磨いたかつての広告マン、安藤正弘氏。視野を広げ、満を持して広告代理店の世界に復帰した。

安藤正弘氏
安藤正弘氏

ピュブリシス・ワン・ジャパンは今週、新たなチーフ・ストラテジー・オフィサー(CSO)に安藤正弘氏が就任したと発表した。この7月に小山聡介氏がフェイスブックに移ったことを受けての人事だ。「アンディー」のニックネームを持つ安藤氏はコカ・コーラに8年間在籍。最近までクリエイティブ開発担当ディレクターを務めていた。それ以前はナイキやシルク・ドゥ・ソレイユでも勤務した。

同氏の掲げる信条は、「プレッシャーを楽しむ」。2004年から2009年まで在籍したナイキでは、松坂大輔投手(現・中日)をフィーチュアしたキャンペーンを主導。2006年に大リーグのボストン・レッドソックスと契約した松坂投手は、大きな期待を受けて重圧の中にあった。「このキャンペーンで使用した言葉が気に入り、以来自分のために使っています」。

もちろん、野球界のスターが感じるストレスと広告マンのそれとはまったく異なる(報酬にしてもしかり)。だが同氏曰く、「どんな仕事も簡単なものはありません。ゆえに大きな考え方を持ち、プレッシャーを受け入れてそれを楽しむ方法を見つける方がいい」。プレッシャーはいくつかの異なる形をとる。「失敗を恐れたり躊躇したりする気持ちは障害となる。でもそれをポジティブに解釈できれば、日常生活をより良いものにします。決して簡単ではありませんが、少なくともプレッシャーがより楽しくなります」。

特に日本では、失敗への恐怖心が人々の行動を思いとどまらせてしまう。それを克服するために、「現実を直視しようとアドバイスします」。「失敗は避けられません。重要なのは、失敗から何を学べるか。成功か失敗かではなく、チャレンジから何を得られるかということです。新しいことや困難なこと、スケールの大きなことに挑戦して失敗する人に、私は好感を持ちます」。

デジタル改革などが進行しつつある今、個人の仕事の領域は大きく広がりつつある。広告代理店の若手プランナーにとっては脅威になりかねない。「だが、この動きが後戻りすることはない。仕事の領域は今後も広がっていきます。新たな方法論やテクノロジーで行き詰まっているわけにはいかないのです」。些末な仕事にとらわれないためには、「本当に大切な仕事を見極め、それに集中することが肝要」。そうした意味で、プランナーの基本的役割が変わったとは考えていない。

「仕事の中で己の役割を限定しないこと。数ある仕事をマネージするのは大切な役目だが、正しい課題と取り組むために会社は君たちを雇っているのだから」。若手プランナーたちにはこうアドバイスをしたという。「課題をポジティブに捉えれば、やれることはほぼ無限大にあるのです」。

この「仕事の容量」こそ、安藤氏がコカ・コーラでの安定したポジションを捨て、広告代理店の世界に戻った理由にほかならない。同氏は大学でコミュニケーションの学位をとった後、国内4位の広告代理店・大広で13年間勤務した。それでも、一般の大手企業から広告界に復帰したことに驚く方々もおられよう。前述のストレスや不安定性から逃れるため、今では逆パターンの転職をする人々が増えているからだ。同氏の加わったピュブリシスは最近、大きな収益の柱だったクライアントであるフィリップ・モリスを失い、変革の最中にある。その代わりにメルセデス・ベンツを獲得、潜在性の高い仕事を委託された。

「代理店に戻ったのは肩書きが目当てではありません。自分がもっと学べる機会を求めたのです」。ピュブリシスではストラテジーとメディアプランニング、双方を統括する。「クライアント側にいるときは代理店に対しこの両方を求めてきた。ですからブランドが消費者とどのような関係性を構築するべきか、より全体的なビジョンが持てるようになったと思います」。

ブランドコミュニケーションではローカル化の重要性を唱える。「最適化の時代」には珍しいが、コカ・コーラはローカル化を極めて忠実に実行してきた。ピュブリシスのクライアントはほとんどが外国企業だ。だからこそ、市場で影響力を発揮するためには「ローカルインサイトに基づいたキャンペーンが必要不可欠」と考える。ビジネスの成長に関しては多くのマーケター同様、「シニア市場が鍵」と話す。だが他者と異なるのは、「この層の人々は自分たちをシニアと見ていない」と考える点だ。

「私は今年で50歳になりますが、自分が20歳や30歳の頃に持っていた50歳のイメージでは捉えていない。シニア層の人々はいつも、“シニア”という言葉から更に年上の人々をイメージします。ですから70歳や80歳の人であれば、80歳や90歳をイメージする。こうした状況を理解すれば、成長のチャンスはもっとずっと大きくなるでしょう」

では、次世代の消費者はどうか。「メルカリのようなフリマ(フリーマーケット)アプリの出現が、人々の買い物に対する意識を変えている」。日本の消費者は目が肥えていることで長年知られるが、「若者層は買い物に関して上の世代よりももっと慎重です。特に高価なものを買うときには、再び売りに出すときの価値を吟味する傾向が強い」。

「そういう意味で彼らはスマートです。“選ぶ”“買う”“使う”“売る”という全てのプロセスを考慮する。こうした価値観の変転は、今の日本で起きている重要な変化です」

同氏がエネルギーを受けるのは、「文化の変転」だという。過去1年で最も印象に残った広告は何かと問うと、アップルのiPad Proのキャンペーンを挙げた。iPad Proを使いこなす子どもが隣人に対し、「コンピューターって何のこと?」と問い返す動画だ。「私がよくインスピレーションを受けるのは、人々の認識の根本的変化を捉えた作品です。この手のものにはいつも興味を覚えます」。

(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳・編集:水野龍哉)

提供:
Campaign Japan

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