John Woodward Yutaka Tsuda
2016年11月10日

「ミレニアル世代」を読み解く

先頃、マッキャン・ワールドグループが若者たちの意識と行動に関する世界的な調査を行った。日本の若年層にアプローチを図るブランドにとって、その結果は何を示唆するのか。Campaignは同東京支社のプランナーに、ミレニアル世代と呼ばれる若者たちに関するレポートを依頼した。

「ミレニアル世代」を読み解く

日本の若者たちは、喪失感を味わっていると言えよう。自己のアイデンティティーや行動の規範、社会での立ち位置、未来の展望……こうした事々に不安を感じつつ、彼らは日々を送っている。若者にとっての悩みのテーマは、今も昔も大差はないだろう。だが、スマホやSNSを通じて日々膨大な情報と接している彼らにとってのアイデンティティーの形成は、それ以前の世代とは大きく異なっているのだ。マッキャン・ワールドグループでは、「THE TRUTH ABOUT YOUTH」という独自の定量調査を実施した。世界の16~30歳の若者33,000人に120回以上のグループインタビューを行い、その実像を浮き彫りにした。

調査の結果、「自分は野心的」と思う若者が日本では世界で最も少ないことが明らかになった。日本ではその数が10人中4人以下であるのに対し、世界での平均は66%。同様に、「自分でビジネスを始めたい」という日本の若者は世界平均の半分に過ぎず、「過ちを犯すリスクを考慮しても、挑戦することが重要」と考えている者も少なかった(世界平均は87%、日本は79%)。

奇妙なことに、この世代に顕著な「ミレニアル・バリュー(ミレニアル世代的価値観)」に関しても、彼らは65歳以上の人々より低い数値を出した(例えば、『社会的問題の要因を知り、語ることは重要だと思う』といった事柄)。世界の若者と比べて日本の若者はリスクをとる生き方に慎重であり、社会的発言や行動に消極的であることが分かった。逆に彼らへのアプローチを図るブランドにとっては、こうした側面から若者に手を差し伸べたり、コミュニケーションをとったりする必要性があるだろう。ここで、マーケターにとっていくつか重要なポイントを挙げてみよう。

「アクセシビリティーネイティブ」という新種

ミレニアル世代はもはや「デジタルネイティブ」ではなく、「アクセシビリティーネイティブ」である。彼らは携帯電話を身体の一部であると考えており、こうした意識はその価値観やライフスタイルに大きな影響を与えている。世界中のミレニアル世代の4人に1人が、「20歳になる前に知人からヌード写真やセクスト(=SEXT、性的なメッセージ)を送られた経験がある」と答えた。それ以前の世代では到底考えられないことだ。

「大人」とは、切り替えがきく「動詞」

ひと昔前は、大人とは「名詞」であった。大人になるための通過儀礼があり、人々はその階段を1歩1歩上って行った。自分の車をはじめて買うこと、部屋をはじめて借りること、はじめての就職、結婚、親になること……といった具合に。しかし調査の結果、世界のミレニアル世代は、「大人」とはその時の気分で「なったりならなかったり」する「動詞」として考えていることがわかった。つまり大人とは「なる」ものから、時と場合によって「する」ものに変化したのだ。彼らにとって大人になることは、もはや憧れでも人生の道標でもない。今日の日本では、「40歳になる1歩手前、39歳までは両親と同居していても社会的に受け入れられる」という考えが一般的になっている。

彼らには、大人になるまでの長い準備期間がある。実家暮らしをしつつも、友人たちとはデジタルでつながっている。よって「自分探し」にはより長い時間を費やす。かつては、最初の就職に最も影響力を持つ存在は父親だった。今ではSNSを見れば、ありとあらゆる選択肢やロールモデルを見ることができる。選択肢の増加は可能性を広げた反面、最善の選択をすることの難しさや迷いにもつながる。

「スマートフォンで社会生活が改善した」と答えた日本の若者が71%だった一方、「生活を複雑なものにした」と答えた者も62%(世界平均の2倍)に上ったのは、こうした意識の表れだろう。

言ってみれば、日本のミレニアル世代はいつでも気軽に始められ、好きなときにやめられるシンプルなサービスを求めているのだ。通常、「大人の消費活動」には心理的にも時間的にも負担のかかるものが多い。多くの若者にとって、マンションを購入するなどということは容易に想像がつかないだろう。逆に最近では、グランピング(glamorousとcampingをかけ合わせた造語で、豪華なキャンピングのこと) が流行している。同様に、彼らは車を持つことにもほとんど興味を示さない。彼らの59%は今後も購入する意志がなく、69%は車にまったく興味がないと答えている。レンタカーやカーシェアリングの方が、ずっと気軽なのだ。

「本当の自分」と「ソーシャルな自分」

この調査結果では、「アクセシビリティーネイティブ」のソーシャルメディアとの関わり方が世代で大きく異なることも明らかになった。20代と10代の若者のアイデンティティーの形成の過程には、違いがあるのだ。大人に近い20代の若者にとっての基盤は「本当の自分(real me)」であり、「ソーシャルな自分(social me)」はあくまでも現実世界における自己の反映で、二義的なものとして捉えている。これに対し10代は、「ソーシャルな自分」を「本当の自分」を探求して形成するための「鍛錬の場」と捉えており、その意識は逆転する。

例えば、高校の新入生たちが実際に入学式で顔を合わせる前に、すでにSNS上で100人のグループを形成するといったことがごく当たり前に起きている。また実際に友だちになったとしても、相手のSNSアカウントをチェックして「やはり友達になれない」と判断することもある。10代の若者は、SNSを現実世界のリハーサルと捉えているのだ。

同時に重要な点は、日本の10代はソーシャルメディア上の「模範的住人」であるということだ。20代に「SNS上でクールなことは何か」と質問すると、以下のような答えが返ってくる。「他人が羨むようなことを投稿する」「話題のスポットにたくさんチェックインする」「旅行に行ったり、イベントに参加したりする」「一緒に写真に写っている人たちの見た目や年齢の幅広さで、様々な友人がいることを示す」「充実した趣味を持っていることをアピールする」……などなど。彼らの間で言ういわゆる「リア充」で、皆が感心し、羨むような生活を現実世界で送っていることを誇示しようとする。

それに反して、10代のアプローチは非常に異なる。「自己を主張しすぎない」「ディスらない(=他人を侮辱しない)」「相手にしつこくメッセージを送らない」「1人だけの写真を載せない」「政治家のように長々と語らず、簡潔なメッセージにする」「他人の投稿にはポジティブな反応をする」「人を傷つけるような言葉を使わない」「1対1のコミュニケーションのときは、返信のタイミングを考える。早すぎず、遅すぎず」といった具合だ。オンラインで成長してきたこの世代は、「オンラインエチケット」に関して明らかに高い意識を持ち合わせている。彼らにとってソーシャルメディアとは、エゴを自由に発露する場ではなく、他者に配慮した行動が求められる「公共の場」なのだ。ゆえに、公の場で受け手への配慮ができる人こそクールであり、旬であるという認識を持っている。

「観衆の観衆」を意識すること

両者にとっての共通の認識は、「観衆」を持っているということ。従ってマーケターが彼らにアプローチする際には、彼らの向こうに観衆がいること、すなわち「観衆の観衆」を意識し、どのように語りかければ観衆とシェアしてくれるかを考えることが重要になる。提供するコンテンツも、彼らの興味に応えるものだけではなく、オンラインエチケットを踏まえたものでなければならない。例えて言うなら、1日に数回、時には深夜の時間帯にさして重要ではない情報を送りつけるようなブランドは、少なくとも彼らにとっての「友だち」ではない。

「ライブ」には自分を表現する余地がある

全ての若い世代同様、彼らも最新のトレンドを受け入れることに積極的であり、その意味で彼らは「生きたメディア」と言える。人気のオンラインスポーツゲーム「リーグ・オブ・レジェンド」は、実際のスタジアムに4万人の観衆が足を運び、ライブストリーミングでは3,600万人が視聴した。彼らはリアルタイムで起きていることにコメントすることで、イベントに参加するだけでなく、グループの中で「体験」をシェアできたのである。

日本ではエンターテインメントやドラマ、映画、さらには記者会見までも、ストリーミングサービスやソーシャルメディアを介しリアルタイムでシェアする若者たちがますます増えている。これらリアルタイムのイベントは「加工」されていない「未編集」のものなので、彼らは自分の考えを公に表現する場として大いに活用するのだ。

(文:ジョン・ウッドワード、津田裕 編集:水野龍哉)

ジョン・ウッドワードはマッキャン・ワールドグループジャパンのチーフストラテジーオフィサーであり、津田裕は同社プランニングディレクターを務める。

提供:
Campaign Japan

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