Erwan Rambourg
2021年11月26日

ラグジュアリーブランドがNFTやメタバースに注目する理由

NFT? スキン? クリプトパンク? もううんざり? ただの雑音? しかし、ラグジュアリーブランドにとっては、あなたが思う以上にエキサイティングなのかもしれない。

写真:バレンシアガ x フォートナイト
写真:バレンシアガ x フォートナイト

筆者が自著『Future Luxe』で言及したように、次世代の人々はAIと夢の世界により多くの時間(とお金)を費やす可能性が高い。1960年代、伝説的なSF作家フィリップ・K・ディックは『追憶売ります』という小説を書き、1990年には『トータル・リコール』として映画化された。アーノルド・シュワルツェネッガーが演じる主人公は、リコール(Rekall)社のサービスを利用し、冒険旅行の記憶を移植してもらおうとする。だが、やがて夢と現実の区別がつかなくなり、ついには自分が秘密工作員であったことを思い出し、事態は収拾がつかない展開を見せていく。実際の話、もしも夢やバーチャルな休暇体験の記憶を購入できるようになるとしたら、それはお金を払う価値があるサービスになるだろう。もちろん、それを利用するのに秘密工作員である必要はない。

自著の中で行ったいくつかの予想の一つを紹介しよう。それは、最大級の規模と影響力を維持する高級ブランドのルイ・ヴィトンが、現在のように旅行バッグやガイドブックを売るだけでなく、旅行事業に多角的に乗り出すというものだ。リビングルームにいながらスタイリッシュに世界を見てまわりたいと考える消費者には、旅行のVRパッケージも販売するようになるのだ。ナイキの有名なモットーに絡めるなら「消費者が決める」ということだ。テクノロジーの進化は、消費者により深いブランド体験をもたらすだろう。

例えば消費者は、その製品が正規品であると認証されており、場合によっては転売できるようにしたいと思っているのではないか? ラグジュアリー業界のLVMH(モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)、カルティエ、プラダ、OTBはそれを可能にするため、ブロックチェーン技術をベースにしたコンソーシアム「オーラ(Aura)」を立ち上げた。参加するブランドは今後さらに増えるだろう。

消費者は、多くの時間をビデオゲームやショッピングに費やしているのではないか? バレンシアガは人気ゲーム「フォートナイト」のファンに向けてスキンとフード付パーカーを販売し、グッチはゲームプラットフォームのロブロックスで限定版のアクセサリーを販売した。消費者は現実世界のインフルエンサーを疑い始め、SNS上のキャラクターとの交流を好むようになるのではないか? インスタグラム上の仮想セレブ、リル・ミケーラは、「ロサンゼルスに暮らす19歳のロボット」を自称しているが、300万人以上のフォロワーを集め、2018年にはプラダのようなブランドとのコラボレーションをスタートしている。

消費者はリビングルームでくつろぎながら、街のショップの様子も見てみたいと思っているのではないか? そんな要望に応えるのが、拡張現実(AR)やバーチャル店舗だ。

5月21付のコラム「Art Helps Brands Move From a Story to History(アートは、ブランドがストーリーからヒストリーへ移行するのに役立つ)」で述べた通り、NFTに関して言えば、アートはラグジュアリーに再度大きな影響を及ぼしつつある。本質的にアートは唯一無二のものだ。一方、その性格上、ラグジュアリー製品はより多くの人々に向けられている。現代美術家ダミアン・ハーストの「ザ・カレンシー(The Currency)」プロジェクトが成功を収め、アートNFTが世間にも広く知られるようになったことで、コレクターズアイテム、デジタルファッション、アバターなどのラグジュアリーNFTにも道が開かれようとしている。オープンシー(OpenSea)のようなNFTのマーケットプレイスは何年も前から存在するが、最近ではエクスクルーシブル(Exclusible)のような、ラグジュアリーNFT専門のマーケットプレイスも登場している。

なぜ、ラグジュアリーブランドの多くが仮想世界と関わっているのかと疑問に思うかもしれない。その答えは、ビジネスになるからではあるが、より重要なことは、ブランドの存在意義がストーリーを伝えることであり、将来、ストーリーは今までとは全く異なるかたちで伝えられることになるからだ。また、現在のラグジュアリーブランドの平均顧客層に比べて、仮想世界のエンドユーザーは男性比率が高く、年齢層も明らかに低いため、既存の顧客基盤を補完できるという理由もありそうだ。ラグジュアリー業界はサステナビリティの取り組みで遅れており、業界が一体となって行動を起こすことに今も苦戦している。中古品はいまだに適切にケアされていない。最高サステナビリティ責任者や最高サーキュラリティ(循環性)責任者が必要なのは明らかだ。ヴォーグが記事で言及したような最高メタバース責任者が必要かどうかはわからないが、変化から目を背け続けてはいけない──仮想世界はラグジュアリーに真の恩恵をもたらす可能性を秘めているのだから。


アーワン・ランバーグは、LVMHとリシュモンでマーケティングマネージャーを務めた経歴を持つ。現在はHSBCでマネージングディレクターと、コンシューマーおよびリテールエクイティ調査部門のグローバルヘッドを兼任している。著書に『Future Luxe: What's Ahead for the Business of Luxury』など。

提供:
Campaign; 翻訳・編集:

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