Tatsuya Mizuno
2020年5月13日

動画が編む新世代の辞書、「TikTionary」

若年層に絶大な人気を誇るTikTok(ティックトック)が今年1月、「TikTionary(ティクショナリー)」を公開した。世界各地のユーザーからの投稿動画で多様な価値観を表現する、意欲的な取り組みだ。

TikTionaryのサイト (http://tiktionary.com)
TikTionaryのサイト (http://tiktionary.com)
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普段、我々が当たり前のように使っている言葉には固定観念が染みついているものが少なくない。例えば、「結婚」。反射的に異性間の結びつきを連想し、辞書ですら「男女が夫婦となること」とあるが、今の時代は同性間でも成立する。あるいは、「ハンサム」。従来は顔形が整っている人の意だが、果たしてそれだけだろうか。言葉は生き物であり、その解釈やニュアンスは決して一元的ではない。まして世界を俯瞰すれば、国や地域、民族や文化によって大きな差異がある。

そんな世界に息づくダイバーシティ(多様性)を動画で楽しみながら実感し、異文化への理解を深めてもらいたい –– こうした趣旨で始められたのが、映像で紡ぐ辞書「TikTionary」だ。

TikTionaryを構成するのは、世界約150の国と地域に広がるTikTokユーザーたちからの投稿動画。彼らがそれぞれの言葉をイメージし、制作した映像だ。百近い単語でスタートしたコンテンツは随時更新され、今では17か国の言語に対応。例えば「挨拶」という言葉を検索すると、名刺を差し出す舞妓やハイタッチするチームメイト、匂いを嗅ぎあう動物……といった様々な動画が現れる。まさに、「見て感じる辞書」だろう。

「TikTokを活用したベストプラクティスを模索した結果、TikTionaryという答えにたどり着いた」と話すのは、TikTok Ads Japan X Design Center のヘッドを務める鈴木瑛氏。「動画が言葉と結びつくことで、多元的な言葉の意味を世界の多くの人々が理解できるコンテンツになる可能性を感じました」。

同氏とこのプロジェクトを牽引した電通のクリエーティブ・ディレクター、木津孝次郎氏は、「このキャンペーンに携わるまでTikTokをしっかりと使っていなかったので、逆にその長所を新鮮な目で見ることができた」と話す。「若い人たちのむき出しの感覚が凝縮されていて、とてもリアル。投稿するスピード感や多様な言語、動画の個性なども印象的だった。これ自体がすでに百科事典のように思えたのです」。

「TikTokがメディアとして最も大切にしているアプローチは、『ファン(楽しさ)』だと感じました。だからTikTionaryもユーザーにとっては敷居が低い。これまでのSNSと一線を画している部分です」と木津氏。「若者に対し『異文化を理解しよう』と大上段から説くのではなく、普段のように動画を楽しみながら自然と理解してもらう。その方が影響力が強いのでは」。

「今の世の中には、役立つ情報があふれすぎている感があります。皆、それに少々疲れている。TikTokはユーザーに喜びを感じてもらうところが強みだと思います。無機質で機能的な情報ではなく、情緒的な価値を提供するプラットフォームなのではないでしょうか」(同氏)

TikTionaryのキーワードであるダイバーシティが、今の時代の趨勢であることは言うまでもない。にもかかわらず、近年の世界の為政者たちはそれを否定するような姿勢が目立つ。未来を担う若者たちへのメッセージという意味で、TikTionaryは実に時宜を得たプロジェクトだろう。

賛同組織・企業もこうした点に大きな期待を寄せる。文部科学省の官民協働海外留学創出プロジェクト「トビタテ! 留学JAPAN」で広報・PRを担う西川朋子氏は、「若者たちをワクワクさせることで啓発していきたい」と話す。今の日本の若年層の課題として挙げられるのは、「内向き志向」。

文科省の調べでは海外留学する日本の高校生は約1%、大学生は約4%。増加傾向にあるとはいえ、少ないのが現状だ。「若者の多くは『グローバル対応ができないとまずい』という意識がない。それでも、豊かな日本では幸せに生きていけるからです。しかし、これからグローバル化が進むと、共通語である英語に苦手意識が強く、日本人の友達しかいない、日本の価値観の中でしか仕事ができないというのでは活躍の機会を逃してしまう。では、世界で学んでみようという意識を持ってもらうにはどうすればよいか。それにはふた通りの手段があると考えます。一つは危機感を持たせること。そしてもう一つは、ワクワクしてもらうことです。我々は後者で若者の意識を変えていきたい。彼らにとって身近なメディアである動画を通せばアプローチしやすいし、世界の価値観をごく自然に感じてもらえるのでは」(同氏)。
 
 
同じく賛同企業であるボルボ・カー・ジャパンのマーケティング部シニアディレクター、関口憲義氏は「このプロジェクトが、社会に根づいてほしい」と話す。「弊社は進歩的なスタンスを取る企業なので、ダイバーシティやサステナビリティに注力しています。TikTionaryはダイバーシティに直結する内容。これを通じて、普段の顧客ターゲット(40〜60代)とは異なる若い層にボルボの存在感を打ち出していきたい」。

「言葉には伝達モードと生成モードがある。インタラクションで新しい意味合いが生まれるTikTionaryは、生成に近い。今の若者が検索に動画を活用することを鑑みれば、新世代のメディアとしての可能性を感じます」

TikTokはこの1年余りでコンテンツの種類が格段に増え、ユーザーが上の世代へと広がりつつある。TikTionaryも幅広い年齢層を取り込むため、「メディアを使って話題性を喚起することはもちろん、オンラインなどを活用したワークショップを実施していきたい」と鈴木氏は話す。

「今の若者の感覚は、実はボーダーレスではないかと思うのです」と木津氏。「海外を目指さないのは、行く必要性を感じないからでしょう。テレビやパソコンを通して異文化と触れることで満足してしまっている。ですから(異文化に対して)アレルギーはないけれど、リアリティーもない。五感全てを使って経験するわけではないので、『分かったつもり』になっているとも言えます。それを克服するためにも、TikTionaryが小さな気づきの積み重ねとなるメディアであればいい。新しい価値観につながるセレンディピティ(ふとした偶然から閃きを得たり、素晴らしいものを見つけること)が頻繁に起きるプラットフォームでありたいと思うのです」。

文:水野龍哉

 

提供:
Campaign Japan

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