Olivia Parker
2019年3月05日

「女性が増えれば、万事が好転」

常につきまとう「女性」という冠、ロールモデルの不在、キャリアを磨きながらの4人の子育て −− DDBシドニーのエグゼクティブ・クリエイティブ・ディレクターが語る。

タラ・フォード氏
タラ・フォード氏

DDBシドニーのエグゼクティブ・クリエイティブ・ディレクター(ECD)、タラ・フォード氏が広告業界に望むことは至ってシンプルだ。「女性がもっと増えれば、万事がもっとうまくいく。特にクリエイティブ部門はそうでしょう」。

業界で約20年のキャリアを誇る同氏は、2017年9月にTBWAオーストラリアからDDBシドニーに移った。TBWA時代には広告キャンペーンの制作に5年間携わり、オーストラリア・ニュージーランド銀行(ANZ)のための「GAYTMs(ゲイのATM)」「Pocket Money」「Hold Tight」といった作品で数々の広告賞を獲得。DDBでは生理用品メーカー・ケアフリーのための「The Matriarchs(尊い女性たち)」で、昨年のスパイクス・アジア「Glass:The Award for Change」賞を獲得した。

大半の作品で社会問題を取り上げる同氏は、「豪州の広告業界はかつてほどステレオタイプ(固定概念)が蔓延していない」という。「私自身も、『ピンクの洋服を着せ、人形を抱かせる』といった少女のイメージ作りを意識的に避けてきました。今では誰もが、ステレオタイプにとらわれないよう心がけていると思います。ブランドが現代性を保ち、社会と調和し、世界の動向と歩調を合わせるためには欠かせない意識ですから」

性差別的・ステレオタイプ的なアイデアを提案されることも、今ではまったくなくなった。まさにこれこそが、女性ECDのいる広告代理店のメリットの一つだろう。作品がクライアントに届く前に、女性ECDがチェックポイントになるからだ。「今では私のチーム全員が、無意識にステレオタイプを避けるようになりました」。同氏が特に嫌悪する「情けないダメな父親」といったイメージもその一つだという。

「女性ECD」と呼ばれることには、いまだ驚きを禁じ得ない。「これまでのキャリアで、自分を『女性クリエイティブ』と思ったことは一度もありません。『クリエイティブ』とだけ考えてきましたから」。それでも時に、自分のジェンダーに利点を感じることがある。「会議などの場で自分が唯一の女性ということはしばしばありますが、前向きに捉えています。女性ならではの経験、女性ならではの見方をメリットとして生かせるからです。異なる視点を持ち込むことこそが、クリエイティビティーなのですから」

業界内のハラスメントも、これまで少なからず目にしてきた。だが同氏自身はもう長年、ハラスメントに遭遇していないという。「状況は良くなっていると思います。でもいまだにハラスメントは現実ですし、表に出てこない話がたくさんあるのではないでしょうか。私たちが聞いたり、目にしたりしないだけで」。

フォード氏は業界の性差別改善に取り組むカンヌライオンズのイニシアティブ「See It Be It」のメンターを務め、女性が将来的にもっと要職に就けるよう積極的な活動を行っている。「多様性は必ず、ビジネスをより良いものにします。ECDであり、女性クリエイティブである私が少数派のままでいる理由は何もないのです」。

「課題はロールモデルがいないこと。広告の仕事は非常にきつく、柔軟性に欠けるで知られています。女性なら誰しも子供がいるわけではありませんが、子供がいると一度離れた仕事に戻るのは、ほとんどの場合で非常に難しい。ですから諦めてしまう人も少なくありません。でも、答えは一つではない。子供のいない女性もたくさんいるし、いろいろなケースがありますから」

少なくとも、豪州では状況が変わりつつある。「母親である女性のみならず、より多くの人々がワークライフバランスの改善を求めています。それは誰もが必要とするものであり、誰もが権利を有するもの。決して、子どもがいる女性だけのものではないのです」。

フォード氏もキャリアを重ねながら4人の男の子を育てている。「その話を聞いてある人が、『あなたは本当は普通の人なのですね!』と言ったことが忘れられません。私のことを見て、皆が驚くようです」と笑う。「私と、私のパートナー(子どもたちの父親)に差異はありません」。

「彼はフルタイムで働いていて、私たちはとても対等な関係です。彼は本当によくサポートしてくれます。子どもの養育は私だけの問題ではなく、彼の問題でもあり、私同様に彼も取り組んでいる。私たちはできる時にできることをし、必要とされているところに行く。どんな場合でも、私たちがいつもパーフェクトなわけではありません。あるがままに受け入れることを学んでいるのです」

あるがままに。それは、ワークライフバランスの実現という長年の課題の、最も的を得たソリューションかもしれない。

(文:オリビア・パーカー 編集:水野龍哉)

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