Eularie Saldanha
2021年1月28日

広告戦争:比較広告がニュースの見出しを飾る理由

ブランドが公然と競合他社を批判するようになった。Campaignではその理由、効果、適法性、ブランド間の争いに終わりはないのかを探った。

広告戦争:比較広告がニュースの見出しを飾る理由

ブランドが競い合う形のコミュニケーションは広告業界にとって新しいものではない。ただ、その比較が一方の優位性を証明するためのものなのか、それとも単に認知度を瞬間的に高めるための仕掛けにすぎないのか、については議論の余地がある。広告の歴史を通じて、1970年代後半に始まったコカ・コーラとペプシの悪名高いコーラ戦争から、ラリタジ(優位性を訴える女性キャラクター)を起用した「サーフ(Surf)」とライバル企業のニルマ(Nirma)がインドで繰り広げた粉末洗剤の争いまで、比較広告は忘れがたいキャンペーンを行ってきた。

最近では、ドイツのウェルネスブランド「セバメド(Sebamed)」が、印刷広告とデジタル広告でニュースの見出しを飾った。ブランド名の由来でもある石けんの広告で、ラックス、ペアーズ(さらには リン)といったヒンドゥスタン・ユニリーバ(Hindustan Unilever:HUL)の石けんブランドに対し、pH値が高いと主張して攻撃したのだ。結果、HULがセバメドを法廷に引きずり出して法廷闘争になった。現在、セバメドはこの広告をすべて撤回するよう、法的に命じられている。

まずは、どういった理由で広告戦争に至るのかを調べた。

広告戦争の舞台裏

言うまでもなく、人々に向けて比較を公開するのは注目を集めるためだ。しかし、比較広告で必ずしも競争力が高まるわけではない。この根本的な違いを理解することが大切だ。クロロフィル・ブランド&コミュニケーション・コンサルタンシー(Chlorophyll Brand & Communications Consultancy)の創業者の1人でマネージングディレクターを務めるキラン・カラプ氏は、「競争力につながるのは、優れている点が消費者の関心事である場合に限られる。たとえば、セバメドの場合、pH値の影響は消費者にとってすぐにわかるものだろうか?」と問う。カラプ氏の説明によると、こうしたコミュニケーションは、ブランドがその違いを簡潔に伝える場合に役に立つという。なぜならば比較は通常、製品仕様に関するものだからであり、必ずしもブランドが何を意味しているのかに基づくものではないからだ。

市場シェアが高く相当な影響力を持つ大企業は、他社を批判する必要がない。大手に攻撃を仕掛けるのは決まって挑戦する側のブランドだ。インドの食品会社パルレ・プロダクツ(Parle Products)で上級カテゴリー責任者を務めるマヤンク・シャー氏は、「市場に参入したばかりの小さいブランドが自社を大きなブランドと比較する場合は、知名度と認知度を手っ取り早く手に入れようと狙っている。そうしないと、ブランドと資産をゼロから構築するのに長い道のりが必要になるからだ」と語る。

ブランドと消費者への影響

消費者は今、目的を広告だけでなく行動においても示すブランドに惹かれるようになっている。インフェクティアス・アドバタイジング(Infectious Advertising)の共同創業者、ラマヌジ・シャストリー氏は、こうしたコミュニケーションにブランドが魅力を見いだす理由について、ブランドの強みを訴求する一般的な広告には、スパイスや話題性が乏しいからだと考えている。人々は今、広告が表示されない贅沢を享受しており、広告が映った瞬間にチャンネルを変えてしまうからだ。驚きではあるが、消費者はこうした攻撃の背後にある理由について、情報を得て認識している。シャストリー氏は「消費者は滅多に広告を信じないので、より疑わしい主張や反論を疑いの目で見ている」と付け加えた。

比較広告は戦術的には優れているが、ブランドは長期的に、それが戦略的に適していることを証明し、製品だけでなくブランドが表現するものを正確に示す必要がある。カラプ氏は、サーフ・エクセルがニルマとの(同氏も関わった)比較キャンペーンから学んだ厳しい教訓を例に挙げて次のように述べている。「『サーフがいちばん白く洗える』というサーフのそれまでの最上級を用いた主張に触れてこなかったターゲット層が、サーフをニルマと比較するようになったのは、サーフが広告でニルマと比較したからにほかならない。サーフはやがて比較をやめて、ニルマに対抗できる低価格ブランドとしてホイール(Wheel)を導入せざるを得なくなった」

自動車ブランドのマルチ(Maruti)対ヒュンダイ(Hyundai)、食品ブランドのコンプラン(Complan)対ホーリック(Horlicks)というように、すばらしいティータイムの会話を演出する広告合戦は昔からある。しかし、この手のコミュニケーションが売り上げの増加という効果を実際にもたらすことはまれだ。パルレ・プロダクツのシャー氏は、「双方が有名な場合、どちらも何らかの口コミを受けるため、話題便乗型マーケティング(待ち伏せマーケティング)はある程度の反響を呼びブランド認知が生じる。しかし認知以上の、実際の売り上げの増加につながり得るのは、小さいブランドに限られる」と語る。同氏によると、大きなブランドを批判する小さなブランドが何を持ち出すのかについては、消費者も関心があるのだという。

しかし、マクドナルド・インドで西部および南部のマーケティングとコミュニケーションのディレクターを務めるアーヴィンド RP氏は、法と規則に則った主張が可能だとしても、比較広告キャンペーンで効果を継続して得られる可能性は低いと考えている。「機能や利点を的確に比較してうまい広告にすれば、チャレンジャーのブランドが、一時的にではあるが大きなポイントを得られる場合はある。しかし、私見ではあるが、こうした取り組みは消費者のニーズと要望に着目した伝統的な消費者マーケティングの代わりにはなり得ない」と同氏は語る。

比較広告は面白い話題つくりにはなるものの、資金を投じるには疑問の余地がある。ブランドが傷を負うのは確かであり、大きなブランドは守勢に立つことを好まない。「Thanda matlab Coca-Cola」キャンペーンなど、コカ・コーラの代表的なキャンペーンに関わったことがあるインフェクティアス・アドバタイジングのシャストリー氏によると、(ペプシがコカ・コーラをからかい、両社が長期間の対立関係に入った)両社のコーラ戦争に、コカ・コーラは常に苛立っていたという。「会社が攻撃されているあいだ、マーケティング担当者は気が休まることがない。コカ・コーラがブランドとしてやり返すことは決してない。大きいほうは決して応じず、そのため新しいほうが攻撃的になる。コーラはいつまでも昔と変わらぬコーラだからだ」とシャストリー氏は語った。

競争相手を打ち負かすことで評価を上げてきたブランドはあるが、そこには必ず、視聴者の楽しみとブランド想起を狙ったユーモアの感覚が伴っていた。しかし、こうしたコミュニケーションを通じて消費者が競争に関心を持つとは限らない。

レオ・バーネット(Leo Burnett)でインド担当のマネージングディレクターと南アジア担当の最高戦略責任者を務めるディラージ・シンハ氏は、「ブランド同士が争えば、ニュースの見出しを飾ってバイラルになる可能性があるが、それが実際に消費者の行動の変化につながるかは議論の余地がある。結局、消費者が注目するのは自分と何らかの関連性がある部分だけなのだ。当社では、常にこの関連性の構築を差別化よりも重視している」と語る。広告戦争は長期的に巨大な金銭負担につながる恐れがあり、負担に見合った価値があるかどうかは実証されていないというのがシンハ氏の見方だ。

インフェクティアス・アドバタイジングのシャストリー氏はセバメドの騒動について、リンゴとオレンジを比較するようなものだと考えている。「両製品は価格帯が違う。ダブを購入している消費者は、200ルピー程度のセバメドの石けんには乗り換えたりしない。盛り上がっているのはマーケティング周辺であり、皆が負けそうなほうを応援する。ほとんどの人はHULのことを知らないが、HULのブランドのことは知っている。手軽に得られるスリルというわけだ」

法的な問題

比較広告は、製品名を名指しするものであっても、比較が消費者を啓発する公平なものである限り法的に許されている。インド広告基準審議会(ASCI)の会長、サブハッシュ・カマート氏は、「公正性と誠実性に関する一定の原則に忠実でなければならず、自らが優位になるように比較するポイントを選んではならない。比較は事実に基づいたもので、適切な立証による裏付けを必要とし、立証は競合ブランドを中傷したり信用を傷つけたりしないものとする」と語った。ASCIでは通常、法律問題以前の広告の問題を扱っている。

パルレ・プロダクツのシャー氏はブランドセンチメントについて、小さいブランドは失うものが非常に少なく、事実ですらない主張をすることもあると話している。「ほとんどの場合、相手ブランドへの最初の対応は法的措置になる。しかし、対立する価値がない時もある。主張が事実である場合は、無視して時間とともに事態が収束していくことを、大きいブランドは選択するのだ」と同氏は語る。

小さいブランドが、有名ブランドの堪忍袋の緒が切れるまで追い詰めようとすることもある。やり返してくれれば、結果的に注目がさらに集まり、ニュースで取り上げられることも増えるからだ。これに対し、大きいブランドでは法務部門が法的手段に訴えるべきかどうかを判断する。

インドでは、広告に対する苦情の申し立てはすべて、司法組織ではなく広告管理機関であるASCIの消費者苦情委員会(CCC)が対応する。訴えが認められると、広告主は1週間以内にCCCの決定の連絡を受け、10営業日以内に広告の撤回か修正をする。

どこが悪いのか

比較するというアイデアは、クライアントとエージェンシーのどちらの側からも出る可能性があり、クライアントが自らクリエイティブエージェンシーに指示を出し、比較を実施するよう求めることもある。シャー氏は、「どちらかといえば、クリエイティブエージェンシーからアイデアが出てくるケースが多いだろう。クライアントは、たとえ実施したくても受け入れたがらないのが一般的だ」と語る。最終的に、画期的で斬新なことを実施したいエージェンシーをクライアントが受け入れ、承認する必要があることは同氏も認めている。

これに対し、インフェクティアス・アドバタイジングのシャストリー氏は、比較広告はブランドの話題と熱狂を大いに生み出すものではあるとしながらも、たいていはクリエイティブエージェンシーの適切なアドバイスに反して、マーケティングチームの側が興奮して求めてくると考えている。

アーヴィンド氏は、ブランドのチームとクリエイティブパートナー、双方の共同行為が根本原因だとしている。

いずれにせよ、法的手段を伴うケースでは、クリエイティブエージェンシーは問題視されるものの、クライアントの承認を得ていることから共犯とは見なされない。

PRの役割

大きいブランドが法的手段をとらずに、PRなど他の方法に訴えることがある。PRを活用して、そのメリットが重要でないことを消費者に教えるのだ。

ピッチフォーク・パートナーズ・ストラテジック・コンサルティング(Pitchfork Partners Strategic Consulting)の創業者の1人であるディープ・シェルギル氏は、「クライアントが比較の方向に舵を切ると、PRエージェンシーは、キャンペーンを裏付ける事実という形で支援的なコンテンツを提供することで、それを補完する。このようなコミュニケーションは広告エージェンシーが指揮を執るのが普通で、独立した試験といった形のエビデンスで裏付ける。こうした支援活動をPRエージェンシーが主導することはまれだ」と述べた。シェルギル氏によると、PRエージェンシーは、キャンペーンに関するメッセージの作成とメディアの問い合わせの管理において重要な役割を果たすという。

ブランドは普通、自らの見解を打ち出したいが、衝突は避けたいという場合にPR組織を使う。しかし、そのような時に、ブランドを支持してくれる消費者ほどすばらしい資産はないとShah氏は考えている。とはいえ、PRがこのようなコミュニケーションと完全に無関係でいられるわけではない。

比較広告のこれから

既存ブランドを攻撃するほど果敢なブランドはどこなのか、消費者は関心をもっている。しかし、そのようなコミュニケーションは、実際にブランドが提供しているものに光をあてることで、ブランドの存在を正当化するのでなければならない。シャストリー氏は、「優れている理由を証明するものが足りなければ、泥を投げつけた者としてしか認知されない。長期的な戦略になるとは限らない」と語った。キャンペーンに取り組むブランドのマネージャーやCMOは3年ごとに交代するのが大半であり、10年に及ぶビジョンの持ち主はいないと同氏は説明する。

もっとも、比較広告を推進する方針そのものは、「人は忘れるものだ」という事実が支えになっており、だからこそ続いている。広告を記憶しているのはこの業界の人間だけなのだ。

とにかく、すべてがうまくいっていても、こうした話題便乗型マーケティングのやり方には賛否があることをブランドは理解しなければならない。比較をすれば自分たちも比較の対象となることを忘れないようにしなければならない。

提供:
Campaign; 翻訳・編集:

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