Erik Ingvoldstad
2018年1月11日

「広告界を焼き払え!」

広告界はこれまでのシステムや慣習を一掃し、新たなビジネスモデルを構築するべきだ −− 元広告マンが激白する。

「広告界を焼き払え!」

「クリエイティブ業界」 −− 広告マンたちが若干自惚れつつそう呼ぶ世界が、根本から揺らいでいる。私から見ると、広告代理店は周囲の環境の激変にもかかわらず、その流れに乗ることを頑なに拒んでいるかのようだ。クライアントはもう既に、代理店に対し挑戦状を突きつけている。効率性やクリエイティビティー、そして責任といったあらゆる点でマーケティングへのアプローチを改善しようと、実際に行動を起こしているからだ。

不幸にも、広告界は世界で最も保守的な業界の1つであり、メディア消費やテクノロジー、消費者文化がこの10年間に大きく変化したにもかかわらず、目に見えるような変革を遂げることがなかった。真の意味での統合や効率化は行われず、業務のマネージメントや遂行といった面でもほとんど変わっていない。言い換えれば、広告界は崩壊一歩寸前の、最も「熟れきった」業界の1つと言える。

エリック・イングボルドスタッド氏

このままでは、広告界は間違いなく壊滅する。だが、それを防ぐための唯一の解決策がある。ライターのオイルを至るところに撒き、どこかのクリエイティブディレクターからジッポーを盗んできて火を付け、業界全体を焼き払ってしまうのだ。そしてその後に機能的なシステムをつくり直し、ブランドが消費者と濃密な関係を築けるよう手助けをする。ただしそれは、世界中のどの都市のどの代理店の社員もが持っている自惚れと傲慢さ、そしてクライアントへの嫌悪感を捨て去ってこそはじめて実現する。

この業界が刷新を拒んでいるのは、決して耳新しいことではない。いつの時代でもそうだった。確かに我々は過去20年の間にデジタルエージェンシーの出現を見たし、テレビ広告からデジタル広告へのシフトも経験した。だが根本的な問題は、代理店がクライアントと目標を共有しないこと、より具体的に言えば、多くの代理店が断言するようにクリエイティブがクライアントにとって利益となる作品づくりに興味を持っていないことだ。彼らの仕事の動機はエゴや広告賞、そして予算をかけた「格好の良い」プロダクションに関わることに過ぎない。もし私がクライアント側の人間ならば、代理店のあらゆる提案に隠されている本当の動機に疑念を抱かざるを得ないだろう。

だが、ここでは全ての欠陥をあげつらうことは控える。その代わり業界が将来も生き残りを賭けるであれば、どのような改革が必要なのか考えてみよう。以下がその手段だ。

1.「文化」を変える

皆がクリエイティビティーを発揮できる文化をつくることが肝要だ。チームのメンバー1人ひとりに、与えられている職務でそれを発揮させよう。幅広いソリューションを生み出すため、柔軟性に富み、要求に応えられる構造をチームにつくるのだ。エゴを抑え、広告賞のことは忘れ、人生経験豊かな多彩な人材を活用しよう。管理職(特にクリエイティブの部署の)にはもっと女性を活用しよう。戦略的なトレーニングをCEOから受付嬢に至るまで、全ての社員に課そう。またどのような業務にも、その中心にはデジタルを据える。仕事を楽しみ、世界を変えるようなソリューションを生み出すためよりハードに闘い、クライアントの業績の改善に皆が貢献できるという実感を持たせよう。更に正しい動機に基づいて、価値のある闘いに挑む。顧客体験をより良いものにするため、クライアントにリスクを背負うよう説得する。もし従来型の広告を語りたいのなら、「ストーリーテリング」や「顧客体験」といった偏向した言葉を使ってはいけない。

2.思考を変える

広告のことなど忘れてしまえ。広告など、マーケティング全体のほんの一部でしかない。業界の核心を理解するのだ。PR専門の人間やエンジニア、ビジネスストラテジスト、船長(厳密に言えば本物の船長ではないかもしれないが、異なるスキルを持つ人材の意)などを雇い入れる。真の改革をもたらすために業界を見直し、世界が直面する本当の課題を解決し、現実の顧客体験(フェイクではなく)を向上させる。ビジネスの様々な要素を統合する。特定分野の代理店など潰してしまえ。ただし、従来型の代理店に彼らを吸収してはならない。異なる視点と運営モデルで、まったく新しい組織をつくり上げるのだ。

3.インセンティブを変える

古い給与システムは捨て去ろう。時間ではなく、結果に対してお金を払うのだ。現在のモデルは、代理店が限りなく多くの社員をクライアントに注ぎ込むことでより儲かるようにできている。クライアントにとっては不利だし、代理店の真の利益にもならない。チームにインセンティブを与え、人々の生活を変えるような、テクノロジーやメディアにとらわれないソリューションを実現させよう。確かにその達成は難しいだろうが、そうしなければ誰もが限りなく手を抜いてしまい、ありきたりの成果物しか生まれてこない。直結型のアナログメディアが消滅した今、消費者と有効にコミュニケートし、関係を築き上げる手段はほかにないのだ。

広告マンの何人かはこのコラムを読んで身構えるだろうが、広告界が今の課題を認めてこそはじめてこうしたプロセスは動き出す。今の代理店ネットワークは死んだ馬に鞭を打っているようなものだ。現在の収益モデルがやがて消滅すると業界人がはっきり気づいたときこそ、真の変革が始まる。さて、その先鞭は誰がつけるのだろうか。

ザ・クラッシュのリーダー、ジョー・ストラマーの金言を忘れるなかれ。「The future is unwritten(未来に筋書きはない)」。

(文:エリック・イングボルドスタッド 翻訳・編集:水野龍哉)

エリック・イングボルドスタッド氏はシンガポールのデジタルコンサルティング会社「アコースティック・グループ」のCEO。ツイッターはIngvoldstad at @ingvoldSTAR 、Acoustic at @AcousticGroupSG.

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