Sabrina Sanchez
2021年6月08日

悲しみを、そのまま受け入れてみる

自分の心の健康を保持する「セルフケア」は、瞑想のグループセッションに参加することだけを意味するものではない。悲しみを受け入れること、そして思いやりを示すことだったりもするのだ。

悲しみを、そのまま受け入れてみる

私は、幸せ者だ。

よく私は、自分が感謝していることを思い起こせる短いマントラ(真言)を唱えて、一日を始める。そんな気持ちが伝わるよう願いながら、ぎこちなくとも人々に微笑みかける。週末には音楽を流し、大声で歌う。

だが、このパンデミックが14カ月目に入り、楽観的でいることが難しくなってきている。

昨年は、喪失感に何度も襲われる一年であった。おそらく多くの人々も同様だったことだろう。私はそのような時に、感謝の気持ちを持つようにして、立ち向かってきた。在宅勤務が可能なのは幸運なことだ。雨風をしのぐことができ、テーブルの上には食べ物だってある。身体も健康だし、愛犬が心の支えとなってくれている、と。

だが、このように耐える日々が1年以上も続くと、常に良い気分ではいられない。そしてそのことに罪悪感を覚えるのだ。失われた時間や、愛する人を失った悲しさを追い払おうと努力した。自分は実際ほどには燃え尽きていないのだと、思い込もうとした(大学のオンライン授業は面白くなかった)。まだまだ処理すべき物事があるという考えには、異を唱えた。

悲しみと感謝は両立できるということが、ようやく分かってきたのはつい最近のことだ。

雇用主が「メンタルヘルス」を奨励することの意味について、よく考えた。多くの企業は5月になると、「自分自身のケア」がテーマのウェビナーやディスカッションを開催する。

しかし私は、この表現は独断的だと常々感じていた。自分自身のケアの仕方は、人によって異なるもの。必ずしも、瞑想のグループセッションに参加すればよいというものではないはずだ。悲しみを受け入れたり、思いやりを示すことだったりもするのだ。

この1年間で300万人超が、COVID-19で命を落とした。つまり、愛する家族を失い、悲しみに暮れる家族が少なくとも300万人以上いることになる。黒人の命は警官の手によって、あるいはその他の暴力によって、今も失われ続けている。アジア系コミュニティーは、暴力と差別に怯えながら暮らしている。ヒスパニック系コミュニティーは、オピオイド危機(医療用鎮痛剤の過剰摂取)に蝕まれている。

このようなことが同時並行的に発生する中で、気持ちが重くなるのは当然のことだ。非営利団体「メンタル・ヘルス・アメリカ(MHA)」の調査によると、2020年にうつ病の診断テストを受けた人の8割超が、パンデミック初期から一貫して「中等度から重度」の症状を示している。同時期に、頻繁に自殺を考えたことがあると回答した人は、17.8万人以上に上る。

ほとんどの社会的課題と同様、メンタルヘルスの危機が特に深刻なのは少数派グループである。自殺念慮の割合が特に高かったのは、LGBTQの若者だ。自殺念慮を抱える人の割合が最も大きく増えたのはネイティブアメリカン、不安やうつを訴える人の割合が最も大きく増えたのは黒人/アフリカ系アメリカ人だった。2020年は、かつてない規模のアジア系アメリカ人が、メンタルヘルスの専門機関を受診している。

人々は苦しんでいる。そしてこの苦しみが、仕事で高いパフォーマンスを発揮することを難しくしている。一方で、がむしゃらに働くことを良しとする「ハッスルカルチャー」が、過労を称賛している。そして朝ベッドからなかなか出られない日があったり、残業をいとわない働き方をできる精神的なキャパシティーが無い、あるいはそのようなライフスタイルを選ばない人に罪悪感を覚えさせているのだ。

もし多くの人々が苦しんでいるのであれば、なぜ我々はメンタルヘルスを、スペクトラムの重度/軽度としてでなく、解決すべき問題としてとらえるのだろうか?

うつ病を患っている米国人1900万人以上のうち、症状が完全に消えない人は20~30%に上る。米国精神医学会によると、「うつ病エピソード」(抑うつ気分、集中力の減退、興味の喪失といった症状)を経験した人のうち、少なくとも半数は、2回目のエピソードを経験するという。精神疾患は慢性的であることが多く、(うつが悪化しやすいといわれる)5月以降もずっと続いていくのだ。

世の中で起こっていることや個人の生活と、仕事は切り離せないものであることが、パンデミックによって明らかになった。誰もが荷を背負っており、それを下ろせない日だってある。

そのような人をケアする責任は、従業員と雇用主の双方にある。苦しみを打ち明けても大丈夫そうな安心感が十分に無ければ、従業員が自分のメンタルヘルスをケアすることはできない。またメンタルヘルスがスペクトラムであることを雇用主が理解しなければ、従業員は回復することができない。

オフィスに回帰する中では共感と思いやりを、従業員も幹部も持ち合わせてほしい。パンデミックのようなクライシス時だけでなく、常日頃から柔軟でいられれば――もしかしたら、自身のクライシスに直面している人がいるかもしれないのだから。昨年からの事があらゆる人に心理的な影響を与えている可能性を理解し、自分なりの方法で癒していくことを互いに尊重していけたらと願っている。

しかし最も重要なのは、悲しみを受け入れること、批判しないこと、そして気分が安らぐよう手を差し伸べて、理解を示すことではないだろうか。


サブリナ・サンチェスは、Campaign USのレポーター。

(文:サブリナ・サンチェス、翻訳・編集:田崎亮子)

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