David Blecken
2016年5月27日

「成功」の定義 - 岡康道

東京 – 「残念なのは、私の後継者がほとんど見当たらないこと。若い人たちはもっと活動を広げて、独立系のエージェンシーをたくさん興してほしい」 5月末、「アドバタイジングウィーク・アジア」でのワークショップ開催を控え、「タグボート」創業者の岡康道氏はこのように切り出した。

岡康道氏
岡康道氏

電通でキャリアを積んだ岡氏は、17年前に日本初となる独立系クリエイティブエージェンシー「タグボート」を設立した。これまでに名立たる広告賞を受賞、大きな成功を収めてきたが、会社のスタッフは今でも10人ほどと小規模だ。

その結果、広告業界の若い世代と疎遠になったと感じるようになった。「アドバタイジングウィーク・アジア」でワークショップを開催するのも、こうした若手と接する機会を設けようというのが大きな要因の一つだ。

「独立してから、様々なことを成し遂げることができました」と岡氏。
「自分たちでビジネスをコントロールでき、余暇の時間もつくれ、収入もよくなった。ただ、後継者がいないのです。新卒や新人を雇う機会がありませんでしたから。電通を辞したマイナスの部分ですね」

「若い世代はサラリーマンでいることに甘んじず、独立して日本の大手広告代理店と正面から競争するぐらいになってほしい」

今でもほとんどの独立系エージェンシーは、クライアントから直接ではなく、電通や博報堂といった大手代理店経由の仕事に依存している。タグボートも仕事の内容によっては大手代理店と組んでコラボレーションをするが、「我々は決して『友人』ではありません。うちの会社は完全に独立していますから」。

「なぜもっと多くの人が独立しないのでしょう。そんなに大変なことではないと思うのですが……」

その理由の一つは、広告業界が以前ほど魅力的でなくなったことかもしれない。「今、広告・メディア業界にとって最も価値ある人材は、テクノロジー産業で活躍したいと望んでいます。法曹や医療といった業界も進化を遂げて、自由な発想をもつ若い人々にとって魅力的な世界になった。広告業界は逆に硬直化し、柔軟性を失ってしまいました」

「昔は電通や博報堂の社員は、普通のサラリーマンには見えませんでした。恐らく、企業文化というものが変わったのでしょう。
最近は様々な場所、様々な分野で自己表現が可能になり、優秀な人材は電通や博報堂はただ規則が厳しく、残業の多い企業としか捉えていない。魅力に乏しいわけです。
管理されることとクリエイティブであることは、ほぼ相反する。僕が電通にいた頃は、クリエイターは全く管理されていませんでした。いつ出社して、いつ帰っても構わなかった。最近はとても厳しいですね。(大手代理店は)他の企業とは反対の方向に進んでいるようです」

岡氏自身が電通を辞したのも、仕事をもうこれ以上楽しめないと感じたタイミングだった。
「当時僕は38歳でしたが、これ以上ここにいたら、クリエイティブの世界からどんどん遠ざかってしまうと感じたのです。クリエイティブ界には何としてでも残りたかったので」

今後、広告業界はどうすれば才能ある人材を確保していけるのだろうか。岡氏は、業界にある種の「緩さ」が必要と説いた上で、「我々が羨望の的になること」と言う。
多くの独立系エージェンシーが広告賞を受賞すれば、個人の自由と成功は両立が可能、と証明できるというのだ。

さらには日本の教育システムを変えることも重要だと言う。
「日本人は『オール・オア・ナッシング』的なアプローチをする傾向がありますが、これは現実的ではありません。よく多くの人が、憧れの人物として『オグルヴィ・アンド・メイザー・ワールドワイド』のチーフ・クリエイティブ・オフィサー(カイ・メン・タム氏)を挙げますが、彼が万人にとっての模範的成功例ではないですから」

「ビジネスマンとして成功するための正しい道は一つだけで、他の選択肢は二流や三流、別の正しい道はない ― 多くの人がそのように考える傾向があります。ですから、起業家として己の道を歩むことも一つの立派な選択肢、とは考えにくいのでしょう」

僕は、選択肢は二つあると言いたい。確かに、(『オグルヴィ……』の)カイのような人を目指す道もあります。しかしもっと小規模なビジネスでも、僕のように幸せになれる道もある。
日本には世界に誇れる職人がたくさんいます。日本人は与えられた仕事に対して熱心に取り組むので、生来の職人気質なのでしょう。
クリエイターであるならクリエイティビティーに集中して、幸せで実りある人生を送る。若い人々にはそういう選択肢があっていいのではないでしょうか。企業のトップになることだけが、人生ではありませんから」

(編集:水野龍哉)

提供:
Campaign Japan

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