Ian Whittaker
2021年11月19日

投資家の視点から見るアップルIDFA変更の影響

第3四半期の各社業績から、アップルによるIDFA変更がオンライン広告プラットフォームに与えた影響を読み取ることができる。

投資家の視点から見るアップルIDFA変更の影響

各社の第3四半期業績発表も佳境を迎えており、書きたいことはたくさんある。最初に考えたのは、WPPの取引状況の力強い復調についてであり、同社の第3四半期のオーガニック成長率は集団から頭ひとつ抜けている(これについては後述する)。もう一つは、盛り上がりを見せているメタバースについての話題を取り上げることだ。これについては筆者にも持論があるのだが、こちらはまた別の機会に譲ろう。

何よりも、今回の業績から読み取れる主要な長期的トレンドといえば、アップルのIDFA変更がオンライン広告プラットフォームに与えた影響について、ようやくインサイトを得られるようになったという点に尽きる(ただし、これは投資アドバイスではないことに留意してほしい)。

ここ数四半期において、各プラットフォームは希望的観測を語ってきた。IDFAに関する変更は、どこかの時点で多少の影響はあるだろうと述べるにとどめる一方で、主に広告収入の素晴らしい数字の報告に終始していたのだ。

しかし、第3四半期に入って事態は深刻さを増し、そんな茶番は幕を閉じた。スナップは、第3四半期の収益予測がマイナスに転じたことで株価が30%以上も急落した。さらに重要なのは、IDFA変更による損失の直撃を受けたことにより、第4四半期も売上増加が見込めないという点が挙げられる。フェイスブックの第3四半期決算も明らかに雲行きが怪しく、スナップほどの株価下落は起こらなかったものの、ダメージを受けていることは言うまでもない。

両社はいずれも、第3四半期の業績不振と悲観的な見通しについて、マクロ経済の状況を主な理由にあげた。しかし、他のオンライン企業の業績と比べてみると、景気の影響という言い訳は苦しい。ツイッターは予測を上回る売上を達成し、アップルのIDFA変更による損失は「軽微だった」としている。

アルファベット(グーグル)は、売上と収益のいずれにおいても第3四半期のコンセンサス予測を上回り、ツイッターと同様に、同社もIDFA変更による影響は軽微だったとしている。同社によると影響があったのは、ユーチューブのダイレクトレスポンス広告売上のみだったという。

ツイッターもグーグルも、マクロ経済の状況に大きく影響されたとは述べていない。両社の主張を裏付けるように、エージェンシー持株会社の業績もおしなべて好調で、WPP、インターパブリック、ピュブリシスの3社については年間売上予測が上方修正されている。景気の影響という主張は、やはり説得力に欠ける。

どうやらIDFA変更のダメージは、きわめて狭い範囲に生じ、ダイレクトレスポンス広告と中小企業をメインターゲットとするプラットフォームを直撃したようだ。

ブランド広告はIDFA変更による影響をあまり受けないと考えられており、大手広告主が様子見の姿勢でいるのはそのためだとも言われている。これが正しければ、(とくに投資家にとって)今後重要になってくるのは、それぞれのプラットフォームが何をしていて、どんな状況に晒されているかに基づいて、各テクノロジー企業の違いを認識することだろう。こうした違いは、いずれ評価額にも反映されるはずだ。

もう一つ、より重要な点は、こうした影響が一時的なものなのか、それとも永続的なものかだ。1四半期だけではまだ断定はできないが、これまでの兆候から見るかぎり、影響は長期的なものになりそうだ。

スナップとフェイスブックはいずれも、IDFAによる損失を乗り越えるための方法をまさに検討中だと強調した。少なくとも測定に関する問題についてなら、フェイスブックは比較的短期間で解決できるだろう。しかし、ターゲティングの問題解決にはかなりの時間が必要となりそうだ。すぐにどうにかなるものではない。

スナップは決算報告の場で、悪夢のシナリオに言及した(一方、フェイスブックは言及を避けた)。それはiOS14.5で実施された変更が、次期バージョンのiOS15でさらに強化される可能性だ。

アップルが新たな変更を導入するリスクが常に存在するために、スナップやフェイスブックのようなプラットフォームは、安定した長期的な解決策を編み出すことが難しくなり(どんな解決策も、次のアップデートですぐさま上書きされてしまう)、やがては広告主の信頼を失い、プラットフォームとしての収入源を他に移される可能性がある。

これこそがアップルの狙いだという可能性はかなり高いと、筆者は考えている。アップルが変更のあと、広告収入の増加による利益を得たのは間違いないが、筆者の見方では、こうした変更は、少なくとも部分的に、フェイスブックの生命線である収入源の1つを絶ち、ビジネスを弱体化させるための意図的な攻撃として仕組まれたものではないかというものだ(そしてスナップは巻き添えになった)。むしろ、それが主眼なのかもしれない。

アップルがフェイスブックに狙いをつけた理由については、また別の記事が必要だ。しかし、グーグルやツイッターといった他のオンライン企業がほぼ無傷だった事実を考慮すると、やはり狙いすました攻撃に思えてくる。この見方が正しければ、アップルの絶え間ない方針変更は、きわめて意図的に、ダメージを最大化するようにデザインされたものということになる。

フェイスブックとスナップは立ち直れるのだろうか? 上記の解釈が正しければ、道のりは険しい。アップルは今後も徐々に忍びよる規則変更を武器として使い、プラットフォームの地盤を揺るがしつづけるだろう。

より大きな困難に直面するのはスナップの方だろう。率直に言って、広告主にとってスナップは規模の面で「必須」ではないが、フェイスブックはなくてはならない存在だからだ。それに、たとえ選択を迫られたとしても、広告主はフェイスブックとの関係性を維持する可能性が高く、またフェイスブックは膨大なファーストパーティデータも保有している。

皮肉なことに、データのウォールドガーデン化が進行し、広告主も小売業者も自社のデータリソースを構築するようになった結果、プラットフォームには広告主との直接の関係を緊密化するという逃げ道ができたが、それでも長く険しい道であることに変わりはない。

最後に1つ。筆者はこのたび、サブスクリプションプラットフォームを開設したので、ぜひチェックしてみてほしい。Campaignへの寄稿はとても有意義であり、今後も続けていくが、新サービスでは、現状の展望とデータの深層分析をお届けする予定だ。お楽しみに。


著者イアン・ウィテカー氏は、リバティ・スカイ・アドバイザー(Liberty Sky Advisors)の創業者でマネージングディレクターを務める。Campaignでは広告業界を財務の視点から分析する定期コラムを執筆。同氏のインサイトと記事をもっと読みたい方には、www.ianwhittakermedia.comの購読をおすすめする。

提供:
Campaign; 翻訳・編集:

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