Omar Oakes
2019年1月17日

「朝食フレーバーのアイス」の需要を、いかにAIは見つけたか

日用消費財大手のグローバル部門責任者が、マーケティングにおける人工知能(AI)についての本を共著で出した。ユニリーバは何を学び、テクノロジーの変化のスピードにどう対応しているのだろうか。

「朝食フレーバーのアイス」の需要を、いかにAIは見つけたか

世界の名だたる成功者は旺盛な読者家だと、よく言われる。著名な投資家ウォーレン・バフェット氏などビジネス界の大物は、業界で抜きん出るべく膨大な量の情報をインプットしてきたことが成功につながったとする。

だが、毎日何時間も読書に充てることができない、マーケティングに関わるごく普通の人間が、時代を先取りし、自社ブランドにとって価値ある見識を身に着けるにはどうすればいいのだろうか。

ユニリーバでインサイト部門を率いるスタン・スタヌナサン氏は、社内で「最も強力な扇動者」と呼ばれている。同氏は、マーケターが文化や社会を、より具体的な、的を絞った形で深く学ぶ上で、AIが鍵を握ると信じている。機械工学も学んだスタヌナサン氏は、コカ・コーラ社に17年勤めた後、2013年にユニリーバに入社。ロンドンでインサイト部門を率いている。

スタヌナサン氏がこのほど共著で出した『AI for Marketing and Product Innovation』(未邦訳:マーケティングとプロダクトイノベーションのためのAI)は、クリエイティブやマーケティングに携わるプロ向けの実践的ガイドブックだ。基本と実例からAIについて学べる本になっている。

業界内のスターといった話題に長らく終始してきたクリエイティブ界は、AIをマーケティングの仕掛けとしてしか扱ってこなかった。そんな業界にとって同書は、機械学習技術はすっかり定着しており、今後さらに強力な存在になるものだと、新年に際しあらためて説くものだ。機械学習の力を最大限に引き出す方法を知るマーケティングのプロが、トップに立つようになるだろう。

著者たちは、機械学習に知識がほとんどない人たちでもAIと機械学習(ML)を最大限に活用できるよう、必要なリソースやスキル、基準を解説している。すでにこれらの知識がある読者であれば、後の章に飛んで、プロダクトイノベーションや価格力学、顧客セグメンテーションへのAI活用事例についての、もっと突っ込んだ議論を読むことができる。

メタファーを機械で解読

本の第2章では、人間の思考の無意識というプロセス(考えてはいるが、考えているということ自体を認識していないもの)に特有の本質を、いかに機械が、より信頼性の高い形に翻訳できるかについて説明している。

「AIとMLが広告の世界にもたらす特殊かつ重要な利点とは、メタファーの分析とその解釈だ。神経科学や言語学の専門家たちも認めるように、メタファーとは、人間が周囲の世界を把握し、広く共有されている無意識の道理を表現する上で、最も重要な手段なのです」

ユニリーバでの6年間で得たAI関連の見識とは?というCampaignの質問に対し、同社のAIに対するアプローチが、(驚くことに)インド映画産業によってどう変化してきたのか語ってくれた。

「AIは構造化データに使えるのではないか、ではこれを予測モデリングに使ってみようと考えるようになりました」とスタヌナサン氏。「でも、こうも思ったのです。非構造化データには、どのように使えばいいのだろうか、と。これこそが我々にデータの豊かさについて教えてくれ、気づきをもたらしてくれた点です」

これは「たくさんの本を読むことでさらに賢くなるバフェット氏」と同様、シンプルなコンセプトだ。社会や文化に根ざした情報をAIにたっぷり与えれば、つながりや、社会を動かすものについての見識が得られるはず、というのである。

ユニリーバは映画監督たちに、社会で起きていることをどのように理解しているか聞き、映画がどのように長くインドの文化に影響を与えてきたのかを知った。そして「歌やテレビや映画といった、影響力の源を直接調べる」ツールを開発した。

スタヌナサン氏はこう説明する。「見る映画や読む本など、全てが我々の思考に影響を及ぼします。映画の台詞や歌詞の一つひとつを全て分析できれば、そこに何か意味のあることを見つけられるかもしれない。こういったコンテンツの全てを消化する事は、コンピューターにとって至極簡単なこと。我々はメタファーを突き止めるべく、非構造化データの精査を始めました。我々はこの情報を使って、最新動向を見極めることができるのです」

そのプロセスは、複数の驚くべき発見につながり、ユニリーバの主要ブランドのいくつかに反映されるまでになった。ベン&ジェリーズ(Ben & Jerry’s)が2017年に発売した、朝食フレーバーのアイスクリームもその一つだ。

ユニリーバは、「アイスクリームを朝食に」という歌詞を含む曲がパブリックドメインに50以上あることを発見、アイスクリームと朝食の結びつきが生まれた。またアイスクリームに関する別の調査では、アメリカでは地域によって朝食用にアイスクリームを作っている企業が多くあることや、ダンキンドーナツに朝食を買いに行き、アイスクリームを持ち帰る人がいることも明らかに。

「機械学習のアルゴリズムは、これらのデータをすべて高速処理し、甘い朝食のメニューを提案できることが分かりました。あれから2年経ち、今我々の競合相手が同じことをやっていますね」と、スタヌナサン氏は誇らしげに語る。

新興テック企業がユニリーバにプレゼン

本の発売は、最高経営責任者(CEO)のポール・ポールマン氏が後進に道を譲るという、ユニリーバにとって極めて重要な時期に重なった。あとを継いだのは、美容・日用品のマーケターであるアラン・ジョープ氏で、1月1日に着任。ユニリーバの最高マーケティング責任者(CMO)であるキース・ウィード氏も、今年引退する予定だ。

機械学習技術はマーケターのクリエイティブもしくは戦略的思考に取って代わるのではなく、マーケターの能力を高め、異なる思考を可能にし、もっと別のことをする時間を与えるようになるだろうと、スタヌナサン氏は固く信じている。

最も興味深いテックプラットフォームのいくつかは、大企業でなく新興企業が提供している、と同氏はこともなげに言う。「テクノロジーはマーケティングを民主化した!」と、見出しによくあるような一節も挙げて語る。

「我々は、見つけたんですよ」とスタヌナサン氏が言う米国、英国、中国、イスラエル、フィンランド、シンガポールの新興企業は、現在ユニリーバと直接協働中だ。

同氏によれば、新興企業との協働へのプロセスは以下の通り。「将来性のある新興企業と1日~1日半を共に費やし、ブリーフィングをした後に、5分でプレゼンしてもらいます。いくつか新興企業を見た上で、通常4桁の数字の予算を使うパイロット段階の仕事に1社に参加してもらい、うまくいくか様子を見ます」

一方で、定量的技術とAI主導の技術を利用する上で、マーケターの仕事内容は「劇的に変化」しなければならないと警告する。

「マーケターにプログラマーになってほしいと言っているわけではありません。しかし機械技術をきちんと理解することは、今後も非常に重要になってきます。マーケティングとは芸術と科学の融合で、ブランドはマーケターの抱くビジョンをもとに生み出されるのです」

公私にわたる自己研鑽のため、さらなる読書を新年の誓いとしたマーケターや広告界の人間は多いことだろう。少なくとも、あなたに代わって本を読んでくれるAIが生まれるまでは、『AI for Marketing and Product Innovation』は一読の価値がある一冊だ。

(文:オマール・オークス 編集:田崎亮子)

提供:
Campaign UK

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