Ryoko Tasaki
2023年12月15日

世界マーケティング短信:ザラの広告撤回、ユニリーバの環境訴求に調査

今週も世界のマーケティング界から、注目のニュースをお届けする。

批判が集まったザラの広告キャンペーン
批判が集まったザラの広告キャンペーン

※記事内のリンクは、英語サイトも含みます。

ザラ、ガザ戦闘を想起させるとの批判に広告を取り下げ

ファストファッション大手ザラ(Zara)のキャンペーンが、パレスチナ自治区ガザでの戦闘を想起させると批判を浴びた。「アトリエ(Atelier)」コレクションの画像にはモデルと共に、がれきや手足のない彫刻、白い布に包まれたマネキンなどが写っており、SNS上では「#BoycottZara」のハッシュタグがトレンド入りした。

ザラはこのキャンペーンについて「7月に考案し、9月に撮影したもの」であり、「彫刻家のスタジオにある未完成の作品をイメージしたもので、職人技でつくられた衣類を芸術的な文脈で見せることのみを目的に制作したもの」だと説明した。そして、一部の顧客に不快感を抱かせてしまい、意図とはかけ離れたイメージを与えてしまったことを詫び、広告を取り下げた。

ユニリーバの広告での環境訴求をCMAが正式調査へ

英国の競争・市場庁(CMA)が、日用品大手ユニリーバ(Unilever)のグリーンウォッシングについて正式な調査を行うことが明らかになった。同社のマーケティング施策に「懸念すべきさまざまな慣行」があるという初期調査の結果を受けたものだ。

製品の環境配慮に関する「曖昧かつ広範な」訴求や、リサイクル可能性に関する不透明な文言、商品の一側面のみに焦点を当てて商品全体の環境負荷が低いかのように誇張したり、画像や色使いで実際よりも「グリーン」な印象を与えている可能性を懸念しているという。具体的にどのブランドや商品が調査対象なのかは、CMAもユニリーバも明らかにしていない。

ユニリーバの広報担当はCampaignに対し、CMAの発表に「驚き、がっかりした」とコメントし、CMAの主張は誤解を招くと反論した。「ユニリーバは、パッケージに載せた商品の利点について、責任ある明確な主張をしています。そして、どのような訴えにも確実に実証できるしっかりした工程を備えています。今後もCMAと協力し、情報提供に対応していきます」。

CMAのサラ・カーデルCEOは「環境を守るためにできることをしようとする人が増えています。しかし多くの人が、実際よりも『グリーン』だと謳う商品を誤解するのではないかと、私たちは懸念しています」と述べた。CMAは今年1月から、環境配慮を主張する商品の調査を消費財にまで拡大し、グリーンウォッシングの取り締まりを強化している。

世界の広告費、2024年は4.6%成長と予測 電通グループ調べ

電通グループが「世界の広告費成長率予測(2023~2026)」を発表した。2023年は世界で+2.7%成長、2024年は複数の大型スポーツイベントや多数の国での国政選挙、媒体価格のインフレーションなどにより+4.6%の成長を予測する。

媒体別にみると、デジタル広告が+6.5%と高い成長率を維持し、世界の総広告費の6割弱を占める。テレビ広告はマイナス4.0%だが、2024年は+2.9%に転じ、特にコネクテッドTV(+30.8%)が大きく成長する見込みだ。新聞・雑誌はマイナス3.3%、OOHは+4.4%、シネマは+6.4%、オーディオは+1.1%の成長となる見通し。

世界第3位の広告市場である日本は、前回の予測(5月発表)から1.5ポイント上方修正した+2.5%の成長を見込む。デジタル広告が全体の45.8%を占める他、テレビ広告(全体の23.5%)も2024年以降は徐々に回復が期待される。

マッチングアプリ関連のハラスメント、啓発プロジェクトが始動

結婚したカップルの22.6%(2022年)がマッチングアプリによって出会うようになり、東京都も今月から婚活を後押しするため「AIマッチングシステム」の提供を開始した。その一方で利用者の64%に、個人情報の流出や過剰な詮索など不快な体験をしたことがあることが、バチェラーデート社の調査で明らかになった。

同社と日本ハラスメント協会は、職場環境などで他者の婚活アプリの利用にかかわる情報を周囲に言いふらしたり、プロフィールを許可なく第三者に広めるといった苦痛や不快な思いをさせる行為を「マッチングアプリハラスメント」(マチハラ)と定義。これを啓発する「NoMoreマチハラ」プロジェクトが始動した。

プロジェクトにはマッチングアプリ事業者22社が賛同する。啓発活動の一つとして制作したリーフレットやポスターには、具体的にどのような言動がマチハラに該当するのか例を挙げて紹介されている。

もしも『くまのプーさん』の100エーカーの森が消えたら?

『くまのプーさん』といえば、A・A・ミルンが1926年に発表し、世界中で今も愛され続けている物語だ。著者の息子とそのぬいぐるみがモデルで、100エーカーの森に動物たちと暮らす。今年1月に原作の著作権が切れ、パブリックドメインとなった。

この物語の内容はそのままに、挿絵や地図に描かれていた木々が伐採された『くまのプーさん:森林伐採版』が米国で発売され、48時間以内に完売した(その後ウェブサイトでPDFを公開)。企画したのは、再生紙や竹から作られたトイレットペーパーを販売する「フー・ギブス・ア・クラップ(Who Gives A Crap)」で、書籍に使われた紙ももちろん再生紙。収益はすべて水や衛生に関する活動を行うWASHプログラムに寄付される。

同社は、バージンパルプ製のトイレットペーパーを作るため、世界中で毎日おびただしい数の木が伐採されていることや、世界の人口の約4割が安全に管理されたトイレを使えないことに問題意識を持ち、2012年に設立したスタートアップ企業だ。今回の書籍を発売した理由について、同社は「何世紀にもわたって根を張ってきた木々が、トイレに流される可能性があります。酷いことですが、防ぐことも可能です」と記している。

(文:田崎亮子)

提供:
Campaign Japan

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