James Halliwell
2022年5月19日

気候危機 主要エージェンシーに強まる圧力

グリーンウォッシングに加担するエージェンシーは、将来的に莫大な損失を被る −− 最新の調査報告書が警鐘する。

気候危機 主要エージェンシーに強まる圧力

グリーンウォッシングに関連する何百にも及ぶ訴訟が、大手PR・広告エージェンシーへの風当たりを強めている。これらエージェンシーの活動に対する批判は絶えない。検察は捜査の手を広げ、当事者である化石燃料企業だけではなく、キャンペーンを担うエージェンシーの責任も明らかにしようとしているからだ。

「スモーク・アンド・ミラーズ 〜 化石燃料の広告に関する法的リスク」と題された調査報告書を発表したのは、気候変動対策に取り組むクリエイターの活動家グループ「クリーン・クリエイティブス」。それによると、気候危機に関わる訴訟は現在世界で少なくとも1400件起きており、その数は増え続けている。2021年5月以降ではエージェンシーを相手どった訴訟が369件あり、そのうちの58%(218件)はPR・広告エージェンシーを対象としたものだった。

また、2020年に起きた訴訟は191件で、2015年から19年の5年間に起きた訴訟の170件を1年間で上回り、「新たな訴訟が著しく増加している」とする。過去5年間では、PR・広告エージェンシーを相手どった訴訟が倍増。これら訴訟の大半は米国だが、合わせて39の国で起きているという。

報告書では多くのPR・広告エージェンシーを運営するWPP、IPG、電通、ピュブリシス、オムニコムの5大グループを名指しし、「地球を汚染しつつ、そのイメージや評価を高めようとしている化石燃料企業と現在も協働している」と批判。

クリーン・クリエイティブのディレクター、ダンカン・マイゼル氏は、「化石燃料企業と協働して気候に関する偽情報を広めることは著しいレピュテーショナルリスクとビジネスリスク、法的リスクを生む」とコメント。「この報告書を見て、そうした活動が地球を傷つけているだけでなく、最後には法廷で裁かれることを今一度認識すべきだ」

さらに、エージェンシーは自らを誤った方向に導くと警告。「クライアントが訴訟の要因となるような情報を隠している事実に、気付いてすらいないエージェンシーが多いのではないか」

「我々は業界を改革している、と信じていても知らぬうちに偽情報を拡散しているのです。エージェンシーは法的措置に対しては脆弱。化石燃料企業との契約よりも優先しなければならないのは、公益です。地球に危害を加えるクライアントとの仕事は、将来的に大きな代償を払わなければならない可能性が高い」

これまでの訴訟では罰金すら求められないケースがほとんどだが、企業にとっては「多くのビジネスリスクになり得る」とも。「訴訟の過程で暴かれる不都合な事実や、繰り返される手厳しい報道、そして莫大なコストと時間がかかる将来的な法的検証」がその要素だという。

だが、経営コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニーが訴えられた最近のケースは、PR会社も今後は金銭的罰則を課される可能性を示唆している。人々の健康に危害を与えかねない偽情報 偽情報でキャンペーンを行った企業のみならず、その助言をした第三者のエージェンシーも罰しようと検察はギアを上げたからだ。

昨年2月、マッキンゼー・アンド・カンパニーは医療用鎮痛剤「オピオイド」の中毒問題で製薬会社にマーケティング上の助言をしていたとして、米国の43州から訴えを起こされ、5億3700万米ドル以上を支払うことで和解・合意した。ニューヨーク・タイムズ紙は「クライアントとの協働で公的な責任を問われた稀なケース」と報道した。

医療用鎮痛剤と化石燃料とは直接結びつかないが、マーケティングサービスの観点から見れば共通点は明白だ。法律事務所ホワイト&ケースの共同経営者ローレン・パペンハウゼン氏は、「政府当局が製薬会社だけでなく、マーケティングサービスを提供した側の責任まで積極的に問おうとしたことで、このケースは極めて注目に値する」とコメント。「オピオイドによる中毒という特殊性に着目する向きもいるでしょうが、特定のマーケティング戦略に対して政府が責任を取らせようとしたことは、今後の訴訟の方向性を示唆しています」

つい最近(4月下旬)も、カリフォルニア州のロブ・ボンタ司法長官が「プラスティック製品のリサイクルに関して虚偽のキャンペーンを積極的に行った」としてエクソンモービルに召喚状を発した。同氏は、「半世紀にわたって繰り広げられてきた虚偽のキャンペーンと、カリフォルニア州とその住民、天然資源に現在も損害を与え続けている行為」を調査し、「世界的なプラスティック汚染を引き起こし、蔓延させ、リサイクルという虚構を広め、その欺瞞を今も続けている企業の責任を明らかにする」と発言している。

エクソンモービルはこの申立てに対し「意味がない」と反論し、同社が各国政府と行っている「重要な取り組みを妨害しようとするもの」と述べている。

たばこ会社との相似点

国際環境法センターのプレジデントを務めるキャロル・マフェット氏は、こうした状況をたばこへの逆風に例える。「化石燃料企業もたばこ会社同様、まやかしを続けていくためにPR・広告企業に依存してきました。このようなグリーンウォッシングは今も活発に行われ、多額の資金が投じられている。しかし、もう真実を隠し続けることはできません。彼らが訴訟に直面している今、クリエイティブを担う人々も『次は自分たちの番かもしれない』と憂慮していることでしょう。もちろん、彼らも法的責任を問われなければなりません」

生物多様性気候法研究所のディレクター、カシー・シーゲル氏はこう述べる。「化石燃料企業のエグゼクティブたちは何十年にもわたって嘘を重ね、気候変動対策の大きな障害となってきた。今、その責任を問う気運は次第に高まっています。これら企業をクライアントに持つエージェンシーは、欺瞞に満ちたキャンペーンをただちにやめなければならない。さもなければ、次に法的責任を問われるのはこれらエージェンシーであり、信用の失墜は避けられません」

今回の調査報告書を受け、WPPのスポークスパーソンは以下のように語った。「弊社のクライアントは低炭素経済に移行する上で重要な役割を担っています。消費者とは正確な情報に基づくコミュニケーションが求められている」

「弊社がクライアントのために制作するコンテンツには厳格な基準を適用し、クライアントの環境対策やそのための支出を公正に伝えるべく心がけています。今後も、パリ協定の規定に反するようなクライアントからの仕事は一切引き受けない所存です」

PRウィークはIPG、電通、ピュブリシス、オムニコムにも取材を試みたが、回答は得られなかった。

(文:ジェームス・ハリウェル 翻訳・編集:水野龍哉)

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