David Blecken
2017年3月30日

「型破りなドミノ・ピザ」の舞台裏

ベストプラクティスや顧客のプロファイリング……ドミノ・ピザ ジャパンでは、こうした常識的なマーケティングの手法は通用しない。

富永朋信氏
富永朋信氏

プレミアムフライデーの導入から1カ月が経った。月末の金曜日は終業時間を早めるよう促す政府主導のキャンペーンには、当初から多くの人々が懐疑的な視線を向けた。それでも、いくつかのブランドはこれに因んだユニークな取り組みを行っている。

その代表格が、痛快なほどにシンプルでタイムリーな「アンニュイマンデー(憂鬱な月曜日)」だろう。実際、金曜午後に休みを取れる人々はごく限られる – この点に着目したドミノ・ピザ ジャパンは、週明けの月曜日の憂鬱さとプレミアムフライデーを堪能できなかった憂鬱さを両方吹き飛ばそうと、遊び心満載のキャンペーンを始めた。

ドミノ・ピザの「ひと味違った」ブランドイメージは、2016年6月からマーケティングを統括する富永朋信氏に依るところが大きい。同社はADKと提携していたがうまく歩調が合わなかったようで、富永氏は就任後、パートナーとしてモメンタム ジャパンを指名した。

同氏が最近手がけた奇抜なプロモーションには、クリスマス期に展開した「トナカイのデリバリー」がある。だがこの企画は、ある意味失敗だったとも言える。トナカイがピザの宅配に不向きなことはあらかじめ想定できたし、システムも不十分で顧客からの高度な要求に応えられなかったからだ。昨年のクリスマスイブの日の売上高は前年比40%増だったが、システム障害が発生。何人かの顧客を怒らせ、同社への批判的報道も出た。それでも全体的に見れば、この取り組みで消費者はドミノ・ピザに改めて関心を持ち、他のピザチェーンとの差別化に成功したことは否定できない。

こうした同社の一風変わったキャンペーンは、日本に限ったことではない。米国ではビルボードを通じ、個々の顧客に直接メッセージを伝えた。ニュージーランドでは自律走行ロボット、英国ではカヌーを使ってピザの宅配を行った。さらに英国では、ピザをモチーフにした婚約指輪を抽選でプレゼントするといった企画も。いずれも奇をてらうアイデアだが、驚くほど没個性的な宅配ピザ業界で、ドミノ・ピザの個性を打ち出すことにひと役買っている。さらに、これらのアプローチは迅速な思考と進歩的姿勢の表れでもあり、他の様々な分野のブランド(特に日本における)にとって学ぶべき点は多い。

富永氏は、ブリティッシュ・アメリカン・タバコ、コカ・コーラ、マイクロソフトなどを経て西友に8年間在籍、その後ドミノ・ピザに移った。同社が直面する課題は明確に認識する。「宅配ピザは日本ではまだ『特別なとき』に食べる物で、平均的な顧客は年に2〜3回注文するぐらいでしょう」(同氏)。市場を拡大してピザ以外のブランドとも競い合い、ピザをハンバーガーやケンタッキーフライドチキンのサンドイッチ並みの身近な食べ物にすることを目標に掲げる。

それを実現するためのプランも、誠に明快だ。まず、記憶に残るコミュニケーションを実行するにはサプライズの要素が欠かせないという。ただしそれが現実離れしてもいけないし、あまり「格好よく」なり過ぎてもいけない。企業の社員というのは、自社のアピール度が「実際より少なくとも2割は高いと思い込んでいる」と指摘。「そのような思い込みを捨てて一歩引き、より冷静な消費者の目線で自社ブランドを見つめ直すべきなのです」。

ドミノ・ピザは、消費者を定義づけていない。消費者を「人の集団」と捉えるのではなく、「人々の意図や動機を追究し、理解することに努めています」。ケンタッキーフライドチキンのようなブランドと渡り合うには、「柔軟性がカギ」とも(現在、ドミノ・ピザは主要な競合相手を特定する調査を行っている。同氏の予想では、それはピザブランドではないとのこと)。商品の質に関わりさえしなければ、どのようなマーケティングの試みにも同社の姿勢はオープンだ。アンニュイマンデー自体は戦略というより、むしろ短期的戦術だ。それでも他社がプレミアムフライデーにターゲットを絞ってプロモーションを展開した中、それを逆手に取ったユーモアたっぷりの取り組みは、ドミノ・ピザのブランド戦略を具現化したものと言えよう。

多くの優れたクリエイティブ思考を持つ人々同様、富永氏も予算上の制約は足かせではなく、メリットと解釈している。「我が社が現在展開しているキャンペーンは、予算に限りがあったからこそ実現したものと言えます。購入できる広告枠に制限があるからこそ、クリエイティブになれるというわけです」。

論理的に考えれば、認知度の向上だけでなく、消費者に行動を喚起するという点においても「テレビは今も重要なメディア」。よってドミノ・ピザの広告予算の約半分はテレビにあてられている。だが同氏は、テレビ広告とは極めて異なる思考が要求される、消費者の自然発生的な行動にも重点を置く。テレビの役割が縮小し続ける一方で、経験し、知見を得、活用するという流れが一般的になると見込んでいる。ベストプラクティスという概念には否定的だ。若手マーケターにとって役立つ部分もあると認めつつ、その考え方は「嫌いです」ときっぱり。こうした思考は日本では珍しい。

「他社がやっていることに追従するのではなく、独自のアプローチをとるべきです」と同氏。「ゼロから発想することが、己の課題を解決する唯一の方法」。会議の席で、前年の取り組みを基準に答えを出そうとする人々には、当然のごとく苛立ちを覚えるという。

「オンライン動画は5秒以内でとか、ロゴを見せるのは2秒以内で、といったことを教えるセミナーがあるかもしれませんが、実に無駄ですね。そうしたことを教えるのは、単にその方法で誰かが成功したから。同じことを繰り返しても、同じ成果など上げられるわけがないのですから」。

このインタビューは英語で行われた。

(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳:鎌田文子 編集:水野龍哉)

提供:
Campaign Japan

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