Wanju Lee
2021年4月09日

広告は物を売ることもできるが、世界を救うこともできる

スターコム(Starcom)でアカウントディレクターを務めるワンジュ・リー氏は、広告業界が「物を売ること」と「社会貢献活動」を両立できると考える理由を説明する。

広告は物を売ることもできるが、世界を救うこともできる

英広告業界の重鎮で著述家でもあるスティーブ・ハリソン氏がCampaignに最近寄稿した記事を読み、私は怒りを覚えた。

だが、読み進めていくうちに、私がそのように反応した理由がはっきりしてきた。結局、怒りの原因は私の個人的な感覚だった。それは、人はどちらか一方にしかなれないのだと言い渡されたような感覚だ。両方はありえない。社会主義か、自由市場か。右か、左か。売るか、救うか。

たしかに、広告業界は「売る」という古き良きモデルの上に成り立ってきた。だが忘れてならないのは、人々が何を求めているのかを理解し、それに関わることによってのみ、物を売ることができたということだ。そして今、人々は変化を求めている。

変化だけでなく、人々はブランドが自分たちに注目し、対話に参加することにも期待している。広告業界では、「顧客は王様」という言葉に慣れ親しんできた。それなのに、消費者を戦略の中心に据えていると言いながら、いつからその声に耳を傾けなくなったのだろうか?

フェイスブック広告のボイコットを呼びかけた「The Stop Hate For Profit(利益のためのヘイトをやめろ)」キャンペーン。レディット(Reddit)のユーザーらが「r/WallStreetBets」というサブレディットを通じ、ゲームストップ(GameStop)の株価上昇に関わった一件。英テレビ番組「Good Morning Britain」の司会者ピアーズ・モーガン氏がメーガン妃に批判的なコメントを発し、英国情報通信庁に4万1000件超の苦情が寄せられ、後に降板した件。これらの出来事に共通するのは、人々が変化を求め、それを実現したということだ。

広告はこれまでも、そしてこれからも、人によって支えられている業界だ。確かに、人には欠陥があり、非合理的な面もある。いつでも有言実行というわけにはいかない。多面的で矛盾も抱えている。考えや行動がいつも同じという人はおらず、同じであるように装うことにも無理がある。

もちろんすべての人に、自分の価値観だけで製品やブランドを選ぶ余裕があるわけではない。とはいえ、それがマーケティングの価値を向上させる努力をやめる理由にはならないはずだ。

消費者が世界中からあらゆる情報と選択肢を手に入れ、製品に2つの選択肢があるなら、自分の価値観に合う方を選ぶという近未来(すでに到来したとも言える)に、ブランドはどう備えるべきなのだろうか。

優れた広告は、少しでも良いことをしたいという人々の内なる欲求を見出して、そうした欲求を必要なものを買うという行為にうまく結びつけている。

商業的な目的が重要だという意見には完全に同意するが、私たちはもっと長期的に考える必要がある。

商業目的と社会正義が相反するわけではない。選択肢が増え続けるこの世界で成功したいのであれば、未来に備えて、ブランドやビジネスを社会的大義に合致させておくことは、実際、商業的にも理にかなったことだ。

2020年の「世界で最も信頼できる企業トップ100」を見てほしい。ランクインしたブランドがビジネスチャンスを逃しているということはない。それどころか、正しい行動と正しい言動のバランスを取ることが、信頼の獲得だけでなく、持続的な収益の確保にもつながっていることの好例になっている。

リーバイスは140年以上の歴史を持つブランドだが、今回初めてトップ10入りを果たした。同社は持続可能なファッションのムーブメントに積極的に寄り添う姿勢を示してきたことで、ブランドパーセプション(ブランド認知)をこの数年で向上させ、2020年という厳しい年にも素早く利益を回復させた。

誰かが何かを買うたびに、他の誰かが報酬を得られることになっている。したがって、人々(店員、工場労働者、配達スタッフなど)が、より持続的な方法でいかにして報酬を得られるかを検討するよう、ブランドに求めることも重要だ。業界は自らの仕事を、メインストリームを代弁するものにしなければならない。ここでいうメインストリームには、製品を購入するニーズがあるにもかかわらず、広告で自らの意見を代弁されたことが一度もない人々も含まれる。

良いマーケティングがもっと求められているのは明らかだ。もちろん、広告業界がいつも正しいとは限らない。実際、学習と成長を続けるなかでは間違うこともあるだろう。だが、リスクを取ってより良いものを作ろうとしている人々を蔑ろにすべきでない。自分たちの基準をさらに引き上げることや、試行錯誤から学ぶことを恐れてはならない。

広告で「世界を救おう」とまでは考えなくても、少なくとも世界の現実を自分たちの行動に反映させるべきだろう。世界の現実を増幅させ、それを際立たせるべきだ。誰もがこの世界で生きている。人々が世界を救う広告を求めているのに、彼らはそれに値しないなどと言えるだろうか。広告業界もそれに値しない存在なのだろうか。


ワンジュ・リー氏はスターコムのアカウントディレクターで、Campaign UKの「Faces to Watch 2020」に選出された。

提供:
Campaign; 翻訳・編集:

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