David Blecken
2016年11月17日

日本のブランドは、トランプ次期政権とどう向き合うべきか

米大統領選を契機に、米国内で台頭するナショナリズム。「アメリカ・ファースト」の風潮に、日本企業はどのように対処すればいいのだろうか。

日本のブランドは、トランプ次期政権とどう向き合うべきか

世界を激震させた、ドナルド・トランプ氏の勝利。物議を醸し続けてきたこのビジネスマンに、安倍首相はいち早く祝辞を送った。「アメリカがより一層偉大な国になることを確信している」と。両者は早速、今週ニューヨークで会談をする。

だが、多くの人々は次期大統領の手腕に懐疑的だ。米国はさておき、日本をはじめとする世界の国々にとっては、より不確実な時代の幕開けとなるだろう。トランプ氏は国内産業、特に製造業を優先する保護主義を掲げる。アベノミクスの要であり、より一層のグローバル化を目指す日本企業にとって大きな意味を持つTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)は、頓挫する公算が強い。

トランプ氏の公約と歩調を合わせ、米国では目に見えてナショナリズムのうねりが起きており、輸出入規制にかかわらず、消費者の外国ブランドに対する受け止め方が影響を受ける可能性は高い。同氏は、日本が為替操作によって不当な経済的利益を得ているとして非難を繰り返してきた。日本の自動車メーカーが米国の自動車産業を衰退させたとした、1980年代の「ジャパン・バッシング」の再来のようだ。

米国との「融和策」

米国市場に進出している日本のブランドは、こうした状況を危惧するべきなのだろうか。それは各ブランドの事業構造にも依ろう。事業規模と比較して現地雇用が多いなど、米国経済に大きな貢献をしているブランドならば、少なくとも「外的脅威」ではなく「米国企業」として受け入れられてもおかしくはない。

例えば、米国が日本に次ぐ第2の市場で、同国での事業拡大に注力する三菱重工業(MHI)。同社のグローバル・マーケティング・コミュニケーションズ・ディレクター、ダニエル・ロックマン氏は、同社が米国内30州で7,000人以上を現地雇用していることを鑑みれば、「将来は楽観的」と言う。

「ナショナリズムと向かい合うとき、ブランドはステークホルダー(利害関係者)との関係性を維持することが重要です。ブランドがどこの国のものであれ、彼らに価値を提供できるならば常にその関わりから利が得られるはず」とロックマン氏。「MHIは、米国の製造業の未来に積極的に貢献していきます」。

現在報道されているナショナリズムはこれまでも存在し、選挙によって単に表面化したに過ぎない、という見方もある。戦略PR会社「ブルーカレント・ジャパン」のCEO本田哲也氏は、トランプ氏の白人労働者層への強い訴求力と、それを他の人々が予測できなかったことは「大きな意味で消費者理解の不足だった」と言う。「米国企業のマーケターも含めて、マーケターたちがトランプ支持層を取り込みたいのならば、彼らの共感を得るための取り組みが必要になるでしょう」。そして、日本のマーケターにとっても学ぶべき点があると指摘する。「これからは米国の主要都市ばかりではなく、地方に住む人々のことも理解するよう努めるべきです」。

ニューヨークに拠点を置く「イナモト・アンド・カンパニー」の共同創業者であるレイ・イナモト氏は、「外国ブランドに対するいかなる反感も、一夜にして生まれるわけではない」と言う。「ただ、露骨な人種差別や他者を侮辱するような姿勢が社会の中で容認されるのではないかという懸念があります」。一方、45歳未満の有権者の過半数がヒラリー・クリントン氏を支持したことで、「長期的にはよりリベラルな考え方が主流になっていくでしょう」。

また、「特に自動車業界などでは米国ブランドを強調する傾向が強まるのではないか」とも指摘。「まだコメントするのは時期尚早」としつつも、「次回のスーパーボウルでは広告にナショナリズムが色濃く反映され、外国ブランドは予算を削減することが十分あり得ます」。

「目的」の明確化

イナモト氏は、「米国以外のブランドは社会の大きな流れを読む必要があり、反射的にアプローチを変えるのは得策ではない」と言う。今回のトランプ、クリントン両陣営の選挙活動は、ブランドにとっても学ぶべき点があったと指摘する。クリントン氏の広告重視の姿勢よりも、トランプ氏のメッセージの明快さの方がより浸透力があったことだ。

「どのような企業も明確な目的と視点を持つべきで、それが世界中の利益になるならば、長期的視野で取り組むべきでしょう」と同氏。「ブランドとは、ブランドに携わる人々そのものです。ブランドの個性も、その時々の風潮に左右される必要はありません」。

年明けにトランプ氏が大統領に就任してからも、不透明な状況は続くだろう。電通イージス・ネットワークCEOのジェリー・ブルマン氏は、金融市場の不安定化を懸念する一方、米国でも世界市場においても同社の広告支出への影響はないと見ている。また、同社アジア・パシフィックCEOのニック・ウォータース氏は、関税はアジア各国にとってリスク要因になるとしつつも、ビジネス重視の共和党が上下両院で多数派を占めているので、バランスのとれた政策を推進するだろうと楽観する。

何はともあれ、最も重要な点は、世界最大の影響力を誇る国家の舵取りが異端児の手に渡ったという現実を受け入れ、それとうまく付き合っていくことだ。株式市場が急速に回復に転じたことから、イナモト氏は米国が比較的早く通常の状態に戻るのでは、と見る。さらに今回の選挙結果は、テクノロジーがいかに迅速かつ広範に情報を伝えるかということ、同時に「人々の視点も歪めてしまうこと」も示したと言う。これらを考慮すれば、この先何が起きようと、ブランドの長期的戦略に同氏のメッセージは大いに参考となっていくだろう。

(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳:鎌田文子 編集:水野龍哉)

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Campaign Japan

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