Robert Heldt
2018年2月16日

日本企業に欠かせない、世界基準のコミュニケーション

「未来」「イノベーション」「夢」、更には「変革の推進」「社会の改革」……日本の名だたる企業の謳い文句には、こうした大胆な言葉が並ぶ。だが実際これらの企業は、世界レベルのコミュニケーションを実行しているのだろうか。

日本企業に欠かせない、世界基準のコミュニケーション

日本政府観光局(JNTO)によると、2017年の訪日客は過去最高となる2870万人に達した。ビジネス界では日本企業を含めたM&A(合併・買収)が前年比15%増の3050件となり、これまで最高だった2006年の2775件を上回った。

2019年のラグビーW杯と2020年の東京五輪・パラリンピック大会はもうすぐだ。世界の注目がより日本に集まることで、これらの数字は更に増えていくだろう。しかし日本企業は自社のストーリーやブランド、製品、サービス、文化、ホスピタリティー、そしてビジョンなどを世界のオーディエンスにアピールすることに関し、依然世界的なレベルに達していない。

「要旨」の欠如

バイリンガルのコンテンツを生み出すコミュニケーション企業である我々は、主要企業や政府機関から英語でのメッセージ作成をしばしば依頼される。ビジネスの成長、訪日客や投資関係者をターゲットとしたマーケティングツール、そして世界戦略を見据えたM&Aのためのコミュニケーションツールなどを通し、彼らの取り組みをサポートするのだ。

その際に驚かされるのは −− 彼らが作るコンテンツの英語の文章のクオリティーは別にして −− プレゼンテーションにおける「プロ意識」が全体的に欠如していることだ。

意味のない記号や引き出し線ばかりの見にくいレイアウト、矢印のための矢印、書体の選択のまずさ、言葉があふれたプレゼン用のスライド……こうした要素は、日本をよく知る人々に馴染みある質の高いクオリティーやサービスをアピールすることにはならない。

オーディエンスの獲得

顧客が結論を出すのに必要な情報は全て提供しようと、日本企業はプレゼンテーションからマーケティング素材、過剰すぎるデータまで全てを揃えようとする。その意図は正しくとも、情報のまとまりがなければ目標を達成することは困難だし、相手を混乱させるだけだ。

ターゲットが日本人ならば −− 往々にして彼らはそう仮定するのだが −− このアプローチは機能するかもしれないが、改善の余地はまだまだあると我々は考える。

欧米のオーディエンスは、必要最小限のアプローチを好む。素材に全てのディテールを詰め込むのではなく、受け手をその気にさせる要旨を選ぶことが肝心なのだ。これはブローシャーや印刷広告、ウェブなど、マーケティングの一部となるあらゆる販促素材に関して言える。

プレゼンテーション作成では、鍵となる要素をスライドで見せる視覚的なアプローチが最も効果的だ。その上で重要になるのは、スライドを活用しつつ魅力的なストーリーを伝える語り手の役割だろう。

それぞれのスライドに盛り込む内容に関しては、バランスの良さが肝要となる。情報が過多ならばオーディエンスが混乱し、集中できない。逆に情報が少なすぎれば準備不足を感じさせ、説得力あるメッセージを発信することはできない。

最終的な目標は、オーディエンスがストーリーを聞きながら楽しみ、納得するような情報を与えることだ。こうしたやり方をすれば、彼らに次のアクションを起こさせることができるだろう。

日本の顧客ならば細かいアプローチを受けいれるかもしれないが、必要最小限のアプローチはより効果的にオーディエンスにリーチでき、他の競合相手との差別化も可能となる。

ステップアップ

クライアントとの仕事を通じ、我々は彼らの変革を心から願っている。世界基準のコミュニケーションを取り入れて大きく変わる企業はいくつかあるが、その多くは古いやり方に固執したままだ。若手のリーダーたちは諸手を挙げて改革の必要性に同意するが、官僚的な仕組みや抵抗勢力にしばしば阻まれてしまう。そして極めて残念なのは、こうした企業の多くが世界にインパクトを与える絶好の機会となる、ラグビーW杯や五輪の主要スポンサーであることだ。

このような状況が続けば、日本の海外でのプロモーションに深刻な弊害を及ぼすことを危惧せざるを得ない。世界の注目がこの国に集まっている今こそ、正しいアクションを起こすべき時なのだ。

(ロバート・ヘルト 翻訳・編集:水野龍哉)

ロバート・ヘルト氏は、東京を拠点にバイリンガルのコンテンツ制作を行うコミュニケーションエージェンシー「カスタムメディア」の代表取締役及び共同設立者。

提供:
Campaign Japan

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