Rahul Sachitanand
2021年5月13日

D2Cの活況は、パンデミック後も続くのか

大小さまざまなブランドが消費者に直接リーチする機会を狙っているが、その一方で、パンデミックがもたらしたこの消費行動の変化が、彼らの大幅なフォーカスの変更を正当化し続けてくれることを願っている。

D2Cの活況は、パンデミック後も続くのか

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックのさなか、D2C(direct to consumer)ブランドが活況を呈したのは、外出することを制限された消費者が、オンラインで購入できるブランドに押し寄せたからだ。しかしワクチン接種が進み、消費者が永遠のように思われた外出制限から解放された時、好調のD2Cブランドはその成長を維持し続けられるだろうか?

あらゆるブランドにとって、 D2Cは、事業戦略のひとつとして主流になった。この間、消費者に直接リーチする機会に飛びついた企業は、ナイキ、アディダス(2025年までにD2Cが売上の半分を占める見込み)、P&G(プロクター&ギャンブル)、ユニリーバといった大手だけにとどまらない。その他多数のベンチャー企業もD2Cをマーケティング戦略の中心に据えた。欧米ではD2Cのトレンドを作り出したオールバーズ(Allbirds)やダラー・シェイブ・クラブ(Dollar Shave Club)、アジアではラブ・ボニート(Love Bonito)、ポメロ・ファッション(Pomelo Fashion)、オックスホワイト(OXWHITE)などが挙げられる。

D2Cブランドはパンデミックのあいだ、自宅待機を余儀なくされた消費者をターゲットに利益を伸ばしてきたが、プライバシー規制の変化、とりわけサードパーティCookieの廃止によって、D2Cへの転換という戦略の寿命はさらに延びる可能性がある。リプライズ・デジタルのeコマース担当ディレクター、リティカ・グプタ氏によると、世界がCookieのない未来に向かいつつあるなか、あらゆる規模のブランドがファーストパーティデータの重要性を認識し、その収集を優先するようになるという。グプタ氏はさらに、「(その結果)ブランドは自社の顧客データプラットフォーム(CDP)に大きく依存するようになるだろう」と付け加えた。

自らの運命を支配するブランド

エッセンスのシニアバイスプレジデントでAPACのメディア部門を率いるリー・ウォルシュ氏も同意見で、「強力なD2C戦略によって、ブランドは自らの運命をコントロールできるようになる」と話す。「今回のパンデミックは、実店舗に全面的に依存することへの危険性を浮き彫りにした。だが、Eコマースマーケットプレイスでは、多くのブランドが他社のオリジナルブランドや模倣ブランドとの競争に直面しており、商品リストの上位に表示されるためのマーケティングコストも増加している状況だ」

電通シンガポール支社メディアグループのクライアント担当ディレクター兼コマース責任者、ギョーム・レゴンド氏は、インスタグラムショッピングをはじめとしたソーシャルプラットフォームの台頭が、D2Cの持続性に貢献してきたと考えている。特に家電業界などのクライアントは、それによって、このモデルにスムーズに移行できたという。

専門家らは、ネスレの「ネスプレッソ」ブランドの成長は、D2C市場の力強さを示すものだと指摘する。「ネスプレッソは、使いやすいカフェポッドで顧客を囲い込み、サブスクリプションベースの購入プラットフォームを提供することで、カスタマージャーニーを完全にコントロールしたブランドの先駆けだ」と、エッセンスのウォルシュ氏も評価している。ネスレは直近の四半期で10年ぶりに最高益を更新したが、なかでもネスプレッソブランドは売上高が17%増加し、米国、EMENA(ヨーロッパ、中東、北アフリカ)、AOA(アジア、オセアニア、サハラ以南のアフリカ)のすべての地域で2桁の成長を記録した。

消費者習慣の変化による恩恵を受けているのは、ネスレのような大手ブランドだけではない。マレーシアでは、ライフスタイルラグジュアリーブランドのオックスホワイトが、中間業者(一般的には代理店、販売店、二次販売店、小売店、二次小売店、卸売業者など)のコストを排除し、消費者に直接リーチするために、ショッピー(Shopee)やラザダ(Lazada)といったサードパーティプラットフォームや自社のECサイトを活用した。その結果、オックスホワイトは1年間で140%の成長を遂げた。

取り組みは慎重に

こうした楽観的な見通しの一方で、これからD2Cに参入しようとするブランドは、潜在顧客を実顧客に変えるための多額のコンバージョンコストに留意する必要があると、オックスホワイトの事業部門を率いるレイチェル・タン氏は釘を刺す。

「D2Cブランドの顧客獲得戦略は、主にフェイスブックとグーグルのエコシステム(フェイスブック、インスタグラム、グーグル検索、ユーチューブ)の有料マーケティングツールに依存しているため、顧客獲得コストが予想以上に膨らむ可能性がある」とタン氏は指摘する。「これらのプラットフォームから課金されるクリック単価が上昇すると、そうしたマーケティングツールに過度に依存する手法は持続できなくなる可能性がある」

フェイスブックを例に挙げると、2018年の平均クリック単価(CPC)は0.31ドルだった。しかし、2019年にフェイスブックの広告ツールを利用する企業が増えると、CPCは0.45ドルにまで上昇した。もっとも、2020年は企業が広告費を削減したことで状況が変わり、0.39ドルにまで下落している。一方、ランディングページの平均的なコンバージョン率は2.35%なので、タン氏の試算によると、オンラインでの購入1件につき約43回のクリックが必要になる。したがって、CPCが0.39ドルだとしても、顧客1人あたりの獲得コスト(CAC)は約16.7ドルという計算になる。さらに購買の決断を後押しするための値引原資やユーザー特典のコストを加えると、CACは19.42ドルにまで跳ね上がってしまうという。

戦略は長期を見据えて

エッセンスのウォルシュ氏によると、消費者に直接リーチできる機会に飛びつくブランドが犯しがちな間違いは、「もともとコンバージョンや商品購入の可能性が高い人々をターゲットとしたマーケティングキャンペーンを実施し、ファネル最下部でのパフォーマンス戦略だけに注力してしまうこと」だという。

関連キーワードを購入して見込み客にリマーケティングを行えば、高いROI(投資利益率)を実現できる可能性は高いが、そうした見込み客は、有償のマーケティングを行わなくても購入してくれた顧客かもしれない。「そうしたやり方は、短期的にはうまくいっても、持続可能なビジネスモデルにはなることはまずない」とウォルシュ氏は指摘する。

電通のレゴンド氏も、パンデミック後も持続可能なD2Cビジネスモデルを確立するには、「大規模ブランドよりも消費者との親和性が高く、機敏で、消費者から信頼される」ビジネスを構築する必要があると説く。「インスタグラムショッピングをはじめとするソーシャルプラットフォームの台頭も、消費者のエンゲージメントが高く、より身近なローカルブランドを後押ししている。当社はD2Cへの移行に関して、さまざまな取り組みと成功例を見てきた。大手ブランドの中には、ブランド想起率を高め、多数のプラットフォーム上で製品を提供するのが得意なところもあれば、提供する商品や体験にフォーカスすることで成功しているところもある」

とはいえ、流れに取り残されていると感じているブランドにもまだ打ち手はある。ユニリーバがダラー・シェイブ・クラブやグレイズ(Graze)を買収したように、スタートアップを買収することで、専門知識と新しいポジショニングを一気に獲得するという方法だ。今ではD2C売上が売上高の3分の1を占めるというナイキも、分析ベンチャーのセレクト(Celect)を買収している。ただし、すべての買収がスムーズに運ぶとは限らない。例えば、P&Gは女性向けカミソリを手がけるスタートアップのビリー(Billie)を買収しようとしたが、米国の市場監督当局である連邦取引委員会(FTC)から中止を求める法的措置を受けてこの買収を断念した。

リプライズのグプタ氏によると、大手消費財ブランドは伝統的に、極めて複雑な商品構成を持ち、データセットも少なく、学習する時間曲線も急激なカーブを描く傾向を持つという。

だが、そうしたブランドにとって幸いなことに、D2Cはまだ支配的なチャネルではない。「消費者がオンラインチャネルを利用する割合は昔と比べてはるかに高くなったが、依然として多くの人が実店舗やマーケットで購入している」とグプタ氏は指摘する。

そのおかげでまだブランド各社には、オーガニック成長、または買収等を通じて、D2Cでのプレゼンスを高める時間的余裕はある。グプタ氏によると、「既存ブランドの中には、特定のローカル市場におけるM&A戦略に軸足を移しているところもある」という。「資生堂がドランク・エレファント(Drunk Elephant)を、ユニリーバがタチャ(Tatcha)を買収したのは、そこからD2Cブランドの世界に踏み出すことが主な目的だ」

急成長するD2C市場でシェアを競うこれらの企業は、自社のマーケティング方針の転換を確固としたものとするため、消費習慣の変化がパンデミックによる一時的なものではなく、より永続的なものである方に賭けているのだといえるだろう。


ユニリーバはダラー・シェイブ・クラブの買収によりD2C市場に早期参入した。

提供:
Campaign; 翻訳・編集:

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