David Blecken
2018年5月24日

ofo、日本のブランド戦略

日本の慎重な消費者へのアプローチ、ライバル社との差別化 −− 中国自転車シェアリング大手ofo(オフォ)のマーケティングディレクターと日本統括責任者が、その構想を語った。

橋本未来彦(左)、日吉良昭の両氏
橋本未来彦(左)、日吉良昭の両氏

中国や東南アジアではすっかり定着している感がある自転車シェアリングだが、日本ではまだ比較的新しいビジネスだ。今のうちにブランドを確立しようと、ofoも様々な取り組みを行っている。

同社は和歌山市と北九州市、大津市でサービスを開始。マーケティングディレクターのポストも新設し、自転車シェアリングのコンセプトとブランドを幅広く理解してもらおうと努める。

マーケティングディレクターに就任した橋本氏は、ビーコンコミュニケーションズ(現在はピュブリシスワンの傘下)で4年間勤務した後、ofoに参画。ビーコンでは主にフィリップ・モリスを担当した。だが世界第2位のタバコ会社の売上アップに貢献することに、健康的生活を(少なくともある程度は)提唱するサービス企業の一員として戸惑いを感じていたという。それでもまったく新しい加熱式タバコ「IQOS(アイコス)」を市場に導入したことは、「楽しい経験でした」。「日本にofoを展開することで、同じような喜びを体験できればと思っています」。

同氏曰く、広告代理店とブランドの仕事上の最大の違いは「責任の大きさ」。「確かに代理店も戦略を考えますが、その目的は基本的にクライアントから次のブリーフをもらうこと。クライアントは業績そのものに責任を取らねばなりません。我が社はユーザーから直接フィードバックを受けます。私が代理店にいたときにはなかったフィルターです」。

ofoは現在広告を展開していないが、PRでエデルマンと協働する。橋本氏によれば、喫緊の課題は「現行のコミュニケーションを日本のオーディエンスに響きやすいものにすること」。「日本では中国ブランドに対する抵抗感があります。ですから、よりソフトで身近な印象を与えるやり方を考案せねばなりません」。

その1つが、ofoを「グローバルブランド」として打ち出すことだ。実際、同社は既に22カ国で展開、様々なレベルの成功を遂げている。「日本の年配の方々はブランドの出自を気にかける傾向がありますが、若い消費者はサービスそのものに着目するのではないでしょうか」。

「ofoがブランドとして目指すものは何か」と問うと、同氏はしばらく考えてから、「人とコミュニティーをつなぐこと」と答えた。つまり、様々な場所へのアクセスを容易にし、利用者に「秘宝」を発見、ないしは再発見してもらうことだ。このコンセプトはAirbnb(エアビーアンドビー)と共通する部分があり、主要都市ではなく地方都市に照準を定めている点がそれを裏付ける。

昨年、多くの観測筋はCampaignに対し、「アジア太平洋地域の自転車シェアリングブランドは差別化ができていない」と語った。これに対し、OFOジャパンで日本市場を統括する日吉良昭氏は、「我々は『赤い自転車』(ドコモ・バイクシェアを指す)とは違います。彼らは地方自治体から資金援助を受けていますから。だからこそ我が社の方が、質の良いサービスを提供しようというインセンティブが強い」と語る。例えばドコモの契約手続きはやや面倒なのに比べ、ofoのアプリは使いやすい。これは訪日観光客を取り込む上で大きなセールスポイントで、「我が社にとっては極めて重要な問題です」(日吉氏)。

だがユーザーの視点からすると、やはりどのサービスも似通って見える。フリーマーケットアプリを展開するメルカリも、「メルチャリ」という自転車シェアリングを始めた。こうした他ブランドとの差別化が「最大の課題の1つであることは事実」と橋本氏。今の段階でやるべきことはブランディングそのものではなく、「我が社のサービスの利点を消費者に知ってもらうこと」。自転車シェアリングは通常のレンタルサービスよりも融通が利くが、「多くの人々は両者を同じものと認識しています」。例えばシェアリングなら1時間だけ利用することも、自宅に乗って帰り次の日に返却することも可能だ。

ofoがメインのターゲットに据えるのは、スマートフォンの扱いに長けた20〜40歳の層。日本人は新たなテクノロジーに対して抵抗感がないが、「新しいサービスに関しては慎重になる傾向がある」(橋本氏)。「アイコスのときもそうで、たとえ興味を持ったとしてもサービスの内容を完全に把握するまでは利用しないのです」。

ofoはコミュニケーションに、イベントやチラシといったローテクな手法を用いる。日本では自転車シェアリングブランドにポート(拠点=自転車の貸し出しと返却ができる所)の設置を義務づけており(他国ではこうした規制はない)、これには長所と短所がある。長所は、他国で混乱を引き起こし(そして悪評を高め)たような放置自転車の問題が起きないこと。そして、ポートはブランディングツールとしての役割も果たす。短所はコストがかかることと、使い慣れていないユーザーへの説明が必要な点だ。「ポートは単に自転車のピックアップと返却ができる場所であることを理解してほしい」(橋本氏)。ユーザーが望めば、自分のオフィスで自転車を引き取ってもらうことも可能だ。

ofoが追い風になると考えているのは、ローカルコミュニティーとの協働。公共交通のない場所のアクセスを良くしたり、交通渋滞や違法駐車を減らしていくことを意味する。香港では(様々な意味で決して自転車に良い環境とは言えないが)、利用者に郊外の目的地へのルートを教えるキャンペーンを行っている。更に日本では、学生が大学を卒業する際に自転車をキャンパスに放置していくという問題がある。日吉氏は、この解決もビジネスチャンスと見ている(日本の厳正な登録制度で、大学当局はこれらの自転車を処分できない)。

日本では多くのブランドが、大衆に認知される近道として宣伝にセレブリティを起用するが、橋本氏はこうした手法は考えていない。「そういうやり方をしても、消費者は単なるペイドプロモーションとしか思わないでしょう」。より重きを置くのは、実際に利用したユーザーによる口コミだ。シェアリングエコノミーが根づいている国々は多いが、日本ではまだ始まったばかり。そういう環境では「口コミは有効な手段」と日吉氏も考える。

他の市場では、シェアリングによるモビリティサービスを強化するためにofoはブロックチェーン技術の実験を行っている。今月はじめには北京に研究所を開設。まだ500台ほどの自転車しかない日本ではその機は熟していないが、特に焦ってはいないようだ。実際に観測筋は、急激な膨張で自転車の過剰供給という問題を引き起こした中国の業界の将来を疑問視している。

「急いでビジネスを拡大して混乱を生み出すよりも、それぞれの都市にとって何がベストかを把握し、それを実現させるのが我々のやり方」と日吉氏。そのプロセスの核となるのがユーザーからのフィードバックやデータ、そして柔軟性だ。他の市場では自転車シェアリングに対しネガティブな報道がされてきたが、橋本氏はあまり気にかけてはいない。「ユーザーが多ければ多いほど、様々な問題が起きるのは仕方のないことでしょう」。

「人々は常にマイナス面に興味を抱くので、すぐにそれは流布してしまいます。しかしトライをし、失敗をして常に改善させていくのが我々のスタイルです」と同氏。「もちろん、メディアは改善点を報道しません。だからこそ我々は、サービスが向上し、ローカライズに適応していることを消費者にアピールしていかねばならないのです」。

(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳・編集:水野龍哉)

提供:
Campaign Japan

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