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2018年11月09日

世界マーケティング短信:新たなるメディアバイイング

今週も世界のマーケティング界から、注目のニュースをまとめてお送りする。

スプリントのロブ・ロイ氏
スプリントのロブ・ロイ氏

スプリント、メディアバイイングで1億5千万ドルの経費節減

昨年9月よりペイドサーチ型広告を導入したソフトバンク傘下の米携帯会社スプリント。そのほとんどはプログラマティック広告で、インハウスでもソーシャルメディアを活用する。今週、チーフ・デジタル・オフィサーのロブ・ロイ氏は株主に対し、「システム変更以来マーケティング支出がより効率的となり、1億5千万米ドル(約165億円)の経費節減を達成した」と語った(同社は2017年会計年度で広告に13億ドルを支出)。ロイ氏はCampaignのインタビューで、「売上から収支予測まで、インハウスへの移行は正直に言って我々の期待をはるかに上回るものだった。数字にすればふた桁の改善」とも話している。

ニュースの視点:
インハウスでのメディアバイイングはまだ草創期だ。言うまでもなく、その成否は有能な人材を集められるかどうかにかかっている。インハウスの利点は経費節減だけではない。ロイ氏は「我々のインサイトをより反映させたいと思ったのがきっかけ」と話す。広告主がどれだけデータに価値を置くかを考えれば、広告代理店にデータを渡すのではなく、データへのフルアクセスを可能にする方が明らかに理にかなっているだろう。

トヨタ、広告詐欺対策にブロックチェーンを活用

自動車メーカーに代わってプログラマティックメディアバイイングを担うサードパーティ。その多くが、「今後ますますブロックチェーンを利用するようになるだろう」と米メディアDigiday(デジデイ)が伝えた。こうした動きは既に現在進行形で、更に広がりつつある。トヨタ自動車は昨年はじめて、自動運転技術向上のため試験的にブロックチェーンを導入。最近では無駄な支出や広告詐欺のリスクを減らすため、デジタル広告への適用も始めた。

ニュースの視点:
理論上、ブロックチェーンは一貫性のない取引の特定を容易にする。まだ初期段階の技術だが、メディアバイイングでの透明性と効率性を向上させる鍵になるという見方が有力だ。主要広告主にとっては極めて近い将来、デジタルメディア監査やマーケティングの一般的なトゥールとなる可能性が高い。広告代理店のビジネスにとっても大きな示唆に富む。

アドテックのイノベーションは鈍化

調査会社フォレスター(Forrester)は、アドテクノロジーのスタートアップのベンチャーキャピタルからの資金調達は来年最大で75%減少するという予測を出した。この分野が飽和状態になっていることを示唆している。

ニュースの視点:
アドテクノロジーの供給者もサービスも過剰になり、マーケティングエコシステムは既に過度に複雑化した。マーケターはしばしば「次の大きな技術革新に対応せねば」というプレッシャーにさらされ、その前段階の技術を十分理解するチャンスもない。イノベーションの減速で、関係者はむしろひと息つけるだろう。何が最も大切か、もう一度見つめ直す良い機会となるはずだ。

WPP、来年まで雇用を中止

ブルームバーグによると、13万4千人の社員を抱えるWPPは傘下各社のトップに2019年まで雇用を一時停止するよう指示を出したという。同社は新たな人材を2千人近く雇う予定だったとされる。

ニュースの視点:
WPPは荒波の中、航海を続ける。同社の価値は18カ月の間に半減、310億ドルから150億ドルとなった。マーク・リード新CEOは組織の簡素化が必要と訴え、傘下の複数のエージェンシーの統合が予想される。来年明らかになるWPPの構造は、今とはだいぶ異なるものになろう。新たな役員の任命の前には、レイオフが行われる可能性もある。

アンダーアーマーの性差別文化、ブランドポジショニングを揺るがす

スポーツウェア・ブランドのアンダーアーマーが、社員に対し会社の経費でストリップクラブに行くことを禁止する通達を出した。米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が伝えた。この通達は、2月に同社の経理責任者から電子メールで全社員に送付されたもの。社員や社と関係の深いアスリートがストリップクラブに行くことは長年の慣行だったという。更に、女性を蔑視する同社の企業風土に関する前社員のコメントも紹介されている。

ニュースの視点:
WSJの記事で紹介されたアンダーアーマーの企業風土は、近年の同社のブランディングと明らかに矛盾する。例えば2014年、同社は女性の社会的地位向上をテーマに据えたキャンペーンを展開して大きな注目を集めた。「#Me Too」運動が広がり、倫理観に対する大衆の意識が高まった今、企業が広告と相容れない行動をとることはますます困難になっている。

ofo、日本での事業を停止

中国の自転車シェア企業ofoが日本での事業を完全に停止したようだ。日本市場でのスタートはわずか半年前で、8月にはマーケティングとPRの責任者が離職したばかり。主要都市ではなく地方都市に照準を定めたサービスの提供を公言していたが、業績を伸ばせなかった。同社は日本だけで課題を抱えるわけではない。自転車シェアが急速に浸透した中国では無数の自転車が放置(その多くは壊れているもの)。悪名高い「シェア自転車の墓場」が至る所に出現し、業界は逆風にさらされている。

ニュースの視点:
昨年末、Campaignはマーケティング的視点から自転車シェアビジネスがエキサイティングだと述べた。サービスプロバイダーが増えて競争は激化、ブランドの差別化も見られなかったからだ。この業界にまだメリットはある。だが、その「熱気」は過ぎ去ったと言えよう。既に多くのブランドが林立、基本的に同じサービスを提供する構図は変わらず、1社のサービスを利用すれば他社に乗り換える理由はほとんどない。特にofoは日本市場への参入が遅かった。「海外ブランド」ではなく、「中国ブランド」という立場も事業をより難しいものにした要因だろう。

(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳・編集:水野龍哉)

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