ジャーナリズムの最後の砦は、団結なのかもしれない

コンテンツの有料化では、AIによるスクレイピングからジャーナリズムを救うことはできない。パブリッシャー同士で競い合うことをやめ、AIプラットフォームが無視できないような共同ライセンスや、ターゲティング能力の強化に着手すべきだと、マーティン・バーティルソン氏は主張する。

ジャーナリズムの最後の砦は、団結なのかもしれない

* 自動翻訳した記事に、編集を加えています。

メディア業界は、AI プラットフォームが彼らのコンテンツをスクレイピング(自動的に収集・抽出)する見返りとして、パブリッシャーにトラフィックを送らないのではないかと非常に懸念している。

欧州では独立系パブリッシャーがグーグルの機能「AI Overview(AIによる概要)」に対し、トラフィックを返送しないことは反トラスト法(独占禁止法)に違反しているとして提訴した。AP通信やスカイニュース(Sky News )など大手パブリッシャーは、こぞってクラウドフレア(Cloudflare)のスクレイピング対策技術を支援。この技術は、AI プラットフォームがパブリッシャーのサイトを使ってモデルをトレーニングしたり、最新記事を公開と同時に取得したりすることを禁止するものだ。

こうした共通認識が表れたのは喜ばしいことだが、米国建国の父の一人であり、新聞の発行もしていたベンジャミン・フランクリンのこの言葉が心に浮かぶ。「我々は皆、団結しなければならない。さもないと、皆が別々に吊るされることになるだろう」。

1776年の独立宣言調印の場でフランクリンは、植民地が独立の可能性を少しでも得るためには団結し、一つの国家として行動しなければ、独立戦争で英国に敗北することは避けられないという見解を述べたのだった。

フランクリンのこの言葉は、現代のニュース配信においてますます重要性が増していると私は考えている。ウェブはかつて読者や視聴者に報道や一般情報、広告といった収益性の高いコンテンツを提供するウォールドガーデン(小さな壁で囲まれた庭)だったが、それがさらに細分化していった。

その結果、現代のウェブはジャーナリズムを破壊し、私たちの社会における真実や、事実についての共通認識という概念そのものも打ち壊した。事態は悪化の一途をたどり、ますますそれが加速しようとしている。

出版業界は存亡の危機に直面している

これまでパブリッシャーはクリックベイト(釣り記事)型のコンテンツを制作し、それでトラフィックを集めることで、検索エンジンやソーシャルメディアで収益化できていた。しかし、メディアの収益化が容易だった時代は終わった。

大規模言語モデル(LLM)の影響により、パブリッシャーがウェブのトラフィックの大部分を失う「ゼロクリック時代」に突入。オープンウェブのトラフィックの約60~70%は、主にグーグルなどのブルーリンク(検索結果を示す青いリンク)から来ている。このトラフィックを失えば、多くのパブリッシャーは存続が困難になるだろう。

クラウドフレアは、AI/LLMプラットフォームがパブリッシャーにトラフィックを送らない問題の解決に取り組んでいる。AI がコンテンツを勝手にスクレイピングして回答に組み込むことができないよう、コンテンツを保護するという計画で、AI プラットフォームは使用するコンテンツに対して料金を支払うことに同意しなければならない。AP 通信、アトランティック(The Atlantic)、バズフィード(Buzzfeed)、コンデナスト(Conde Nast)、DMGT、ドットダッシュ・メレディス(Dotdash Meredith)、フォーチュン(Fortune)、ガネット(Gannett)、インディペンデント(The Independent)、スカイニュース、タイム(Time)、ジフ・デイビス(Ziff Davis)など大手パブリッシャーがクラウドフレアを支持している。

しかし、スクレイピングをブロックするだけでは、トラフィックが減少するという問題は解決しない。また、有意義なライセンス契約を締結できるほどの影響力を持つパブリッシャーはごくわずかだ。そして何よりも、公開されているコンテンツは既にスクレイピングされているということを忘れてはならない。

AI/LLM ユーザーが有料でも利用したいと思うほどの、興味深い報道を行っているパブリッシャーはごくわずかだ。そして、そのようなパブリッシャーにはクロール(サイトを巡回し情報を収集すること)に対して報酬が支払われる。これは、独自の報道をすることで得られる収益と比べれば、わずかな金額に過ぎない。

その答えはフランクリンの言葉の中にあるのかもしれない

私は長年にわたって、複数の国のパブリッシャー、テキストメディア、テレビと協力し、ウェブアグリゲーターやウォールドガーデンに対抗するさまざまな試みに関わってきた。インベントリやデータ、測定結果をプールし、不可欠な存在となることを目指してきた。

しかし、いずれも実現には至らず、終わりのない些細な争いや対立、複雑な状況が舞台裏で続いた。パブリッシャーは今、 AI/LLM の世界において存在感を発揮しなければならない時期に差し掛かっている。パブリッシャーは、個別にスクレイピングやクロールをされて奴隷のように扱われるのか、あるいは団結して立ち向かうのか。

パブリッシャーはそれぞれの国や市場、あるいは業種ごとに連携するべきだと私は考えている。もしも一国の全てのニュースパブリッシャーが団結すれば、ユーザーにサービスを提供したいAI/LLMプラットフォームにとって、それは必須のライセンスとなるだろう。

パブリッシャーは価値あるコンテンツを提供するため連携し、ターゲティングと測定の能力を強化すべきだ。法域によっては、このような取り組みは業界団体や第三者のコンソーシアムなどが主導することになるだろう。皮肉なことに、この分野の競争法は連携を困難にし、多様性を阻害するように作られているものだ。しかし、重要な競争市場で競い合うのは、もはや地元の大手パブリッシャー同士ではない。地元パブリッシャーと、大手テクノロジープラットフォームの競争なのだ。

ユーザーが望むすべての情報がそこにあり、必要なデータソースとなる魅力的な場所を作り上げるため、パブリッシャーは自分たちの独立戦争を戦わなければならない。

ウォールドガーデンの中では、メディア収益を増加させることができる。そしてAIの時代において唯一価値のあるもの、つまり新鮮な独自情報への投資が可能となる。そこにこそ、好循環が生まれる可能性があるのだ。


マーティン・バーティルソン氏はシンガポールを拠点とするテクノロジー起業家であり、元 Google のアドテクノロジーディレクター。現在は マルチポールAI(Multipole.AI )を率いて、AI とメディアの交わる分野のベンチャー企業を立ち上げている。

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