David Blecken
2018年11月21日

Q&A:Shopify、日本での教訓

世界最大級のeコマースプラットフォーム、Shopify(ショッピファイ)。非英語圏市場の中から最初に日本を選んだ理由、商品・マーケティングのローカライズ戦略、日本のユーザーからの学びなどをカントリーマネージャーが語る。

マーク・ワング氏。大手町のウィーワークにて。
マーク・ワング氏。大手町のウィーワークにて。

カナダ発のショッピファイが、初の非英語圏市場となる日本に進出したのは今年初めのことだ。販売チャネルにはインスタグラムのストーリーズを活用し、マーチャントには拡張現実(AR)を提供。主としてストリートファッションの顧客体験を強化する「Frenzy(フレンジー)」というアプリも導入した。このアプリを最初に利用したブランドが、若者から絶大な支持を受けるBape(ベイプ)だった。

会員からの利用料を主な収入源とするショッピファイ。日本では東京・大手町にあるWeWork(ウィーワーク、起業家向けワークスペース)内の手狭なオフィスで、10人のスタッフが仕事に勤しむ。認知度はまだ低く、カントリーマネージャーのマーク・ワング氏は「音楽ストリーミングサービスのスポティファイとは無縁なことを何度も説明しなければなりません」とこぼす。大抵の場合、日本で新しいサービスが受け入れられ、軌道に乗るまでにはある程度の時間を要する。それは覚悟の上で、「市場規模の大きさとショッピファイにとって潜在性のある社会的環境が大きな魅力」と話す。

日本でのあなたの役割は、他国とどう違いますか?

日本はとても秩序立った国です。我々の目標は、商取引を誰にとってもより良いものにすること。日本でそれを実現するためには、商品や販売・購入体験のローカライズ、マーチャントのサポートの仕方など、我々が努力せねばならないことがたくさんあります。面白いのは、日本向けのローカライズが(他地域の)ショッピファイに良い結果をもたらしたことです。日本のマーケットは要求されるレベルが高く、難しいですから。一例が、郵便番号のオートコンプリート(自動補完)機能です。日本に進出するまで我々にはこのチェックシステムはありませんでした。今では世界中で応用しています。

使用言語をローカライズしたのは日本だけですが、それはなぜでしょう?

日本がeコマースにおいて最も魅力ある国の1つだからです。中国・米国に次ぐ世界第3位の巨大市場で、その規模は約1200億米ドル(約13兆2000億円)。過去に米国市場などで起きた現象が今この国で起きていることも理由の1つです。日本はネット通販でかなり成熟した市場で、少数の事業者によって寡占状態になっています。アマゾン、楽天、ヤフーショッピング、ゾゾタウンの4社で約55%を占めている。しかし残りの45%はまだ可能性があり、十分に魅力ある市場なのです。

日本市場に参入して驚いたことは何ですか?

驚いたのは、オンラインでロゴを作成するHatchful(ハッチフル)というツールが日本で大変人気があることです。テーマに合ったキャッチワードや社名を入力すると、ロゴを作ってくれる。どういうわけか他国に比べて、このツールは日本のオーディエンスに圧倒的に受けていますね。

日本市場で何を変えたいですか?

JETRO(日本貿易振興会)によれば、日本の小売業者でネット通販をしているのはわずか24%に過ぎません。今の時代に、驚くべき低さです。ですから我々の目標の1つは、時間や知識、コストといったバリアを取り除くこと。更に驚いたのは、ネット通販をしている業者の中で海外でも展開する業者はその半分以下なのです。海外には日本製品の熱烈なファンがいることを知らない人はいません。アニメから電化製品、ビデオゲーム、ファッションに至るまで、日本製品に対する大きな敬意と需要があるのです。日本のマーチャントがこのチャンスを利用しないのは、大変残念なことです。我々がこの状況を変えられれば、大きな成功につながるでしょう。

日本の消費者はどう違いますか?

日本の消費者が要求するレベルは極めて高いので、サイトのチェックアウト体験は慎重に設定する必要があります。コンバージョンに関しては、初期段階で特に変わった点はありません。日本のサイトは情報量などで他国のサイトと異なるという話をよく聞きますが、eコマースに関してはそうではないようです。eコマースはよりユーザーフレンドリーにシフトしており、チェックアウトまでに何ページもスクロールする必要はなくなっています。異なるのは最後のプロセスです。米国やその他多くの国々では支払方法はクレジットカードだけですが、日本では消費者へのカスタマイズ化がますます重要になっている。我々は今その対応に取り組んでいます。

ブランドの知名度をどのように上げていきますか?

根本的には、ブランドは二義的なもので良いと考えています。いかなるショッピファイストアにも、我々はブランド名の掲示を求めていません。他の主要市場では、ショッピファイの名は口伝えでいち早く広がりました。日本ではそういかないかもしれませんが、それはそれで構わない。市場参入のための通常のマーケティングもやりません。例えば、毎朝山手線で通勤する人々のうち、一体何人が我々のターゲットになるでしょう。我々は実際に販売に従事する人、今後販売に携わる可能性が高い人たちに狙いを定めています。日本で長くビジネスを続けていくことを目標としており、一夜にしてナンバーワンのプラットフォームになろうとは思っていない。日本のほとんどのマーチャントは自らオンラインショップを開設することはなく、もっぱらプロバイダーとの関係に依存しています。ですから我々がそこに入ってマーチャントと関係を築ければ、効率的な成長ができると考えています。具体的にはミートアップのようなイベントに力を入れており、最近では12名のマーチャントとポップアップフェスティバルも開催しました。その際には、「ポップアップフェスティバル」の文字の50分の1の大きさで「powered by Shopify」という表記を入れました。これが我々のブランドに対する考え方です。

インフルエンサーは利用していますか?

日本でインフルエンサーを活用することは効果的なコミュニケーション手段なので、現在検討中です。ですが、日本ではまず「エージェンシーモデル」を理解しなければなりません。ショッピファイを宣伝してくれる日本の有名人やモデルはいるのですが、彼らをいかにインフルエンサーとして活用できるか、案を練っている最中です。まずはマイクロインフルエンサーや起業家たちの活用を考えています。その方が我々の考え方に近いので。

マイクロインフルエンサーはどのように貢献できますか? また、透明性はどのように確保しますか?

まだ日本での具体的なモデルを構築していないので、適切な答えはできません。もし彼らが気に入ってくれるのであれば、密な協働が可能です。ただし対価は払わず、情報も開示しません。しかし正式に支払いが派生する形で協働するのであれば、当然インスタグラムのルールに従って進めます。我々はインフルエンサーやアフィリエイトに関して、厳格な選考プロセスがあります。彼らは我々と根本的に考え方が同じでなければならず、大規模ネットワークではなくなぜ我々を使うのか、明確でなければなりません。ブランドを過剰に露出させないためにも、アフィリエイトと提携する理由を明確にする必要があります。

日本でビジネスをする上で難しいことは何でしょう?

我々は一定のペースで仕事をこなすことに慣れていますが、日本の特徴の1つは関係構築に時間がかかることです。そしてそれは、ロイヤルティなどの面で多くのメリットがあります。アイデア→実行→結果というふうに簡単にはいかないのです。時間をかけて関係を築くのが大切ですが、それが最終的にはより良い結果につながると思っています。

日本の社会情勢は変化しています。ショッピファイの展開に影響はありますか?

我々が目の当たりにしているのは、文化的規範の変化です。破壊されつつあるとまでは言わないまでも、大きく変化しつつある。もはやタブーではなくなったことがいくつもあります。これまでのキャリアを捨て、新たな事業に挑戦する人々もかなり増えました。チャンスを掴もうとすることが当たり前となり、多くの人々が様々な理由で起業家を目指し、ネット通販を利用するようになりました。その目的は旅であったり、異なる仕事に就くことであったり、敢えてリスクを負うことであったり、海外で働くことであったり……人それぞれです。買物の仕方や買うものに関しても、こうした(チャンスを狙う)傾向は広がりつつあります。彼らが気にかけるのは購入するブランドであり、ストアのオーナーであって、最も安いものを買うわけではありません。こうした潮流は、我々にとってコアバリューに合致したポジティブなものです。

ワング氏の回答は要約、編集されています。

(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳:岡田藤郎 編集:水野龍哉)

提供:
Campaign Japan

関連する記事

併せて読みたい

23 時間前

世界マーケティング短信:Cookie廃止の延期、テスラの人員削減

今週も世界のマーケティング界から、注目のニュースをお届けする。

2 日前

大阪・関西万博 日本との関係拡大・強化の好機に

大阪・関西万博の開幕まで1年弱。日本国内では依然、開催の是非について賛否両論が喧しい。それでも「参加は国や企業にとって大きな好機」 −− エデルマン・ジャパン社長がその理由を綴る。

3 日前

エージェンシー・レポートカード2023:カラ

改善の兆しはみられたものの、親会社の組織再編の影響によって、2023年は難しい舵取りを迫られたカラ(Carat)。不安定な状況に直面しつつも、成長を維持した。

3 日前

私たちは皆、持続可能性を前進させる責任を負っている

持続可能性における広告の重要性について記した書籍の共著者マット・ボーン氏とセバスチャン・マンデン氏は2024年のアースデイに先立ち、立ち止まっている場合ではないと警告する。