Staff Reporters
2020年4月01日

エージェンシー・レポートカード2019:電通

組織改革中の電通にとって2019年は、日本国内では比較的安定感があるものの、海外事業においては困難な一年であった。目下の課題は、インクルーシブな「One Dentsu」の文化を創造していくことだ。

株価データをリアルタイムに反映したコーヒー「NIKKEI BLEND」
株価データをリアルタイムに反映したコーヒー「NIKKEI BLEND」

我々は昨年、「イノベーションを日本以外のアジア太平洋地域でも実現できるかが鍵」と書いた。2019年の電通はその通りに着手した上、その姿勢は我々が想像したよりもはるかに野心的なものであった。新しい組織体制に備え、電通と電通イージス・ネットワークが「One Dentsu」戦略のもと、より密接に連携していくことを目指している。2019年は市場を新たな地理的クラスターで分け、新しいビジネスラインを創出するなど、国際事業で大きな変革が起きた。

電通グループは2019年度、豪州でのクライアント喪失と中国での業績悪化が大きな負担となり、アジア太平洋地域のオーガニック成長率はマイナス12.3%と苦戦。同社は特定のクライアントのアカウントについて獲得/失注を公表しないが、損失を埋めるべくインド、ベトナム、インドネシア、中国、台湾、香港などの市場で複数の案件を獲得するなど、地域をまたがる大手ブランドからの受注で健闘している。ニュー・ビジネス・リーグ(R3社)によると、電通の獲得件数は1年間で約2倍に増え、ランクも9位から5位へと上昇した。

電通はアドフェストとスパイクスアジアで44もの賞を受賞した他、エージェンシー・オブ・ザ・イヤー(アドフェスト)、アジア太平洋地域におけるエージェンシー・オブ・ザ・イヤー2位(スパイクスアジア)もそれぞれ獲得するなど、この地域においてクリエイティブを牽引する存在だ。

カンヌライオンズでは15部門で受賞し、中でも電通ウェブチャットニー(インド)が手掛けたSwiggy(フードデリバリーアプリ)の「Voice of Hunger」(動画参照)は3つの賞を獲得し、大変注目された。この作品はインスタグラムのボイスメッセージ機能を使い、音声の波形が食べ物の形をしたものを送信するよう呼びかけ、15万人以上が参加した。だが2019年のインドでの事業が順風満帆だったわけではなく、電通インパクトとそのクライアントであるVivo(スマートフォンメーカー)は盗作の疑いで、オグルヴィから訴えられた。

カテゴリー 2019 2018
マネジメント C+ B
クリエイティビティー B- B-
イノベーション B B
ビジネス成長 C+ B-
人材とダイバーシティ C B-

B: 電通は広告を超えてビジネスを展開し、新しい形での貢献をしてまいりました。ラグビーワールドカップ2019日本大会の成功の勢いは、2020年も続くでしょう。2019年は電通にとって、アジア太平洋地域における大きな変化の年となりました。電通はさらに一つのネットワークとして団結するよう歩みを進め、企業のブランド構築についての認識に変化をもたらすべく、イニシアチブをとってまいります。 

電通が長期的に目指すのは、広告を超えた広範なビジネス展開とパートナーシップである。同社はSXSW(サウス・バイ・サウスウェスト)で、テクノロジーを駆使した超未来体験型レストラン「SUSHI SINGULARITY」(画像参照)や、タバコの木を別の植物と「接ぎ木」することで植物の抵抗性や耐性を高めるプロジェクト、父親向けの授乳・寝かしつけデバイスなどを展示し、クリエイティビティーを余すところなく発揮した。他にも、株価データをリアルタイムに反映したコーヒー「NIKKEI BLEND」や、人工知能(AI)を使ってマグロの尾の断面から品質を判断する「TUNA SCOPE」、日本の有力アニメスタジオとクライアント(日野自動車など)をつなぐ「電通ジャパニメーションスタジオ」の設立などが記憶に新しい。笑えるような広告を量産する広告代理店として見られることの多い電通だが、TUNA SCOPEがただちに売上を急増させるものではないことも十分承知している。実際にはトヨタのMaaS(移動のサービス化)案件のように、インスピレーションと実現可能性の折衷的な案件がほとんどだろう。(なお電通は、トヨタの案件について、以前報道されたような縮小は無いと主張している)

SXSW(サウス・バイ・サウスウェスト)で展示された「SUSHI SINGULARITY」

2019年末にはクリエイティブのリーダー層も大きく変わり、クリエイティブのグローバルCEOのディック・ファンモットマン氏が退き、後任にアイソバーのグローバルCEOであったジーン・リン氏が就任した。その後、12月にはアジア太平洋地域のチーフ・クリエイティブ・オフィサー、テッド・リム氏が去り、エドムンド・チェ氏(ベトナム)とジョン・チャレームウォン氏(タイ)が後任に就いた。

同社グループは近年、クライアントワークの負担削減を余儀なくされている。2018年の働き方改革を経て、社員の労働時間は年間2,200時間から1,900時間に減ったという(もし本当ならば、一日の労働時間が8時間を切る計算になるが)。「電通ダイバーシティ・ラボ」のようなイニシアチブはいくつか存在するものの、ダイバーシティやインクルージョンの取り組みが広く知られるというわけではない。同社によると、国内の新卒採用人数は男女比が半々になったとのことだが、管理職に占める女性の割合はまだ十分高いとはいえない。

イノベーション
クリエイティビティーとテクノロジーの融合
新規事業開発

コカ・コーラ
ギャツビー(マンダム)
ゼネラルモーターズ
マイクロソフト
パナソニック
フィリップス
P&G
トヨタ
ヤマハ
東京五輪2020大会

(電通は主要クライアント10社を公表していない。Campaignは公的情報源をもとにリストを作成した )

「盛られハザード」

  • AR(拡張現実)やフィルターの使用を好んで使う電通だが、写真が意図せず加工されてしまう「盛られハザード」を取り上げたキャンペーンが、非常に大きな成功をおさめた。
  • 「盛られハザードの唄」には、自分の顔が豚や頭蓋骨、虹、喫茶店のロゴなどと入れ替わってしまった男性たちが登場する。
  • クライアントはギャツビー(マンダム)。本当の顔を見てほしいという男性の切実な願いをアピールしている。

(文:Campaign Asia-Pacific編集部、翻訳・編集:田崎亮子)

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