消費者金融会社がコミュニケーションに本腰を入れることは、(支払いを促す場合を除いては)それほど多くないもの。だが、本社を京都に構えるアイフルは本気だ。この業態にはさまざまな思いを抱く人もいるだろうが、同社のブランディング施策は特筆に価する。
アイフルは大地真央(女優)を女将役、今野浩喜(お笑い芸人・俳優)を板長役として起用したCMシリーズを、半年前より展開。一貫して「信じられる愛」を打ち出しており、今週はその最新作「結婚式」篇がリリースされた。
女将と板長のやりとりを、そのまま文字に書き起こしても面白さは伝わりにくい。だが二人の演技力やタイミング、置かれた状況、語られる文脈がすべて揃ってこそ、このCMの面白さや美しさが際立ってくる。最新作では、板長の結婚式で挨拶をする女将が「そこに愛はあるんか? 信じられる愛はあるんか?」と厳しい口調で問い掛ける。そして板長は「なぜ今、ここで聞く…?」と首を傾げるのだ。
また、前作「庭掃除」篇では、板長が弟子たちの庭掃除をやめさせる。「今、チョウチョが食事中や」というのがその理由。花の蜜を吸う蝶を眺める板長の後ろには、いつもの問いをいつもの厳しい口調で投げかける女将の姿。だが「今野、あんたには愛があるなぁ」と表情が和らぐ。蝶に配慮する姿から、教えてきたことがしっかり理解されているのを察した様子だ。
これまでに発表されたCMのシリーズは、同社のユーチューブ公式チャンネルから見ることができる。
このストーリーに、これ以上何かがあるのかは、視聴者には分からない。だが楽しませてくれるし、興味をそそられる。では、消費者金融会社が顧客に愛を与えてくれると、このCMを見た消費者は本当に信じるだろうか。ほぼ間違いなく、そんなことはない。だが、このようなサービスを受けようというときには、アイフルが思い浮かぶことだろう。
このキャンペーンがカンヌライオンズで賞を獲得する可能性はと問われれば、決して高くはないと言わざるを得ない。なぜなら、日本のCMに精通していない審査員にとっては、この作品はシンプルすぎる、あるいは抽象的すぎると映る可能性があるからだ。だが日本の消費者の心には何かを訴えかけるものであるし、現在放送されているさまざまなCMの中で好印象を与える作品だ。金融サービス会社がサービス内容を声高にとなえるのではなく、ブランディングを理解し、ユーモアや独自性を打ち出して人々の共感を得ようという姿勢が表れた、興味深い作品だ。
(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳・編集:田崎亮子)