David Blecken
2017年11月02日

カンヌライオンズ審査員の心を動かすCFとは

カンヌの受賞作品は、どのような要素が審査員たちにアピールするのか。米企業の調査結果をまとめる。

カンヌライオンズ審査員の心を動かすCFとは

広告代理店は毎年、膨大な予算と時間とを広告賞のために費やす。ピュブリシスやWPPといったホールディングカンパニーがその意味に疑問を呈し始めているのは、ご存知の通りだ。だが多くの代理店、そして特に独立系のクリエイティブディレクターにとっては、著名な広告賞を勝ち取ることはこの世界で名前と実力を認めてもらうことに直結する。

言うまでもなく、カンヌでグランプリを獲得するのは決して容易ではない。だが審査員がどういった作品を求めているかを明確に把握していれば、そのチャンスは最大限になる。広告分析を専門とするエースメトリックス(本社:米カリフォルニア州マウンテンビュー)はそれを解明するため、受賞作品の「感情的DNA」を分析する調査を実施した。対象となったのは2011年から2016年までのフィルム部門にエントリーした作品、2万5千本以上。何が受賞作品と非受賞作品の分かれ目になったのか、その違いをあぶり出した。

まず知っておくべき事実は、クリエイティブ面で審査員に感銘を与える作品が、必ずしもクライアントにとって最も効果のある作品ではないということだ。だがここではその議論は控える。興味をお持ちの方は、エースメトリックスのCEOによるコラムをこちらからご覧いただきたい。

以下、調査結果の要旨をまとめる。調査は決して完璧なものではないが、選ばれる作品の価値判断の材料にはきっとなるだろう。あるいは、あなたが既に抱いている思いがいっそう裏付けられるのかもしれない。

カンヌの受賞作品は、プロダクトを前面に押し出すような典型的な広告ではない。人々の注目は集めるが、必ずしもプロダクトに直接結びついていたり、その需要を生み出したりするようなものではない。

以下、カンヌの受賞作品を見た500人の米国の視聴者の反応を、多い順にトップ10で表した。視聴者は人口統計学的属性からバランスよく抽出している。

1.苛立たしい
2.不気味
3.楽しい
4.面白い
5.唐突
6.ユニーク
7.論外
8.ばかばかしい
9.奇妙
10.型破り

同じく、少なかった反応のトップ10は:

1.ブランドに寄り添っている(ブランドの特徴をよく物語っている)
2.価値がある
3.ためになる
4.信頼が置ける
5.家庭的
6.お得感がある
7.高級感がある
8.普通
9.分かりやすい
10.ビジュアル的(非常に洗練されている)

これらのランキングから、目新しさや驚き(良きにつけ悪しきにつけ)が、ブランドを肯定的に見たりロイヤルティを育んだりする感覚を上回っていることが分かる。逆に言えば、曖昧さと最小限のブランディングは作品を目立たせる意味で効果的と言えよう。

ユーモアと苛立たしさ、困惑、感動:これらはカンヌの受賞作品で最も大きな比重を占める要素だ。必ずしも1つの作品に、こうした要素が複数入っているわけではない。

ユーモアの効果はいつも高いが、それが全てではない。受賞作品の7%は万人にとって面白いものと定義できるようだ。だが、その20%を世間の人々は苛立たしいと捉えている。その一方で審査員は、こうしたアプローチがクリエイティブの限界を広げると考えるのだ。改めて言うが、広告というのは好感を持たれなくても良い。要は、注目を集めさえすれば良いのだ。その好例がこの作品になる。

「Family」(米自動車保険ガイコ、制作:マーティン・エージェンシー、2015年度グランプリ)

受賞作品の14%は視聴者を困惑させ、意味を理解するまで数回見直す必要があるという。次の作品は、2012年にグランプリを獲得した。

「Back to the start」(チポトレ・メキシカン・グリル、同:クリエイティブ・アーティスツ・エージェンシー)

また、2013年度のグランプリは:

「Dumb ways to die」(メトロ•トレインズ・メルボルン、同:マッキャン・ワールドグループ)

受賞作品の7%は感動を呼ぶという結果が出た。視聴者の涙腺に訴えたり、温かな余韻を残したりしたいのであれば、ブランドやそのプロダクトを現実的、あるいはオーセンティックな手法で作品の中に織り込まなければならない。そうでなければ、一切効果は期待できないだろう。ユニリーバの「ダブ」はその意味でいつも成功しているとは限らないが、これは成功例の1つだ。

「Sketches」(オグルヴィ・アンド・メイザー、2013年度グランプリ)

エースメトリックスは「ブランドは何を優先させたいのか、明確にする必要がある」と結論づける。純粋にクリエイティブなイメージを与えたいのか、それとも視聴者に感動を与えたいのか −− 両方を同時に成し遂げることは困難だ。だからこそ、広告賞はクライアントを欺くような広告作りを奨励していると批判されてしまう。クライアントが支払いを拒絶したり、公開すら拒んだりするような、明らかに賞を獲る目的の広告が増える土壌になるからだ。ただし、一風変わった嗜好を持つ特定のオーディエンス向けのニッチ・ブランドならば、カンヌの受賞は明らかにアドバンテージとなるだろう。

(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳・編集:水野龍哉)

提供:
Campaign Japan

関連する記事

併せて読みたい

1 日前

「ようこそ東京へ」 マイクロソフトの五輪期間キャンペーン

迷走に次ぐ迷走の末、とうとう開幕した東京五輪。この夏、日本への旅を楽しみにしていた海外の人々は推定100万人。そうした人々に向け、米国ではマイクロソフトが五輪期間限定のキャンペーンを開始した。

2021年7月23日

世界マーケティング短信:波乱に満ちた東京2020大会、いよいよ開幕

今週も世界のマーケティング界から、注目のニュースをお届けする。

2021年7月22日

2021年「アジアのトップ1000ブランド」

Campaign Asia-Pacificが毎年、ニールセンIQ社と共同で行う消費者調査「アジアのトップ1000ブランド」。18回目となる今年は、ランクインしたアジア発のブランドが史上最多となった。

2021年7月22日

B2Bの合理性とB2Cのクリエイティビティの融合とは

ブランドは、これまで以上に顧客を動かすものを明らかにし、適切な人々に最適なコンテンツを開発して、そのコンテンツを適切な時間と場所で提供し続ける必要があると、VCCPのB2B担当者は指摘する。