Jessica Goodfellow
2020年7月27日

コロナ禍は、ダイバーシティ推進のチャンス

コロナ禍の負の連鎖に苦しむのは、男性よりも女性の方だ。だがこのパンデミック(世界的大流行)は、包摂性やジェンダー平等を実現する好機にもなり得る。Campaign Asia-Pacific主催「Women to Watch」の受賞者たちが、各々の見解を語った。

コロナ禍は、ダイバーシティ推進のチャンス

コロナ禍は、世界の至る所の「不平等」を拡大してしまった。

パンデミックで大きな被害を受けたのはマイノリティーだ。感染者で特に多いのは、狭い地域で密集して暮らす低所得者層。これらの人々は医療へのアクセスが限定されているだけでなく、収入を断たれて家を失うケースも多く、貧困ラインを下回る生活を余儀なくされている。

ジェンダー差別に視点を移すと、コロナ禍で打撃を受けたのは男性よりもむしろ女性だ。解雇されたのは男性よりも女性の方が多く、介護の問題でも女性の負担が重いケースが多い。DV(ドメスティックバイオレンス)の訴えが世界中で激増しているのも憂慮すべき事態だ。シンガポールで女性の権利問題に取り組む団体「AWARE」によると、今年4月に受けた家庭内暴力に関する相談は前年同月比よりも112%増加したという。

「コロナ禍は予期せぬ事態を引き起こし、女性により厳しい試練を与えました」と話すのはインドの広告代理店「FCBウルカ(Ulka)」のCCO(チーフ・クリエイティブ・オフィサー)で、2019年の「Women to Watch」を受賞したスワティ・バタチャリヤ氏。

「男女格差は開いてしまった。女性の方が多く失職し、DVも増加した。さらに、失業者の増加で犯罪が増えると、都市は女性にとって危険な場所となり、女性は在宅を求められるようになるという観測筋もいる。インドでは、良妻は自分を犠牲にしてでも夫と子どもに尽くすという考え方があります。つまりコロナ禍で食べ物が不足すると、我慢を強いられるのは女性なのです。すでにインドでは、女性の半数が貧血になっているという恐ろしい統計が出ている。これまでの様々な進歩にかかわらず、我々は10年前の状態に逆戻りしてしまった」

広告業界にも、無論影響が出ている。通常ならばこうした社会問題を解決しようと取り組むブランドが、「財布の紐を締めてしまっている」というのだ。

「ブランドが大義を掲げた活動に力を入れ、声を上げるよう我々は仕向けていますが、予算が縮小し、生き残りに四苦八苦の状況だと活動は戦術的になってしまう。値ごろ感のある価格で消費者を呼び込みたい、と考えるのが精一杯。ソートリーダーシップ(企業が社会問題に解決策を提示すること)ではビジネスにならない、と判断するのです」

「我々がどのような役割を演じようと、変革を起こせると確信している。大きな変革は常に一人の人間が、自分の力を信じることから始まりますから」。こう話すのは、タイのLINEモバイルでCMO(チーフ・マーケティング・オフィサー)を務めるパバリサ・チャンビグラント氏。「財政面で大変な時期であっても、ブランドは社会的責任を放棄しないことが重要です」。

「ブランドとして、我々はコミュニケーションや顧客の扱いを丁重にすべき。派手な刺激的メッセージは売上げを伸ばすのに役立つでしょうが、社会を変革していく責任を忘れてはなりません」

さらに、「エージェンシーはクリエイティブの最前線。社会に対し強い影響力を駆使して、たくさんの『善』を行うことができる」とも。

「インクルーシビティ(包摂性)やダイバーシティ(多様性)を後退させるのではなく、前進させるコンテンツを発信して、社会に必要な価値観を広めることができるはずです」

こうした取り組みの際には、広告制作に関わる企業も社内的に多様性を確保していることが重要だ。女性管理職やクオータ制、メンター制度、アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)を除去するトレーニングの導入といったジェンダー平等のための施策を行っている必要がある。

では、コロナ禍が世界の様々な不平等の解消を妨げているとしたら、ジェンダー問題にはどのような影響を与えているのだろう。

Campaign Asia-Pacificが650人の読者を対象に行った調査では、「今年はコロナ禍の影響で、ジェンダー平等への取り組みが後退する」と答えた回答者は42%に上った。だが、「そうは思わない」という回答者もほぼ同数の40%。残りは「分からない」と答えた。

「コロナ禍は我々に、多くの重要な問題をじっくり考える時間を与えてくれたと思う。だが、ジェンダー平等の問題が優先されているかどうかは分からない」とある回答者はいう。

メディアエージェンシー「イニシアティブ・オーストラリア」のスタジオ責任者を務めるオリビア・ウォレン氏は、「コロナ禍でジェンダー平等の推進が妨げられていることは、とても悲しい」と話す。

「私の考えでは、コロナ禍がジェンダー平等を後退させたり遅らせたりする理由にはなり得ない。実際はその逆でしょう。企業は急激な変化を強いられており、今後1年間で働き方やその質は大きく変わる。だからむしろ今を、ジェンダー平等を一気に進めるチャンスとして捉えるべきなのです」

こうした意見を述べる女性は少なくない。彼女たちが所属する会社は未来の職場のあり方を見据え、男女双方に柔軟な働き方を提唱するなど、多様性促進の取り組みを今年になって加速させているという。

エクスペリエンスマーケティング専門のエージェンシー「ジョージ・P・ジョンソン」のバイスプレジデント兼MD(マーチャンダイザー)を務めるアンナ・パターソン氏は、「社内での多様性への取り組みは後退せず、むしろ増えています。在宅勤務によってチームの絆や業界のリーダーたちとの結び付きは強まり、パートナーや家族にとって重要な介護の問題もうまく機能している。我々皆がよりオープンになって、関係性も深まり、課題の明確化ができたように感じます」。

また、「女性従業員の方が男性従業員よりも在宅勤務にうまく対応している」とも。

「概して女性の方が男性よりも対応力で優れていることがわかった。社内調査で女性従業員の90%が『在宅勤務に達成感を覚える』と答えました。変化を受け入れ、うまく活用しているのです」

インターパブリックグループの「マターカインド(Matterkind)」でシンガポールとマレーシアの責任者を務めるラニ・ジェイミーソン氏も、「コロナ禍は何が本当に重要か、人々に考える機会を与えてくれた」と話す。

「社会的責任への意識が広がり、企業は既存の考え方を捨てて従業員の働き方を劇的に変えたり、柔軟性を取り入れなければならなくなった。こうした動きは平等や敬意、柔軟性を重んじるニューノーマルの確立に良いことです。すべての人々への意識や理解、サポートが増すことで、こうした意識は醸成される」

「コロナ禍は変革を起こす触媒だと考えています」と話すのはウォレン氏。「まさにそれに尽きるでしょう。アクションを起こし、ポジティブな変革にするか否かは我々次第です」。

旅行データマーケティング会社「ソジャーン(Sojern)」のAPAC担当ゼネラルマネジャー、リナ・アン氏は「世界の女性政治家たちのリーダーシップが、ジェンダー平等の議論を表舞台に引っ張り出した」と指摘する。

「デンマーク、フィンランド、ドイツ、アイスランド、ニュージーランド、ノルウェー、台湾……最近のニュースやデータは、これらの国々の女性リーダーがコロナ危機に適切な対応を取り、良い結果を残したことも証明しています」。ソジャーンには社内に、次世代の女性リーダーを育成・支援する組織がある。「外的な影響を受けず、多様な人材の供給源を確保するための効果的な手段です」。

イニシアティブ・オーストラリアでクライアント・アドバイスとマネージメント担当ディレクターを務めるマディソン・キーオ氏は、世界が依然パンデミックと景気低迷に直面している今、「マイノリティーや女性はもう少し声を上げる必要がある」という。それでも、「世界はこれまで以上に団結し、不平等の問題に取り組んでいくはず」と確信する。

「この数カ月、すべての人々の平等に関する議論や報道が世界レベルで繰り返されてきた。黒人の命であろうが、LGBTQIや女性の権利であろうが、万人の平等を実現するためにコミュニティーや職場、家庭、国のレベルで何が変わらなければいけないのか、人々はこれまで以上に真剣に考えています。女性たちは断固とした姿勢を取り、お互いをサポートしていかねばならない。女性の幸福を求める団体を支援したり、権利を守る取り組みに参加したり、そうした活動の先駆的役割を果たしてきた女性を讃えたり……こうした行動を取っていくべきでしょう」

メディアプラットフォーム「テッズ(Teads)」でラグジュアリー部門のAPAC責任者を務めるケイティー・ポッター氏は、女性アスリートを支援するナイキや米女子サッカーリーグのスポンサー探しにひと役買ったバドワイザーを例に挙げ、「今こそ広告主が声を上げ、様々な問題を提起しなければならない」と話す。

「まだ道のりは長い。でも、現在の一歩一歩の積み重ねの先にある未来を我々は見据えています。私はいつも前向きに物事を捉える。正しい方向に社会が変化し続けていくと確信しています」

(文:ジェシカ・グッドフェロー 翻訳・編集:水野龍哉)

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