David Blecken
2019年6月25日

スポーツファンの枠を超えて:DAZN新CMO

先月、DAZN(ダゾーン)のCMOに就任したバッソー陽一郎氏。放映権のないスポーツイベントも活用し、幅広いオーディエンスの獲得を目指す。

バッソー陽一郎氏
バッソー陽一郎氏

英パフォームグループのスポーツ動画配信DAZNが日本でサービスを開始したのは2016年。もっと手軽にコンテンツを楽しめるようファンの「権利」を拡大し、国内市場を一変させる −− そんな構想をうたい上げた。

熱心なスポーツファン(日本では野球と、それに次ぐ規模のサッカーファンを意味する)はこの方針を好意的に受け止めた。DAZNは契約者数やその目標を公表していないが、PR責任者の松岡けい氏は「サービス開始から1年で100万人に達し、その後は順調に伸びている」と話す。

同社のマーケティングへの取り組みはこれまでJリーグと米大リーグ、そして日本のプロ野球に大きく依存してきた。だが新たなSVP(シニアバイスプレジデント)兼CMOに就任したバッソー陽一郎氏は、「これらのリーグの熱心なファンでなくても、定期的にスポーツ中継を楽しむ層に向けたコンテンツはたくさんある」と話す。サッカーのイングランド・プレミアリーグからF1まで、その内訳は幅広い。

「我々が目標とするのは、全てのスポーツのニーズを満たす単一のプロバイダー。時折スポーツ中継を楽しむようなユーザーを含めれば、この市場は実に大きいのです」。今後は女性や最若年層、そしてスポーツにあまり興味を持たない層の取り込みを図っていく。

こうしたアプローチは日本人のスポーツへの関心を高め、「スポーツをより身近なものにする」(バッソー氏)だろう。DAZNの本社がある英国ではスポーツが市民の生活に根付いており、日本とは文化的に市場が大きく異なる。先週、同社は東京の若者文化の中心である渋谷にスポーツバー「DAZNサークル」をオープンした。スポーツバーというラフなイメージとは異なり、ミニマリスティックなカフェを思わせるスペースで、バッソー氏と密に連携する松岡氏は「消費者とのタッチポイントを増やす取り組みの一環。少なくとも1年間は営業していきます」と話す。

「これは、ライフスタイルブランドとしてのDAZNを明確に打ち出す初の試み。我々が目指す多元的ビジネスへの第一歩です」(バッソー氏)。DAZNサークルはPRツールとしてだけでなく、新規契約者を獲得する場としても活用していく。

更にユニークなのは、Jリーグとの協働だ。試合会場にもっと足を運んでもらおうと、金曜夜の開催を日程に組み込んだ。「既存の放送局ならばこうした集客目的の取り組みは行いません。我々が他のメディアと異なる所以です。Jリーグとは密に協働しています」と松岡氏。

その一方、DAZNは東京五輪・パラリンピックの放映権を所有していない。ラグビーワールドカップに関しても8・9月に行われる練習試合と、大会中に試合終了後のハイライトを放映するだけだ。にもかかわらず、バッソー氏はこれらのイベントを「DAZNにとって大きなチャンス」と位置付ける。「スポーツへの関心が急速に高まってくれれば、我々は間接的に恩恵を受けますから」。

「我々にとっては、放映権を獲得して配信することが全てではない。人々の間に莫大なエネルギーや熱気が生まれ、日本が世界の注目を集める時、その『お祭り』にどのように参加するかがより重要なテーマなのです」。

日本のアスリートが世界の舞台で好成績を上げれば、「契約者数は間違いなく増える。こうした活躍を更に盛り上げていくのが我々の戦略の一環」。

バッソー氏が国内で統括するマーケティングチームは約40人。予想以上の規模だ。DAZNは現在世界9カ国で展開し、アジアでは日本だけ。都内には300人ほどのスタッフが常駐する。同社の存在感にひと役買っているのはステークホルダー(利害関係者)である電通だ(DAZNは当初はエッセンス、オグルヴィと協働していた)。

元AKQAのマネージングディレクターで、自身もスポーティーなイメージを醸すバッソー氏。転職を決めたのは、「スポーツのエクスペリエンスを変えられる」ことと「成長力を秘めたDAZNの革新的ビジネスモデル」に魅力を感じたから。

同社も「変革の推進者」としての立場を自覚しているようだ。オフィスの受付には(19世紀の日本が開国するきっかけを作った)ペリー提督の黒船の絵が掲げられ、昨年はこの歴史的エピソードをベースにしたコミカルなブランドキャンペーンを展開した。以前はサンフランシスコのウーバーテクノロジーズに勤務していたこともあるバッソー氏。「国内には既存の放送局が築いたシステムを打破したいという欲求がある。そのためにも、スポーツとテクノロジーの本質的要素が変わりつつある今の時代を体現していきたい」。

今後はスポーツをライフスタイルのエンターテインメントとして提供するため、「試合前のアスリート個人やチームに焦点を当てたコンテンツを増やしていくことになるでしょう」。消費者はこれまでDAZNが日本市場でどのような役割を果たすのか「懐疑的な目で見ていた」(通常、日本人は海外企業に対してそうだろう)が、確実に浸透を果たした。Jリーグとの放映権契約は10年に及ぶ。

「我々の活動は全てこうした(長期の事業展開という)哲学が基本です」。マーケティング予算に関してバッソー氏は明言しなかったが、「目標を達成するのに十分な幅広い予算がある。大胆な戦略も積極的に推し進めていきます」。これからは幅広いスポーツファンに向けた取り組みを増やすので、「ユーザーがデジタルメディアと既存メディアに費やす時間の比率は変わっていくでしょう」とも。

「今後は似た目標を掲げるスポーツのプロバイダーやライススタイルブランドなど、志を同じくする人々と一緒に仕事をしていきたい。日本の市場を尊重しつつ、より頻繁にコラボレーションを行っていきたいと考えています」

(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳・編集:水野龍哉)

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