David Blecken
2019年5月07日

ゾゾとサムスン、「誇大宣伝」の代償

両社が演じた大きな失態。ブランドによっては、名誉挽回が困難なケースがある。

ゾゾとサムスン、「誇大宣伝」の代償

誇大な宣伝はいかに危険か −− ゾゾとサムスンが直面したトラブルは、この教訓を雄弁に物語る。

サムスンは折り畳み式スマートフォン「ギャラクシー・フォールド」の発売延期を余儀なくされた。2000米ドル(22万円)近いこの新製品のレビュー機に不具合が見つかったからだ。次いで先月25日には、ゾゾが海外事業からの撤退を発表。大々的に宣伝したオンラインの採寸サービスが大きな不興を買った。

電機大手と、海外では無名ながら世界市場を狙う新興企業。両社にとって今回の一件は大きな打撃だ。ゾゾは消費者の衣服の購入方法を一変させ、ユニクロのような世界的メーカーになることを夢見ていた。

サムスンは他社に先駆け、一般向けの折り畳みスマートフォンを発売することでイノベーションの高さを誇示しようとした。だが、あまりにも急ぎ過ぎた。ブルームバーグの批評家はフォールドのような製品が「市場でもほとんど需要がない」とし、「高価ながら、スマートフォンとしてもタブレットとしても顧客体験は劣悪」と酷評。「スクリーンプロテクターらしきもの」をはずすと使い物にならなくなってしまう機能面の欠陥は、より深刻だった。同社はフォールドへの予約をキャンセル。どうやら市場には出回らない模様だ。

ゾゾは昨年も採寸用の「ゾゾスーツ」を大々的にPRし、苦境に陥った。このスーツは実際に店舗を訪れなくても廉価でオーダーメイドのスーツやカジュアルウェアが購入できるという触れ込みで、小売業界の未来を示唆し、同社の海外市場における成長を牽引するはずだった。ところが物流面で大きな欠陥が判明。消費者は商品を受け取るまで長い間待たされ、しかも多くの商品が「他の安い既製服と比べても体にフィットしない」という苦情が寄せられた。

掲げた目標は高かったが、結果として実現化があまりにも難しかった。報道によればこのトラブルで、前澤友作CEOは資産を7億米ドル(770億円)損失。今週、同氏は保有していた美術品の一部を売却し、「金欠になった」とのニュースが飛び交った。

ゾゾは先月後半、顧客向けに通知を出し(Campaignのジェニー・チャン記者が受領)、欧米及びアジア太平洋、中東地域の店舗を閉鎖し、7月末までに全ての個人データを消去すると言明した。Campaignはこれに先立ち、ゾゾのスポークスパーソンに今後の海外展開に関する質問を送っていたが、回答は得られなかった。

こうしたエピソードから浮き彫りになるのは、テック業界が失敗にどのように対応すべきかという課題だ。マーケターは重圧を受けつつ、これまで不承不承その後処理を行ってきた。「イノベーションに関しては必ずしも『先発者優位』ではなく、全ての顧客のニーズを満たした先発者こそ優位に立てるのです」と話すのは、シンガポールのブランド構築コンサルティング会社コーワン(Cowan)のチーフエグゼクティブ、ポール・ゲールスルート氏。

だが同氏は、ブランドの認知度や顧客の信頼度という点でこれら二つのブランドが与える影響には大きな違いがあるという。「サムスンは既に確立されたブランドであり、好感を抱く消費者は多い。この事実はブランドの信頼をつなぎとめるために有利に働きます。かたやeコマースブランドとして海外で成功してきたゾゾには、そういう感情を抱く消費者は多くいません。よってロイヤルティは期待できない。愛する人に嘘をつかれても、あなたはおそらく許して水に流すでしょう。しかし見知らぬ人に嘘をつかれたとしたら、その人を理解しようと努めますか?」。

「信頼性を築く機会のないスタートアップにとって、失敗は危険」。アイソバー・シンガポールのチーフエグゼクティブ、プラカシュ・カムダー氏も同意見だ。「ただし顧客に対し、発表する製品がまだ初期段階で、品質を高めるためにフィードバックを求めていると事前に広く告知するのであれば別の話です」。

だがたとえ告知をしたとしても、それが緩衝材となる保証はない。その好例がofoのような数多くの自転車シェアリング会社だ。マーケット調査やサービスの向上を怠って事業拡大を急ぎ、結果として危機的状況に陥った

ゾゾは結局、PRを成功させたがゆえに墓穴を掘ったと言える。世間に過度な期待を生み出し、能力を超えるサービスの提供を約束をしてしまった。「注目度の高さは高いリスクを伴います。ですから、市場に出す製品には企業が十分な自信を持っていなければならない」とゲイルスルート氏。

同氏は、失敗を乗り越えた企業の例としてテスラを挙げる。「そのビジョンと資本力が功を奏したと言えるでしょう」。グーグルも「グーグルグラス」で失敗したが、ダメージは小さかった。派手な宣伝にもかかわらず、多くの人々が「驚くべきイノベーションではなく、まだ欠陥があるプロトタイプと捉えたから」という。

だがゾゾに関しては、「国際的ブランドとしての信用を取り戻すのは難しいでしょう。宣伝していたサービスが事業の中核を成していましたから」。それでも、「地域や興味の対象を絞って、新し物好きの顧客層に改めて訴えかけることはできる。それには新たなブランディングが必要でしょう。スタート時の強力なアセットは既に否定的イメージを生んでいますから」。

「再興の鍵は、製品・サービス面での課題に真摯に取り組むことです。ただ派手な宣伝を繰り返すだけでは、更に傷口を広げてしまう可能性がある」

サムスンにとっては、今回の失敗を克服することはゾゾよりたやすいように見える。2016年に「ギャラクシーノート7」の発火事故が各地で相次いだ後も、サムスンのポジションが揺るがなかったことは記憶に新しい。だが今回の経験で、経営陣は新製品の発売に関して再考を迫られるだろう。

「多くのブランドは誇大な宣伝をしません」とカムダー氏。「これまでの例を見ると、期待はずれの製品が生まれる要因は企業の経営陣にある。製品を一刻も早く市場に出したいがために、開発チームに十分な時間的猶予を与えず、大きなプレッシャーをかける。確実な技術革新を遂げるための十分なテストができないのです」。

ではブランドは多くのビジネスリーダーたちが言うように、今後も失敗に耐え、失敗から学んでいかなければならないのだろうか。おそらくそうに違いない。だが製品やサービスが広く普及したときに備え、舞台裏でマーケティングコミュニケーションの知恵を絞っておく必要があるだろう。「失敗から学べるときにのみ、失敗の価値がある。致命傷になる失敗では元も子もありません」(ゲールスルート氏)。

(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳・編集:水野龍哉)

提供:
Campaign Japan

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